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「帰ってきたようだ」
拠点、ベースっていうか家もできたし、いったん中に入ってみようかと私がうきうきしていると頭の上からミハルの声が降ってきた。ミハル、そんなに気に入っちゃったのか、私の頭の上に顎を載せるような格好から離れてくれません。重くないし、制作過程をただ見てただけで不便でもなかったから放置してるけどね。これってどうやって歩き出すつもりなんだろう。
……おっと。帰ってきた?
衣擦れの音、着地の音が聞こえるから、できるだけ首を動かして後ろを見る。うん、ミハルすごい。ケルンとライたちがほんとに帰ってきた。着地の音より早く気が付くとか、なんなの気配ってやつなの?
「お帰りなさい」
「ただいま、カナ。あぁ、拠点ができたんですね」
「お帰りっていいね、カナ。もう中に入れるの?」
「というか、ずいぶんとでかいな。人数分の部屋があるってことか?」
「ナーナ。そろそろ僕とも手をつないでくれませんか? 母上を相手に黙っていれば、ずっとその体勢ですよ? ナーナが要求しない限り」
「それはそうだろうな。愛し子よ。今帰った」
「はい、お帰りなさい」
もう一度みんなに返事をしておいてから、ユーリの忠告どおりミハルの手を外すように仕草で訴える。とんとん。軽く、首っていうか胸の前で交差されていた手を叩くだけでいい。だってミハルは、私の嫌なことはしないから。
短いあいだにずいぶんとミハルのことを信用したなって思いつつも、すぐに外された腕に笑う。そのまま手をつないでくる素直さにも。
年をとっても子供じみた動きがおかしくないって、かわいらしい人だよね。ミハル。
「笑っている顔が一番似合う。カナ」
「ナーナ、もしもよかったら僕にもそうやって笑いかけてくださいませんか?」
するりと反対側の手を取ったユーリのお願いにはちょっとだけ引きつるものの、できるだけスルーしてみる。ちこっとだけ笑いかけて、家の中に入ってみた。ひんやり。
思った以上に涼しくて、風が通る。気持ちのいい場所。
あぁ、ほんと。想像以上に理想の家だ。だって中庭に歩いて出られる。
トルコとかスペイン風、なんだろうか。中庭があって、廊下っていうか回廊があって個室がつながってる。私たちが入ってきた玄関からはすぐに台所兼居間っていうか、広い部屋が展開されてて、はいはい、その奥が水回りね。
砂漠のど真ん中に水回りとか、考えたら発狂しそうになるけど窃盗はダメだって私、主張したもんね? 水の購入先とかそのあたりは信じていいと思う。排水処理とかね。
現代日本のトイレに限りなく近い水洗トイレ、タイルが綺麗なモザイクを描く広い浴室。給湯もしっかりしてるのかな。きちんとお湯とお水の蛇口がある。どこから水を引いてるのって、そんな場合じゃないけどいっそ笑いたくなるのをぐっと我慢した。頭がおかしくなりそう。
チートって、たった一人でもいたらお話のバランスが崩れちゃうんだって、しみじみ思う。ある種の状況異常、バグだ。ゲームなら使用できないね。お話でも。
だって、このお屋敷を作るときもそうだったけど、鍵が扉を閉めるのって普通なら五年くらいはかかるって言ってた。それが、ケルンとユーリの全面バックアップなら何か月か、で済むんでしょう? それって、じゃあ、人間の努力の価値はどこに行くのさ。
両想いだよ、好きだよ、好きだ。って冒頭で言い合っちゃう恋愛モノなんてある?
魔王を倒すのにオーブが必要なんです、ここにあるけど。なんて言っちゃう冒険ものなんて聞いたことがない。
何でもアリな小説なんて、誰が読みたいかっていうのよ。
個室をざっと見て回って、それでおうちの探検は終わり。まだ家具も何も壁紙でさえ貼られていない内装をぐるりと見回した。なんせ砂漠の真ん中の仮拠点だ。手をかけてもらうのは迷惑……っと、違うや。ここは確認しないと、なんだよね。だって一回、注意されたじゃん。
「内装とか家具についてイロイロ注文するのは、どの程度から迷惑かな」
「まさか」
「支度金ならもらってきましたし、大きな買い物用の割符もいただきましたよ。宗主殿のお金が嫌なら私たちがなんとかします。喜んで」
「カナのうれしい顔が見たいんだ。だからお願い、むしろ僕たちに、たくさんお願いしてね?」
「学習能力もあるのか、我の鍵よ。喜ばしいな」
「ナーナのお願いなら母上も僕も、どこまでだって全力でかなえてあげたいです。うれしい。ようやく甘えてくれるんですか?」
…………思った以上に、全員が私にだだ甘いのはどうしてでしょうか神様。っていうか私が一言しゃべるたびにこの状態になるのはそろそろ疲れるんだけど。無口キャラはいないんでしょうか設定の神様。……設定の神様って。あぁもう、さっきから考えてるチートの存在といい、ここが小説とかゲームの世界だって認識、そろそろ無くさないといけないね。なんかの折にひょいって出たらやばすぎる考えだよ。痛いっていうかさ。
手をかけさせられるのが迷惑かどうかは、彼らが判断する。
私は、そう教えてもらった。だから確認してみたんだけど。なんだこの甘やかされっぷり。溺愛っていうか、そろそろ真面目に溺れそうな好意だなぁガチで。
ほんと、逆ハーレムそのまんまだ。
ミハルなら笑い飛ばすだろうけど、こんな都合がいい展開がリアルだとか、どこをどうしたら信じられるんだろう。命の危険性がないとか現実でならあり得ないよね? この境遇でさ。っていうか、そもそも龍とか自己紹介されちゃってるし。…………龍っていえば、彼らは龍体に変身したりできるんだろうか。ネバーエンディングストーリ―みたいに乗れる?
なんて関係ない考えはしまっておいて。
にこにこ笑っている彼らと拠点を見て回りつつ話し合って、誰がどこの部屋にするか決める。私の部屋は水回り方向とは逆の、玄関から見て右奥の部屋にした。まぁね、当然ミハルと一緒になるんだけど、それが嫌じゃなかったっていうね。これ、地味にショックかも。私、自分でもちょっとどうかと思うほどの人見知りだったんだけどなぁ。もう慣れてきてるのか。顎乗せのときも思ったけど。
ってーか、どうしてだか、彼らが何かを期待するように私から目を離さない。んぅ? なに?
「ナーナ。ナーナの好みの内装を指示してください。中庭には何を植えますか? 樹木にしますか? それともお花? 背の高い方が好きですか?」
「それより、壁紙と床材だよ。どんなのが好き?」
「家具も必要だ。忙しいな、カナ」
「うん、うんわかった」
面倒だから帰る、と言いかけて続きを飲み込む。
きっとミハルが聞けば悲しそうな顔をするから。
「壁紙は白。床はこげ茶、……っていうか、今も壁紙は貼ってないつくりだけどこのままでいい。この雰囲気が好き。シンプルでくっきりしたコントラスト、好きだよ。だから、もしも私のわがままで今回の内装を決めるっていうなら、全館これで統一してて、ドアから向こうの私室は好きにすればいいんじゃないかな? あ、部屋の入口に名前を書けばいいのか。私の使う文字はわかってもらえたっけ」
「召喚陣に翻訳の呪が入っていたようだから、大丈夫なんじゃないか? いや、カナ。これはお前の深層意識を読み取って作りはしたが、多分に私とユーリの好みも入ってるんだ。だからここからはカナの好きなように変えていいんだぞ? だいたい、どうせ私もユーリもケルンも中庭か外で体を伸ばすんだしな」
「は?」
ちょっと、どこからどう突っ込もうか。言葉がわかるのって鍵認定……あ、そういうこと? あの陣を通ったから、翻訳関係もクリアしてるんだ。ん、……うん、お兄さんたちの言葉までわかったってことはかなりアバウトな指示してる魔法なんだろうな。言語の共通認識、くらいの。
で、次はなに? 深層意識? 読み取られた?
「っあー、……深層意識、か? それはな、カナの……なんというか、記憶を、龍の力で持って顕在化したというか。私たちにカナの記憶は伝わってない。それは断言する。……ふむ。何と言えばいいのか」
「……母上の言ってることは理解してもらえますか? ナーナ。今までも僕たちがナーナのためにさせてもらっていたことは、僕たちの力を使って、ナーナを居心地良くさせてあげたい、くらいの意味なんです。ナーナの気持ちは、あくまでナーナが僕たちに伝えようとしてきたことだけしかわかりません。これまでも、これからも」
「愛し子よ、龍だからこそできるやり方で、お前は常時守られている。カナの心はカナだけの物。そこらあたりはな、信用してやってくれるか」
…………人外トリオは私の疑問に的確に答えてくる。いつだって。でも、じゃあそれはどういうことなの。どうしていつも、疑問とかしてほしい事とか、ここまで汲み取ってもらえてるの。
「……あのね、カナ。カナが自覚してる以上に、カナの顔に、考えてること、全部、出てるから」
「ええ。人の感情など理解できないと思っていた私ですら、カナの気持ちや疑問を追いかけることはしごく簡単です。危なっかしいくらいにだだ漏れですよ?」
「まぁ、付け加えると、その手の顔色を読む作業に慣れてる人間たちが集まってるってことも言えるんじゃないか? お前が、感情を出しすぎだってこともあるが」
……あ、そう。…………そう? 私、気持ちを外に出してる? なんなの、丸わかり? ほっぺに書いてるレベル?
「……カーナ。だから、そういう風に『書いてるか?』なんて思われてもな。書いているも同然だ、としか。……で、もう聞きたいことはないか? あぁ……ユーリと私の休憩の取り方か。ふむ」
…………やだ、本当にきちんと読み取られてるわ。うーわ、どうしよう。
どうすればどうしよう逃げられる……や、うん。棚上げ棚上げ。ぺぺーい! の呪文だ。
んでもってしょうがなく、確かにそれも気になってたから確認すると、やっぱり人外トリオにとってこの拠点は狭すぎるようで。だから外で休む発言になったらしい。
……同室の意味はあんの? それ。
チートについての考え方は、要ちゃんのモノです。私は、これはこれでアリだと思いますし、なんというか、面白いジャンルだとも思います。
だから書きたいし、書いてるつもりなんですけどね。コレで。




