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17.

うぅ。うぅぅぅぅぅ。

 壊れたあとで顔をさらすタイミングって、ものすっっごく難しいよねぇ。

 っていうかねぇ、マジで、ガチで、ここから逃げたいよね。穴掘って潜るとか。


 「さて愛し子よ。そろそろそのかわいらしい顔を見せてくれないのなら、また私が目元を冷やしてあげてもいいのだが」

 「恥ずかしがるナーナはとてもかわいいです。いっそ、ずっとこのままでも僕は構いません」


 どこかうっとりした声で私に告げてくる龍二匹が怖いです。先生。


 えいやって覚悟を決めて、恐る恐る毛布の端っこから顔を出した。ひぃぃぃ、全員分の生温い目があるよぅ! どこ見てもぐるり全部がいたたまれないよ!!

 毛布をもう一度かぶりたくなるのをこらえきったのは、ただの意地だけど。どこからこんなに強い意地が湧いて出てきたのか自分でもわかんない。顔が、どころか爪まで赤い。

 私、ほんと、何回赤くなれば恥をかかずに済むようになるんだろう。


 「お前が鍵で、俺たちが守護者だと理解したところで、カナ。扉を閉めに行くか?」

 「それもいいですが、ケルンの言葉を借りるなら長期間の旅になる可能性もあるんですよね。拠点が欲しくないですか?」

 「……っていうか、支度金が必要だよ。ここの地図、装備、カナの洋服だって揃えてあげたい」


 私の、赤面を通り越して赤い体に突っ込まないのは、お兄さんたちが大人で優しいからだ。それに助けられるようにして顔を上げて……あ、ほんとだ。確かにイロイロ欲しいかも。着替えとか。汗臭くなってるから着替えとか。大事なことだよね。

しかして旦那さま方よ。何をするにも世の中ゼニですぜ? ってなぁ真理ですぜ?

ぜ?


 「……なるほど、拠点か」

 「僕がナーナの服を選んでもいいんですか?」

 「金か。……ふむ、持ち合わせておらん」


 そりゃそうだ。っていうか人外トリオが金目の物を持ってたらそっちがびっくりだわ。……っあー、でもおとぎ話の龍だと宝物が好きだから、持ってるかも、だけど。


 「……というか、なんだ? 金は持ってきておくべきだったか?」

 「金とはなんですか? もしかして人間の持ってくる金色のモノですか?」


 ……二回目だけどそりゃそうですよね。私の当初の願望とは違って、これってどうやら夢とかファンタジーじゃなくて、どこまでいこうが非現実的な現実だもんね。しつこいけど、これが長い夢じゃなかったらね。

 衣食住全てに困らなそうな人外が、お金の概念を知らなくても私は驚かん。驚かんぞ。


 「……そういえば俺らも持ち合わせはないな」

 「急な召喚でしたからねぇ」

 「護符とかならあるけど……異文化でしょ? 売れるのかな」


 売れるか、ではなくて、売ってもいいのかな、じゃない? ブックロゥ。

 たき火を囲んで丸くなってる人みんなで、はてなの顔をしてるのはかわいかった。龍の言い分じゃないけど、はは、かわいいな。


 「ね、王様に会いに行こうか」


 だから私も腹をくくる。発端が私で、こんなことになってるのも私がややこしいことに巻き込まれてるから。せめてお兄さんたちは速やかに、元の世界に戻してあげたい。

 そうでなくても、迷惑しかかけてないんだし。誰にとっても快適な場所に必要なのがお金なら、私を必要としてる王様がそれを出すべきでしょう。


 「……ああ、……いや」


 なのに私がそう説明した途端、他の6人は(いや人じゃないのも混じってるけど)、ものすごく嫌そうな顔をした。眉間っていうか鼻にしわを寄せてる。

 んん? なんかまずかったかな?

 冷静に考えてみよう。ご都合主義をどけて……ははは、この事態そのものがご都合主義の塊なのにね。そこを抜いたら思いっきりギスギスしそうだわ。


 「王様が、この世界のどこかにある扉を私に閉めてもらいたい。自分のいる場所に滅多に該当者がいないからって、よその世界から拉致までしても。……施錠自体は、可及的速やかにして欲しいのかな」

 「そうだな。層のほころびからは魔獣が吹き出し、人間が吸い込まれ、人心が荒廃する。人の王もどきとしては早めの決着を求めるだろう」


 ちょ、ちょいとさぁ、そういうのは早めに教えてよケルン。ほころびって、そんな呑気な言いかたしちゃダメじゃん。けっこうオオゴトじゃんよう。


 「ありがとうケルン。だとしたら、召喚したはずの鍵と守護者がいなくなっちゃった場合、王様としてはすぐに再召喚するの?」

 「……ふむ。鍵は、呼び出されてしまえば仮定着する。一つが消滅せねばさらにもう一つは呼び出せぬ」

 「……あ、そう」


 つい平坦な声になっちゃたけど許して欲しい。だってそれつまり、私が王様にとって不都合な鍵だった場合、私を殺しちゃわないと新しい鍵が呼べないってことでしょ? 

 ……今の状況って、私が思ってるより大変なんじゃない?


 「我の結界の中にいるので、王もどきとしては現在、召喚が成功したのか失敗したのかも不明であろうな。ミハルがカナと守護者を乱暴に移動させたゆえ、王もどきに反動が来ているだろうし。されば、体調が戻り次第に陣を調べ、カナを捜索し始めるのではないか?」


 おおぅ。捜索かぁ。犯罪者並み……ていうか、私とお兄さんたちが草原に出たのってミハルのせいだったのか。

 じゃねぇよ。なに言っちゃってくれてるんですかねケルン。捜索ってわりと大事になってない? すぐにでも王様のところに顔出した方がよくない? もちろん、もちろん私のことを思いやってくれて、そんでもってみんなが私のことを気遣ってここにいて、ぬくぬくしてるのが私一人だってことは感謝してるよ。ていうか土下座ものだ。世界の都合より私の心の平穏を取ったってことだもの。

 そんなにしてまで、私を大事にしてくれる意味があるのか、ほんの少しだけ疑問だけれど。


 「ケルンもミハルも……えっと、みんなも。やっぱり、今すぐに王様に会いに行こう」

 「…………」


 話しかけてすぐに返事が、それも全員からなにも返ってこなかったこととはこれが初めてだ。そんなに頭の中がお花畑な提案なんだろうか。えっともしかしてソッコーで殺されちゃう展開なの?

 そしてそろそろ突っ込んでいいかな。人外の誰もかれもが『王もどき』って言ってること。王様は人間の国の領主のトップ、なんでしょう? 国の一番、だよね? 『もどき』って、どうして?

 ……あぁ、待って、まって。人の国は一つだけなの? どうして層の破れ目を修復するって役目を、王様が担ってるの? 世界だの層だのと国って単語が混在してる会話の意味が分からない。


 「…………層のほころびは、世界のあちこちでおこってる? 国限定のイベント?」

 「……ふむ。……カナのいた場所には宗教は特定の物しかなかったか?」

 

 ケルンが、これなら答えられるとばかりにぱたりと尻尾で敷物を叩いた。宗教? ……うん?


 「特定かぁ。ちょっとややこしいんだけど、うーんとねぇケルン、私のいた世界にはいくつかの大きい宗教があって、まったく別個での土着の信仰が無数にあるって感じ。特に私のいた国ではかなりの自由度があるね。衣食住や身分、信仰にも制限はない」

 「…………ならば理解できぬかもしれぬが……。こちらにはあまり信仰の自由というものはない。主教には一つの大きな主流があり、いくつかの傍流がある。さらに別の教義を持つものもあるが、こちらは細々としていて省けるほどには些細な流れだ」

 「う、ん」


 世界の三大宗教のうち、キリスト教、あと仏教を思い浮かべる。残念ながら私程度じゃ、流派が分かれてるようなほかの宗教は知らないから。

 ええと、うん、世の中に仏教かキリスト教か、一個しかない場合を想像すればいいのか。……シンプルな価値観になりそうだなぁ。


 「このうち、主教の主流を占める教義の宗主が王となっている国がある。建前として政教分離、内政にも当たり前のように不干渉を公言しているが、そも、宗教というものは生活に根を張る。この層にある各国のうち、影響をかぶらぬ国も無かろうよ」


 つまりキリスト教一択しかない世界でのバチカンか。仏教だと……あ、ちょっと無理だ。例えが見つかんないわ。じゃあ想像はキリスト教一本で……って、おい。

…………おぉぉぉ? なんという嫌な前振り。


 「そうして、世界を世界たらしめている層の管理は宗主の収める国が行う。……カナ。我は層の破れ目、綻びは、何百年単位で訪れると言った。覚えているか?」

 「ん、うん」

 「それはな、この大陸に限ってのことだ。他の場所ではもっと頻繁にほころびができるらしい。我はこの地の精霊ゆえに滅多と他の大陸には行かぬが、知らぬわけでもない」

 

 …………そう、か。他にも大陸があるのか。ってかある程度の地理がくっきりしてるんだな。ここ。


 「我が今まで説明した事象は、すべて『この大陸における』ものだ。鍵にとって必要な気質については層にある限り変わらぬが、他の大陸ではそれなりにその手の性質をもつ者もいる。この地に限っては他の場所から召喚するしかないわけだが」


 ……あ、そうなのか。なるほど。

それでわりと簡単に『召喚するよ』『うん』の流れだったわけか。王様、いや宗主様か、……ああ、だから『人の』『王もどき』……彼はまさか、鍵が異世界から呼び出されるとか思ってなかったってことかな。

 そりゃそうか。ケルンいわく『他の大陸には鍵の性質をもつ者もいる』ってんだから、基本的には鍵ってこの世界、や、層か、……世界と層ってどう違うんだろう……のどこかから、誰かを呼び出してたわけだね。サーチエンジンっぽいシステムだから、呼び出しが簡単な方を選ぶんだろうし。

転移の魔法はあるみたいだから、扉を閉める先がよその大陸だろうがなんだろうが、今までは事情を説明してお願いすればよかったわけだ。宗教が同じなら綻び、破れ目とやらも理解できてるんだろうから。

……ん、うん。ほんとに私が、鍵としては異例中の異例、イレギュラーなんだな。


 …………えーと。ふ、フラグの匂いがね…………。なんていうか、面倒と厄介と命の危険の匂いがね……。


 「王もどきにしてみれば、言うことを聞かせるのにも苦労しそうなカナよりも、新たに鍵を召喚してしまった方が手っ取り早いだろうな。ことに今の宗主は立場が不安定だという噂だ。さぞ周辺がうるさく囀るだろうよ。……カナ。この大陸は、王もどきのいる大陸よりは小さいとはいえ、人間の足で隅々まで見て回れば十年単位の時間がかかる。鍵が教会の力を最大限に利用するために、そう、最速で扉を閉めるのに必要な手段である宗教を修めていないこと、そのものを大問題にしてしまう可能性もあろう。前例はあるだけに鍵ではないと無碍にもできず」

 「いっそばっさり」

 「その可能性は高い」


 な、なるほどな!!

 生臭い。世界の事情って、思ったより生臭いよ先生。



ちょっと長くなってしまいました。理解してもらえてますでしょうか。

  あと、お金についての補足です。長生きしてる人外トリオはきちんと『貨幣取引』というシステムを理解してます。しかし現実に彼らにとってはそれは必要のないものでもあります。なので普通は持って歩きませんし、とっさには思いつかない手段です。


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