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16.ユーリ視点

 もがくようにして、色を変えるまで母上の腕にしがみついていたナーナの腕がずるりと下がりました。握られた拳は決して誰をも攻撃することなく、細かく震えます。

 自分を召喚した王もどきのことも、運命すらも罵ることなく、ナーナはただ彼女の父と母を呼び、イヤだと叫び、ヒロト、と繰り返しました。何度か手に取ったから知っています。ナーナの爪はとても短い。どれだけ握りこんでもその手のひらを傷つける事はないでしょう。真っ白になって、自力ではほどけそうにないほどに力を入れていても。

 隔離空間に入れようかと母上に目で提案しましたが、そっけなく叩き落とされました。せめても、と守護者だと定義された彼らに合わせて僕も歌います。

 ナーナに欠片でも伝わればいい。僕らがどれほど貴方を哀れに思っているか。


 哀れに思い、そして、表に出せないような深さで、どれだけ僕が歓喜しているか。


 そもそも、僕は風龍です。ここではない層にいましたが、母上の狂気じみた勢いを放置できずに事態に巻き込まれただけの傍観者でした。

 風龍である僕にとって、転移や移動はお手の物です。その身に持っている魔力と馴染みの深い母上でしたから転移の移動先への誘導もできました。さらに転移した先では今までしたことはありませんでしたが、人間を連れて、ええ、ナーナを連れて距離を飛べることもできました。この層に来たばかりの時ですね。アレで確信しましたとも。

産まれてこの方、後にも先にも僕が自主的に触ろうとするのはナーナだけでしょう。

彼女が、僕の、つがい。


 そう、龍にとって伴侶とつがいは別の物であり同じ物です。理想を言うなら伴侶が異性の龍であるのが一番でしょう。何もかもがすっきりと収まります。

ただ往々にして、つがいはともかくも、伴侶に出会える龍はそんなにいません。運命の相手だなんて、そんな存在にほいほい出会えるようならだれも苦労はしないですよね。ありがたみもなくなるし。

 伴侶が同性であるよりも異種であった場合のほうが少し話がややこしくなります。なんせ龍というものは寿命の長さで行けば世界の一位二位を争うでしょう。それは層を隔てたとしてもそんなに変わらないはずです。

 ……魔法どころか龍そのものを知らないほどにかけ離れた層でなければ。


 なので僕としてはナーナの存在は不安に満ちたものでもあります。伴侶に出会えていない龍が唯一心を動かせるモノが、つがいですから。ナーナが人間であることは間違いないと思いますが、もしも僕の卵を産めないくらいに生き物としてかけ離れていたらどうすればいいのでしょうか。


いえ、いいえ、次代を生んでくれるかが重要なことではなく、そのくらいまで『離れて』いる場合も、きちんと心を通わせられるのでしょうか。


 母上の腕の中で、毛布をかぶったままのナーナは小さくしゃくりあげています。泣き顔を見せない矜持も気に入りました。

母上に、僕に、囚われてくれたからこそ逃げ出さないのだと、泣き方から伝わってきます。

 あぁ、それにどれだけ僕が歓喜しているのかはこの先ずっとナーナには理解してもらえないのでしょうね。龍の恋着がどれだけ人間にとって重いものなのかは、すぐにわかってもらえるでしょうが。

守護者どもは扉とやらを閉めれば帰れるのですから、ナーナにとって用済みになった後は始末しても嫌悪されないことでしょう。母上はナーナと同性ですし、そもそも僕の父上というつがいの相手だっています。地の精霊は邪魔ですが、これも獣姿なので、龍としてあり得ないほどに寛容な僕は許してあげてもいいです。

誰のことも、そのお人よし具合が心配になるくらいに、運命でさえも罵ろうとはしないナーナ。会いたいと名前を繰り返されるヒロトとやらは気になるものの、それよりも悲しい泣き声には僕の方が音をあげそうで困ります。


 泣かせたいとは思いましたが、実際に泣かれてみれば僕はうろたえるばかり。


 抱きかかえる弦楽器を鳴らす赤髪の守護者が、よりいっそうの優しい音に変えました。追いかけるように低めの音を中心にした笛を吹く青髪が、伏せた目をそのままにして微かに口角を引き上げます。穏やかな歌に徐々に変えていく緑髪に合わせて僕も調整しました。見る間にナーナの泣き声が落ち着いていきます。母上が背中をゆったりしたリズムで叩いていることも大きいのでしょう。できればその位置は僕が変わりたかった。泣き顔も笑顔も話しかける相手も、僕だけでいいのに。


 ああほら、せっかく泣き止んだのに、泣き顔を気にして顔を上げられなくなったナーナのほてりを取るためなのか、母上が毛布越しにナーナの顔を持ち上げます。僕たちからは見えないように上手に自分も毛布の下に潜り込み、唇を落とす音が聞こえました。嫉妬のあまり敷物の外では強風というか小さな竜巻が起こっていますが、ええ、ナーナに知られなければこんな情けない姿もいいでしょう。


 だって、これだけ僕の感情を揺さぶる存在が、現実にいるってことでもあるわけですからね。


ナーナ。甘い響きの名前です。

きっとその口を吸えば得も言われぬ歓喜が僕を満たすのでしょう。僕にその腕を回し、すがりつけばいい。僕もすぐに腕を回すでしょう。二度と離したくない愛おしい存在に。


本当に早く、その時が来ればいいのに。まったくのところ。



……思ったよりもユーリはヤンデレてないようです。ふぅ、良かった。

 あからさまに短いのは、これ以上書くとピー音というか、表じゃ書けないのでは…と危惧した私のチキンっぷりでもあります。っつか、ユーリから見た要ちゃんの説明ってようするに、R18レベル、たぶんR15は余裕で越えてくると思うんですよね。

 R15が「中学生の子供たちに読ませたくないレベル」だと定義するなら、うん。


 ちょっと無理です。


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