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13.ブックロゥ視点


 規則正しい寝息がカナの口元から聞こえる。そうっと少しずつ体をずらして、火龍ミハルと大地の精霊ケルンが僕の愛おしい少女の体を毛皮の上に横たえた。風龍ユーリがさわり心地のよさそうな布地を掛ける。見る間にカナの表情が安らかに代わり、眠りが深くなったみたいだ。それから目を離せないままに僕は考える。そう、考えることを止めることなんて、息を止められたとしてもできやしない。


 魔術師の塔が呼ぶほど、僕は賢者なんてものではないと思っている。ただ単に、次々に新しい知識が欲しくて思考を止められないだけだ。そのついでに魔法の新系統や短縮、日常に便利性を求めただけのシロモノをいくつか提案しただけで、それを改良していったのが違う人間である以上、僕は本当に、知ることに対して人よりちょっと欲張りなだけだろう。


 だから、昼時近くなって机の上に食べ物がないか目で探ろうとしたあの時に、気が付いたら草原で立っていたのは僕にとって新鮮な驚きだった。他に二人の男が立っていて、どうにも血なまぐさい雰囲気の彼らに警戒しつつ、これがどんな状況なのかめまぐるしく考えていたわけだ。言葉が通じないのも少しだけ興奮したけどね。どんな言語なのか知りたいじゃないか。


でも、そうやってとりあえず立ったまま考えてた時に、唐突に『女の子が地面に座り込んでる』のを見つけたんだ。誓って言うけど、僕はあのとき、目を閉じてたわけじゃない。それでも『いつから』その子がそこに座ってるのかはわからなかった。だったら僕としては警戒せざるを得ないよね? なのにその子は、僕たちが彼女の存在に気が付くと同時に起き上がった。ぱたぱたって立ち上がって、おもちゃのようにちょこちょこ動いて。

不思議そうな顔をして、重たそうな荷物を手首に掛けたまま小首を傾げて。


その目を初めて見た時に、ああ、この子かぁ。って思った。実はちょっと変態臭い話なんだけど、僕の家系は『一目ぼれ』するんだよね。それまでまったく色恋沙汰に関わらない分、龍なのかよ?! ってくらいに惚れ込んじゃう。しかも特に僕の家族は出会いが晩年化する傾向があって、その分、執着も強くなるっていうか。義姉も義妹も哀れなもんなんだよ。屋敷の敷地内から出さないのが当たり前だし。そもそも他人と口をきかせない、見せたくないってのが僕たち兄弟の通常だから。

どっちかっていうと我慢して、なんとか理性で持ちこたえて、軟禁で済ませてるってところ。


だから、カナを見た時にぞくりと背筋に走ったその刺激の強さに、僕は確信したわけだ。


ああ、この子が僕を狂わせる子か。って。

今までの地位どころか、積み上げてきた知識すらも捨てていいって思わせる子と、僕は、ついに出会ってしまったんだって。


あの場所ではカナの言葉だけが僕たちにそれぞれ通じてるみたいだった。なにかを……たぶん挨拶だろうけど……喋って、唐突に流し目で笑われて。生まれて初めて、『一緒の空間にいる男たちを排除したい』って強烈に思ったね。

あの視線を受けるのは、この世界の中で僕だけでいい。

そんな凶暴な感情を自分で味わうのは実に衝撃的だった。僕が戸惑ってる間にばたばたと時間が過ぎてて、カナにほんのちょっとだけ触れる機会があって。

 思考能力が停止したのは、自覚する限りの記憶にない事だった。


 柔らかい。小さい。あたたかい。


 ぼくの、ぜんしんぜんれいで、これをひとりじめしたい。


 ツチって上手に発音できないさまは、もううっかり舌を入れるようなキスをしちゃう寸前だった。ありったけの冷静さを総動員させて、覚えてる中で一番の難解な聖典を脳内で繰り返した。今なら神様にでもなれるかもしれない。これだけ自制が効かせられるなら、すくなくとも英雄にはなれるね。確信してる。

真名は呼んでもらえなくても愛称は呼んでもらえることになったし、暴走するわけにもいかないから。いっしょうけんめい僕は、まだ知り合いの距離でいようと歯を食いしばってるところ。比喩表現だけど。


 でも、やっぱりかっとなるから、カナのうなじから手を突っ込んでる火龍ミハルの手首を狙って隠しから取り出した小粒を指ではじいてみた。触るな。僕のものだ。って主張だったんだけど。生ぬるかっただろうか。

 焚火のそばで寝ているカナを起こすような間抜けは一人もいないことなんて、カナの食事時間、隔離空間に入れられてた間に起こった、ちょっとした諍いですでにわかってる。ああでも、カナが殺気で起きちゃうかもしれないから、それは隠しておこうか。

ねぇほら、風が吹くようなもんなんだよ。僕の攻撃なんて、たまたま、偶然、風で飛んだ種が体に当たっちゃうくらいのもんでさぁ。


 そんなに、痛いわけでも、ないだろ?


 結局、カナが起きる前にわかったことといえば、僕たちがこの層のどこかにいる王様に召喚されたこと。もどきって表現が気になるね。覚えておこう。……で、その彼がカナを鍵として利用する際に必要だから、守護者としてそれぞれが自分のいたところから呼び出されたこと。

どうして僕たちだったかは、カナにとっての守護者の位置づけ、うん、僕的に言えば業の成せるところらしい。それはくたびれて寝ちゃったカナが起きたらもう一度、説明してあげればいいよね。ってことは最悪、この地の守護精霊ケルンさえいれば後はどうにでもなるってことで。

 ……そう考えたのは、僕だけじゃなかったようだ。ケルンが守護するつもりなのか、むかつくことにあの体でカナに抱きついて多重結界を張ってるあいだにちょっとした話し合いを僕らは持ち、敷物を再びお互いの血液でグジュグジュにして。


 ………………しょうがない、カナに対する独占を、諦めることにした。



ブックロゥが思いのほかに病んでました。私が驚きです。引く。全力で逃げればいいのに要ちゃん……。

ところで、私の考える逆ハーレムって、どうしてこんなに血なまぐさいんだろうな。と思わんでもない。いやでもだって、独占したい本能に逆らって共有するわけだから、こんなんになるだろ?と。

そりゃ隙あれば攻撃しあうわけだから貧血にもなるよ?と。

 ああでも、エロ展開が入るとみんな大人しく共有してますね。


やだ現金。


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