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愛しの魔王様  作者: 紅虎
6/8

青の女王様とお茶会2




 いつもの定位置に座って、並べられる茶器に目を向けると用意されたのは白磁に淡い色使いの繊細な花模様をあしらったティーカップに、同様の丸いポット。

 なんともお洒落な作りになっていて、見ているだけでも優雅な気分を味わえるそれらに、思わず口元が緩みそうになる。

 これぞお茶会!って感じよね。


 プレートの上に並べられたふっくらとした丸い焼き菓子からは甘い香りが漂い目が釘づけ。

 単純と言うなかれ。

 だってこの国のお菓子ってば本当に美味しいんだもの。


 因みに本日のお茶菓子はサクサクふわふわのイングリッシュスコーン。イギリスとかのティータイムに良く出てくるお馴染みのアレね。

 ジャムやクリームを塗って食べたり、プレーンの他にも生地にドライフルーツや木の実なんかが練り込まれていたりと、バリエーション豊かに楽しめる洋菓子の一種で、中でも目を引くのがピンク色の色鮮やかなスコーン。

 木苺を使っているらしいんだけど、その果実なんと驚いたことにメロン並みのビッグサイズなのだ。

 むこうでは精々1~2㎝ぐらいだった木苺が、ここでは30㎝越えが当たり前の横綱級フルーツで、初めて見た時の衝撃と言ったらもう、興奮のあまり料理長にジャブをかましてしまったほど感激した。(料理長ごめんなさい)

 

 ベリー好きには堪らないそれを細かく刻み、ふんだんに生地に練り込んで焼き上げているらしく、風味豊かに甘酸っぱく小麦の焼けたなんとも香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。

 これホント癖になるわ~

 外はサクサクしていて、それでいて中はしっとりふわふわ。幾つ食べても全く飽きがこない。

 ジャムを付けて食べても勿論最高なんだけど、何も付けなくてもほんのりとした甘みがあって私は好きだな。


 こんな風に見知った洋菓子も然るごとながら、材料は違えどあっさりと上品な味わいのある和菓子のようなモノまであるんだから、この国の食べ物事情にはビックリする。

 懐郷心?いいえ、ただのsweets好きです。

 食文化が進んでる国で本当に良かった。

 もしこれが甘味類=虫のような世界なら、体裁なんか殴り捨てて根性で奇跡を起こしてルーを攫って帰ってたわ。


 あっちでも虫を食べる地域が無かった訳ではないが、間近でそれを見て過ごした経験も無く、食の溢れる日本で過ごしてきた身としては、虫イート習慣だけは申し訳ないが受け入れれない。

 子供の頃、長期休みになる度に田舎のおばーちゃん家に泊まりに行って、良く虫を捕まえたり野山を駆け回っていたりしたからそんなに虫は苦手ではないんだけど、それを口の中に入れてあまつさえ、噛み砕くなどと言う行為は勘弁願いたい。

 だって歯を立てたら裂けたボディーからグチャって液が出るんだよ?!

 節足動物特有のパキパキした足が舌の上で這回るとか、考えただけでゾワゾワする!


 まぁ、ルーが口移しで食べさせてくれるなら何だって食べるけどね!ゲフン。



 さぁーて今日も全種制覇するわよ!



「・・・太りますよ」


「!ふ、太らないわよっ!」



 なんて不吉な事を言うの!メアリー、メッ!

 確かに最近ついつい食べ過ぎちゃってる感はあるけど・・・そんなに私変わってないわよね?

 こっちに来てから体重計ってないからなんとも言えないんだけど、ただちょっと若干心なし僅かながらウエストがキツイかなーとか思ったり思わなかった、り・・・?



「やれやれ、今更ですか」


「今更言うな!」


「まぁ良いではないか。ナツキは少々薄すぎる。もう少し肉を付けた方が抱き心地も良いと言うもんよ」


「それって主に胸!?乳の話か、コンチクショウ!」



 何さっ自分は大きいからって馬鹿にして。私だってそれなりにはあるんだぞ。ルーのナニを挟めるくらいそれなりには!

 気を抜けば憑りつかれてしまいそうな、魔性のデコルテを睨めば、



「そう頬を膨らますでない。妾が食べてしまうぞ?」



 ヒュッ


 慌てて口の中の空気を吸い、頬を狭める。



「おや?妾では不足かえ?」



 面白そうにぺったんこになった頬を突っつかれ、これは完全に私で遊んでるな。

 淫靡な笑みを浮かべ、悪戯に動いていた指が撫でる物へと変わった。



 くっ・・・!


 誘惑になんかに惑わされないんだからね!・・・・・・きゅん!



「ね、ねえカルディア?ちょっと子猫ちゃんって・・・いや、何でもない」



 思わず口にしてしまいそうになった言葉をグッと飲み込む。

 危ない危ない。自分今何を言いかけた。ショタどころか百合にも走ってしまうなんてゲラウェイ過ぎるわ。

 目線を漂わせながらもなんとか誤魔化し、



「べ、別に今のままでもルーにパイズリしてあげれるから十分だもん」


「下品な発想はお止め下さい。対象が小さすぎます」


「そうじゃぞ。あんなのは数の内に入らん。せめて3本位は纏めて挟めるようにならぬと」


「3本!?」



 それって一体どんな体位!?

 実践で教えてやろうか?と聞かれたが丁重にお断りした。

 だってカルディアの実践ってもう危ない匂いしかしないじゃない。それに今後4Pする予定なんてないし。



「覚えておいて損はないと思うがのぉ?お主の場合は乱交になりそうだからな。主導権を握っとらんと後々泣きを見ることになるぞ?」


「マジっすか!?・・・って、そんなことならないわよ。私こう見えても人妻よ?しかも新婚ホヤホヤの新妻!そんな爛れた関係ご遠慮しますぅ」


「そうか?そのように堅固にならずとも、お主が声を掛ければ幾らでも集まってくると思うがな」



 麗らかなティータイムにうふふ、あははと猥談を繰り広げる、これが女子会ってやつだ。

 うん、仮にも一国の王妃と大貴族と侍女の話す内容じゃないわね。さぞかし蝶よ、花よと育った貴族のお嬢様方には耐えがたいことだろう。

 しかしこの国では幸い(?)性に関して奔放なようで、この私ですら驚くような事がしばしば。

 何て言うか・・・・・・うん。皆フリーダムよね。


 それに、残念なことに私は3次元という現実よりも2次元という液晶越しの遠距離恋愛を好む腐女子兼オタクだし、カルディアは根っからのドドS女王様で、メアリーもツンデレドSの化身だ。

 そんな3人が集まって、典型的な“貴族のお茶会”が出来ようか?答えは否。

 添えられた花を愛でながら甘い詩人の恋唄に頬を染め、流行のドレスの話に胸躍らせる。

 ・・・・・・出来ない。出来る訳がない。

 だったら、可愛い幼児を愛でながら新しいカップリングに萌え、大人の玩具について意見交換をしている方がまだ想像がつく。あ、ヤベ。それいつもだ。 


 まぁ旦那様の面子もあるし、一応こう言った話は慣れた人の前でしかしないんだけどね。

 学生時代から被り続けてきた虎にも勝る猫を舐めちゃいけません。



 湯気の立つカップに口をつけると、ハーブ独特の爽やかな風味がスッキリと口の中に広がり気分を少し落ち着かせ、それと共にホッと小さな息が漏れる。

 手に持っていたスコーンも半分食べ終わり、次は何の味で楽しもうかと数種類用意された小瓶に目移りしていたら、メアリーが黄色いジャムみたいなのを取り寄せ、お皿の端に載せてくれた。

 ブドウのようにぷるんとした果実のそれは、甘さの中にほんのりと苦みもあって最近の私のお気に入りの一つだ。流石侍女殿、よく分かってらっしゃる。



「あ、カルディアもこれ付ける?何のジャムか知らないんだけど美味しいわよ」


「これは・・・レグルサの実か。妾は甘いものは好かんのでな。遠慮しておこう」



 ありゃま。苦手でしたか。

 まさに女の子が好みそうな味なんだけど、そう言えばカルディアが甘い物食べてるとこ見たことないかも。

 いつも香草類の入った甘さ控えめ物や、サイドのフルーツばかり摘まんでいるような気がする。

 まぁ、甘いのが苦手な人には厳しいかもしれないわね、この味は。

 嫌いなものを無理に進める訳もいかないし、気にせず自分の分にだけたっぷりとつけて頬張る。

 う~っ美味しい。



「宜しければこちらもお食べ下さい」



 そう言って差し出されたのは、小さなガラスの小瓶に入った真っ赤な液体。



「何?これ」



 何かのシロップ?

 初めて見るものだなーと思い、顔を上げると






 ・・・・・・・・・は?




「あ、あのー・・・メアリー?」


「なんでしょう。どうかなされましたか?」



 どうかなさったのはメアリーの方よね?


 見上げたそこには、侍女服はそのままにさっきとは打って変わって怪しさしか醸し出していない、メアリーと思わしき人物が立っていた。

 いや、その藍色の髪やシルエットからしてメアリーに間違いないんだけど、なんと言うかね?

 いつの間に装着したのか、顔の上半分は厳つめの分厚いゴーグルで隠されてるし、口元にもしっかり布が巻き付けられていて、人相なんてこれっぽっちも分かりっこない。それなんて言うテロリスト。

 さっきまでそんなの付けてなかったわよね?

 まさに今から戦地に行ってきますと言わんばかりの出で立ちに思わず呆然としてしまう。


 なんてシュールな図なんだろう。クラッシック系の侍女服と顔面ソルジャーがこれっぽっちも全く相容れていない。寧ろお互いが全力で反発しあっているようにしか見えないわ。

 それによくよく見れば、小瓶を持つ手も厚手のグローブを填めてるし、


 ちょ、それ液体窒素か何か!?


 隣に居たカルディアの方に振り返ると、彼女も距離を置くようにソファーの端へと身体を寄せ、メアリー同様口元をナプキンで覆い異臭対策ばっちりだ。



「な、何!?これもしかして臭い!?臭いの!?」


「いや、香りはそこで悪くないと思うぞ」



 嫌そうに秀麗な顔を歪めながらそんなことを言われても納得出来る訳ないじゃない!

 それに心なしか、いつもより細心の注意を払いながらメアリーは小瓶を開けているように見える。

 決して触れないよう液体を皿の上に注ぎ、見る見るうちに赤く染められるスコーン。



「さぁ、どうぞ」


「いやいやいや、私死にたくないから!明らかにこれ食べちゃイケない系よね!?これって毒よね!?」


「いえ、毒ではございません」


「そんな恰好して言われても信憑性に欠けるんですけどー!」


「この口布は最近の流行です」


「嘘つけ!コラ!そんな事で騙されたりなんかしないんだからね!」


「こちらは陛下からの贈り物になります」


「よしっ頂きます!」



 ルーからのプレゼントだなんて、そんなの断る訳ないじゃない。

 舌先で蹂躙してくれるわ!


 躊躇いなんてなんのその、一口サイズに切り分けたそれをフォークに刺し豪快に齧り付く。





「うっ・・・!」





 口いっぱいに広がる懐かしい味。




 これは・・・・・・





 イチゴシロップか!



 お祭りの屋台でお馴染み、かき氷の上に掛けられる濃厚イチゴシロップ(原液)の味がする!

 うわー懐かしいー

 まさかこっちにもこれがあるだなんて。

 そう言えば小さいころ、イチゴシロップのボトルを見て「血だ!」って騒いでたっけな。

 案外見たまんまの味にほっと一息。

 もう、なんなのよ二人して驚かせて。てっきり猛毒か何かかと思ったじゃないのよ。



「・・・なんともございませんか?」


「え?何が?」



 ちょっと甘すぎるけど、普通に美味しいわよコレ。

 確かに甘い物が苦手なカルディアにはキツイかもしれないけど、そこまで嫌がる程匂いもないわよね?

 ほくほくと頬を緩める私とは対照的に、何故か二人は微妙な目で私を見ている。



「って、まさかこれってやっぱり毒!?」



 食べっちゃったよい!!

 それとも何?!原材料虫系とか言っちゃいます!?

 さっき散々昆虫を口に入れる妄想してたから、なんか不安になってきたんですけど!?



「何、虫など入っておらんよ。・・・まぁ、妾が食したくないだけじゃ。そう深く気にするでない」


「だってメアリーが!」


「私は毒殺など致しません。殺るときは跡形なく消します」



 ・・・それもそれでどうなんだろう?


 なんか怖い発言をしてくれた人も居るけど、うーん。この世界の食べ物事情まだ知らない事の方が多いからなぁ。

 元居た場所と似通った食べ物も勿論あるんだけど、それ以上に原型は魚なのにぷりぷりのタコのような触感だったり、見た目はリンゴでも味は焼肉カルビ味だったりと偶に予想右斜め上にいく物もあるから、不用意に何でも口に入れているとそのギャップに苦しむこともある。

 今度料理場に忍び込んで・・・じゃない。お邪魔して、聞いてみようかな。





 この赤い液体が後々問題になるなんて、この時の私には知る由もなかった。





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