青の女王様とお茶会1
朝メアリーが言っていたように、その日午後お茶の時間に合わせてカルディアはやってきた。
「邪魔するぞ?」
女性にしては少し低い声。
決してハスキーな訳ではないんだけれど、独特な艶の混じったその声に続いて現れたのは、目にも鮮やかなコバルトブルーのドレスを身に纏ったゴージャス系の美女――カルディア・ドゥウィラ・マーティン――その人だった。
ゼノンもそうだけど、三次元でこの美しさって罪よね。
もう色気がぱねぇっす、先輩。
気だるげに垂れた切れ長の瞳に、スラリとした高い鼻筋。そして女性らしい厚みのある唇には蠱惑的に艶やかな紅が引かれ、白い肌に一層際立ち、思わず「キスミー!キスミー!」と叫んでしまいたくなる憧れセクシー唇だ。
むしろ初対面の時に叫びましたとも。そしたらルーにメッてされた。きゅん!
唯でさえ、えっちー雰囲気の持ち主なのに、それに箔を掛けるようにいつも好んで身に着けるドレスは露出の高い物が多く、長身で特上のグラマラスボディーである彼女にそれがまた似合っちゃってるんだから困ったものだ。
今日だって、ほら。
青銀色の髪を結い上げて、スッキリとしたシルエットのホルタ―タイプのドレスを着ている筈なのに、余計なレースやフリルといった物が無い分、身体のラインがハッキリと出ちゃってお色気ムンムン。いやらしかぁー。
その上、胸も大きくV字に開いていてトップが見えるギリギリ。明らかに隠れている面積の方が少ないと思う。ついでに言えば、カツカツとヒールを鳴らして歩く度にサイドに深く入っているスリットからも真っ白な太腿も丸見えで、とっても眩しいです。
是非とも下着事情の方を教えて頂きたい。
「カルディアいらっしゃい待ってたよー」
そう言って両手を広げれば、すかさず手を伸ばして抱き締めてくれた。
「おおっナツキ!会いたかったぞっ」
「フグッ」
冷たい印象を与えるアイスブルーの瞳を綻ばせ、ギュウギュウと力いっぱいに豊満な胸を押しつけられる。おいでませパラダイス。
瑞々しい花の香りと、しっとりとした柔らかい温もりに包まれて顔全体でその感触を堪能する。
が、しかし。大変密着性の良い柔肌が呼吸器官を圧迫し、外気を一切シャットアウト。次第に息苦しさは増していき、気持ち良いけれど苦しい。
なんだこの責め苦。まさに飴と鞭じゃなか・・・ってそろそろヤバい。冗談抜きでこのままだと本当に天国へ逝ってしまう。
焦り背に回した腕をバタバタと振って脱出を試みようとするものの、
「どうした?お主も妾に会えて嬉しいのか?そうかそうか。ほんに愛い奴よのぉ」
「うううー、カ、ルディ・・・ア!」
違う、そうじゃなくて酸素!息!呼吸!
子供がお気に入りのぬいぐるみにするように、グリグリと頬擦りするのに夢中で、カルディアは気付いてくれない。むしろさっきより締まってない?これ。
乳に埋もれて圧死とか、間抜け過ぎる。どこの助平オヤジよ。せめてルーの太腿に挟まれて死にたかったな、とか馬鹿な事を考えていると、ふいに頭を掴まれ
「失礼します」
涼やかな声音と共にそのまま、すぽんっと景気良く胸の谷間から剥がされた。
「ぷはっ・・・!」
一気に失っていた酸素を肺いっぱいに取り込む。
く、空気がうまい。
クラクラとする頭を抱えグッタリと倒れそうになるのを、即座に出来る侍女代表メアリーが支えてくれるが、
・・・・・・ねぇメアリー?これってヘッドロックって言わない?
ガッシリ後ろから首に腕を回されて良い感じに填まってる。
うん、この体制も首締まるから。
気道がキュッってなっちゃってるから。
「何をするんじゃ。今良いところじゃったのに」
「申し訳ございません。ですが、この引き籠り肺活量が一般以下な貧弱者ですのであれ以上はちょっと」
「おお、そうであったな。すまぬ、ナツキ。お主と会えたことが嬉しくて少々力を込め過ぎた。大事ないか?」
ちょっと待て。今声と本心が逆に聞こえたぞ。
そして女王様も心配している割には顔が笑ってます。
なんか会う度に凶器と言う名のその胸に殺されかけて気がするわ・・・。けど世の男性諸君からしたらきっと生唾ものなんだろうな。どうだ、羨ましいだろ。
私はルーの太腿の方が生唾だけどね!ゲフンゲフン。
それにしても一体何を食べたらこんなに大きくなるんだろうか。
メアリーの腕から解放され、動く度に大きく揺れる胸に見入る。
効果音としてはボインボイン?いや、バインバインと言っても過言ではないハズ。やっぱ遺伝なのかな。
自分の胸に手を当て、目の前で揺れる二つの山と見比べる。
ぱすぱす。
・・・・・・・・・。
な、なんか悲しくなってきたぞ!?
「確認せずとも大したモノは付いておりません。ところで今日もいつもの場所で宜しいですか?」
「あー・・・うん。お願いします」
そう言うとメアリーはくるりと背を向け銀のカートを押しながら、窓の外へと消えて行った。
大したもの・・・
そりゃあカルディアに比べたら大したものじゃないけどさ・・・・・・・・・ぱすぱす。
悲壮感を胸に、メアリーの後を追って開け放たれた右から三番目の大きなガラス窓を潜りぬける。
そこはちょっとしたサンルームの様になっていて、広さは六畳ぐらいかな?
他の部屋に比べてこじんまりとした室内には猫足の白いローテーブルと、クッションを敷き詰められたアンティーク調のソファーが一脚。
煌びやかな装飾品の類は一切なく簡素な部屋だが、ガラス張りの壁には細い緑色の蔦が巻きついて、天然アラベスクアートの出来上がり。日差しを受け床にも見事な模様を作り出していて、まるで童話に出てくる一室みたいだった。
少し不思議めいたその雰囲気が好きでお茶の時間は決まって此処に用意して貰っているんだけど、本来ならこんな手狭な場所に御貴族様を招くのは応しくないと言うことは重々承知。
けれど、完全にプライベートだしカルディアもそう拘りはないのか「お主の好きにすれば良い」と言ってくれるので、お言葉に甘えさせて貰っている。
なんか此処に居ると安心するのよねー。
それになんと言ってもこの場所、実はもう一つ凄い特典がありまして。どう言う仕組みになっているのか、此処が外からも部屋の中からも見えないと言うから驚きだ。
流石異世界クオリティー。
私もルーに教えて貰うまで気が付かなかったし、メアリーもこの部屋の存在は知らなかったみたい。
ってことは、此処はルーの秘密基地だったのかな?
ホラ、男の子って皆小さな頃に一度は秘密基地ってやつを作るものでしょ?しかも女子禁制・他言無用、他にも色々と制約を付けて。
ならこんなに入り浸ってしまうのは申し訳ないと思い尋ねてみたら、
「あそこはナツの為に作った場所だから大丈夫だよ。ナツ、あまり広い部屋好きじゃないみたいだし、僕が帰って来るまであっちで待ってて?」
きゅん!
ヤ、ヤ、ヤバい!嬉しくって鼻血が出そう!私の為に作ってくれただなんて・・・!
どうやら私が広い部屋に居心地悪く思っていたのを旦那様はお見通しだったらしい。
いや、だってね?リビングだけでも私の住んでいた部屋の10倍はありそうなそんな広大な場所で一体どうやって過ごせと言うの?マラソン?マラソンでもしてれば良いの?
パソコンさえあればどうにでもなっただろうが、生憎手元に愛用機はない。しかも置かれてる調度品は素人が見ても一流品と分かるような品物ばかりで、走ってぶつかって壊したりなんかしたら弁償なんかしきれるわけもなく。
生まれも育ちも庶民な私は、こんな煌びやかな生活慣れてないんですよ。
もっと慎ましやかにウサギ小屋で過ごしたいと言う願いはバッサリメアリーに却下され、ルーの隣の部屋に放り込まれた訳だが(あ、でもこの部屋の内扉開けるとルーのプライベートルーム直通なのよね!ぎゅふ!)、やっぱり慣れず、どうしたものかと出来る限り隅っこの方で大人しく壁のフィット感を味わいながら帰りを待っていたのがいけなかったようだ。
もう庶民の血を嘆けば良いのか、旦那様の懐の深さに感涙すれば良いのか、取りあえず欲情はした!
全力でお礼を言い、さり気無くルーの小さな胸にすり寄ってこの場所で待っている事を誓ってからと言うもの、毎日入り浸って旦那様の帰宅を待つ日々ですよ。うふふふふ。