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愛しの魔王様  作者: 紅虎
4/8

旦那様の憂鬱

少し長いです。

※ルー視点

 

 

 

 満月の夜

 

 

 僕は僕だけの月を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「相変わらず彼の姫君は愛らしいですね」

 

 

 執務室に入るなり、クスクスとゼノンは笑う。

 もう恒例となりつつある朝のやり取りのことだろう。

 

 

「そう思うならもう少し時間ずらして来てよ。気が利かない」

 

「おや?そんな事をして本当に宜しいので?害された時のナツキ様の顔、お好きかと思ってましたが」

 

「まぁ、ね。膨れたナツも可愛い」

 

 

 全身で欲求不満を訴えるナツの姿を思い出し、自然と口元が緩む。

 普段から「私は大人だ!」と豪語している割には、直ぐにぷっくりと頬を膨らませて唇を突き出す仕草をする彼女はとても可愛くて。

 人間の感覚から言うと、27歳と言えばもう立派に成熟した大人と見なされるんだろうけど、ナツはどう見ても15、6にしかみえなかった。

 

 

「ははは、皆揃って私を子供扱いしていればいいさ。その内絶対にギャフンと言わせてやるんだからな・・・!」

 

 

 グッと拳を作り高らかに宣言をするナツ。

 そう言う姿も幼く見える要因だと思うけど、可愛いから黙ってる。

 

 

「本当に・・・ナツキ様は夢の中でも無邪気でらっしゃる」

 

 ピク

 

「・・・覗いたの?」

 

「ええ、不埒な輩が近づいておりましたので」

 

 

 書類にサインをしていた手を止め見上げれば、ゼノンは淫魔特有の顔を楽しそうに歪め、掌の上に半透明の球を作った。

 中を覗けば人間の男の頭が一つ。

 首から切断されたそれは引っ切り無しに喘ぎ声を上げている。

 

 

「趣味が悪い」

 

「そうですか?中々可愛いですよ彼」

 

 

 そう言って球を撫でる姿は、男でも女でも惑わせることが出来る極上の毒華そのもの。

 ゼノンは宰相でもありながらも四方を治める公爵家の一人でもあり淫魔族を総括する統領だ。

 位が高くなるにつれてその容姿が整ってくるのはどの種族においても同じだけど、中でも淫魔は特に優れた者が多かった。

 淫魔は精を好む。

 男でも女でも気に入った者を犯し奪うため、惑わせ餌を惹きつけれるよう自然と美しくなるのは理に適っていたし、彼等自身の性別もあって無いようなもの。

 そして夢は淫魔の力を存分に発揮できる領域だ。

 

 

「力量からして東のアーディシュの者ですね。あの国はそこそこの魔術師を輩出していますから」

 

「ふ~ん。鼻だけは良いみたいだね」

 

 

 夢から接触を図ったか。

 お行儀が悪いなぁ。人の物に手を出すなんて。

 

 

「それで?その術師達どうしたの?」

 

 

 ニィっと歪められる紅い唇。

 

 

「最高の悪夢の御持て成しを」

 

「そう。ならいい」

 

 

 きっとゼノンの事だ。

 御目がねに適わなかった残りは淫獣にでも食べさせているのだろう。

 それが奴等にとって良かったのかどうかは知らないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 ナツと出会ったのは先の満月の夜だった。

  不覚にもその気配に全く気付かず、突如流れ込んできた甘い力に目を覚ますと、暗闇に紛れるように女が僕を見下ろしていた。

 

 またか・・・

 

  今までにもこう言うことは良くあった。

 僕に正妃や側室が居ない事を理由に、裏から実権を握ろうとした元老院のジジ共が自分の息の掛った女を送り込んできたり、逆に暗殺を企ててその手の者を招き入れたり。

 しかしこの国で絶対の力を誇る僕に無断で触れるなんて自殺も良いところ。

 ここ最近は寝所を汚すことは少なくなってきてたのに、面倒くさい。

 そう思っていたのにその女は一向に消滅する気配はなかった。

 何故?

 奇妙な感覚に囚われ、サッとその場から離れる。

 それと同時に月に掛かっていた雲が晴れ、写し出された女姿を見て息を飲んだ。

 

 双、黒・・・?

 

 月明りに照らされて嫋やかに波打つ漆黒の髪に、浮き立つような白い肌。

 頬を染め口元を手で隠して伺うように覗きこんでくる潤んだ瞳も僕と違って真っ黒だった。

 黒は高貴な証し。

 世界に愛される存在。

 

 キレイ

 

 物であれ何であれ、純粋に何かを美しいと思ったのはこれが初めてだった。

 止まっていた歯車が動き出す。

 見つけた・・・僕が欲しかったのは君だったんだ。

 今すぐに食べてしまいたい衝動に駆られるが、グッと堪える。

 ダメだ、この子は食べない。

 だってこの子は僕の花嫁だ。

 

 僕と同様にナツも思う事があったのだろう。

 いつの間にか音も無く溢れた涙は頬を伝い、幾つもの流れを作っていた。

 泣かないで?

 君が憂いむような事は全て僕が消し去って上げるから。

 瞳から零れる甘い甘い雫を舌で拭う。

 

 

「あり、が、とう・・・」

 

 

 戸惑いながらも笑顔を向けてくれた君はなんとも可憐で。

 ただ死ぬ為に生きてきた日々に光が差し込まれた瞬間だった。

 

 

 言葉を交わしている内に、どうやら彼女は此処とは違う世界から来たと言うことが分かった。

 自分の部屋で眠っていたはずなのに、目が覚めたら僕の隣りに居たのだとか。

 なんだ、夜這いじゃなかったのか。

 ナツにだったら殺されても良かったのに。

 少し残念に思いながらも、取りあえずナツに尋ねられた事には全て答えて、この世界について説明した。

 世界に広がる国やそこに住む住人たちの事、それに魔力の事も。

 そしてもう“帰えせない”ことを告げると、

 

 

「うわぁーパソコンの中18禁BLゲーム入れっぱなしだよ!どうする?!いや、どうもできないけど!ってか、デスクトップの背景幕末の乙ゲーヒーロー達の半裸のままだし!OL失踪とかニュースで騒がれて押収品としてパソコン持ってかれて世間様が見たらどう思われるか・・・!あばばばばば」

 

 

 って呻いてた。

 知らない単語がいっぱい。

 びーえるゲームってなんだろう。

 聞いたら教えてくれるかな?

 

 あと驚いた事にナツは人間だった。

 この世界で“黒”を持つ人間など存在しない。

 いや、人間だけではない。エルフ族や獣人族、精霊族を探してもまず“有り得ない”のだ。

 魔族にだけ許された色。

 例え魔族と他種族が交じろうとも現れはしない、純潔の魔の証し。

 ナツが人間だと知られるとアイツ等は黙ってないんだろうなぁ。

 そうなる前にも早く僕ののもにしなくっちゃ。

 

 隣りで眠るナツにそっと口付けを落とす。

 ふふふ、さっきとは逆だね。

 泣き疲れた所為か、ナツは静かな寝息を立ててぐっすりと眠っている。

 僕が王だと知った時の行動には驚いたけど、結果的に彼女はそれを受け止め僕の手を取ってくれた。

 この僕に涙を流させるなんて、きっと後にも先にもナツだけだろうな。

 口元に笑みを浮かべながら公爵達に思念を飛ばす。

 

 “花嫁が来た”

 

 それだけ伝えれば、あとは彼等が手配するだろう。

 あ、人間だって言うことも伝えておかないと。

 この国に居る人間は極僅かだ。それ以外は皆魔族と呼ばれる者達ばかり。獣の姿を持ち人から忌み嫌われ恐れられる存在。

  ・・・ナツも怖がるのかな。

 もしもナツが怖がるようならこの国の住人を消してしまおうか。

 そんなことを考えながら、取りあえず皆に人型を取るように勅令を出す。

 魔物と呼ばれる理性の乏しいモノ達以外なら大丈夫だろう。

 微かに揺れる気配があったけど・・・これはカルディアか。

 まぁ、そうだよね。

 アレは特に人間の女を嫌う傾向がある。種族的なものなのだろうけど、幾ら四皇公爵公の一人と言えどナツに害を与えるなら容赦はしない。

 これから忙しくなるな~。

 ナツと繋いでる方とは逆の手で空中に円を描く様クルクルと回し結界を張る。

 力の制御の仕方も教えないといけないね。

 深い眠りについたのか、隣りで眠るナツの身体からは闇――魔力が流れ出ていた。

 

 ナツ自身は魔力なんてモノは備わってないと思い込んでるみたいだけど、触れ合った唇から流れてきたそれは極上の物だったし、黒を身に宿わせる者が“力無し”とは考えにくい。

 現に溢れているそれを可視すれば、キラキラと小さな輝きを閉じ込めた最高級の黒いビロードのような闇が、金色の僕の魔力を包み込むように、何十倍にも圧縮しこの部屋を満たしている。

 起きてる時は無意識の内に多少は制御出来てるみたいだけど、ああ、ほら。

 ドアの前で警備してた奴等が破裂した。

 明らかに許容オーバー。

 これだけの力を浴びて、まぁ持った方かな。

 僕としてはなんとも心地が良い空間だけど、並の魔族が触れるとものの数秒で破裂することは必至。

 魔力っていうのはそこに意思があるように上から下へと流れる習性がある。

 まるで川の流れのように魔力の少ない者達へと与えられ、力を底上げしていく。

 強い者の近くに居ると自然と力が増強されるが、でもそれを受け止めれるのは自分の許容分だけで。

 皮袋に水を入れるのと同じで自分にあった容量は受け止められるけど、それ以上は張り裂ける。

 今、この部屋に立ち入れる者は一体どれくらい居るのやら。

 パンクするか発情するか。二者択一。

 過剰な力は催淫効果を促すからね。

 幾ら許容範囲内でも一気に流し込まれるとバランスを崩し理性は削らて本能が剥き出しになるから、同等の力持ち同士だと破壊欲に駆られて殺戮・食事を楽しむようになるんだけど、明らかな力量差で一方が魔力が強いとそれに掻き立てられてもう一方が性欲が刺激され発情して、満たされるまでは平静で居られなくなる。

 だから淫魔族は性欲・食欲も兼ね備えて魔力が強い者が多いのだ。

 出生率が著しく低い魔族にとっては魔力が強い者がいるのは喜ばしい事だけど、その対象がナツだとしたら話しは別だ。

 僕の次に力が強いとされる公爵達もきっと強制的に興奮・発情状態にされるだろう。

 ・・・うん、ナツには頑張ってもらおう。

 触れさす気は全くないが、彼等の性格を考えると一筋縄ではいかない。

 強い者に焦がれるのは魔族の本能だからなぁ。

 

 しばらくはこの部屋に誰も近付かぬよう再び思念を飛ばし、瞳を閉じた。

 こんなにも穏やかな眠りは初めてかもしれない。

 触れ合った場所から感じる優しい温もりと闇に包まれて僕は眠った。

 

 

 翌朝、ナツが目覚めると部屋に滞っていた力は消えていた。

 やっぱりアレは無意識の内の仕業かぁ。

  一緒に朝食を取り、名残惜しいが一旦ナツとは別れ執務室へと向かう。

 これからの事で色々と準備をしなければいけない。

 

 

  「メアリー」

 

 

 呼ぶと何もない空間から、目深にローブを纏った一人の女が現われた。

 

 

「暫くナツの側にいて。護衛が見つかるまでで良い」

 

「・・・は」

 

 

 短い返事と共に、その姿は消える。

 取りあえず彼女が居ればナツは安全だろう。なんせ彼女も捕食者側だ。

 きっとこれから古参のジジ共はナツを利用しようと動き出す。これだけ巨大な力に気がつかないはずがない。

 貴重な双黒。

 その力に惹かれ、己もあやかろうと群がるだろう。

 ある程度の牽制は必要かな。

 それに最近人間達の動きもきな臭いしね。

 また無意味な戦でも始めるつもりなのか、魔力の流れが淀んでいる。

 弱い癖に本当人間は戦う事が好きだよね。

 

 

「花に集る蠅共が」

 

 

 僕の大事な花に触れるなら、その手足剥ぎ取ってあげる。

 

 泥に塗れて無様に這いつくばっているか、潰されて養分になるか選ばせてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 ナツがこの世界に来て幾日か過ぎた。

 すっかりナツはここに馴染んだようで、適応能力が高いのか食事に関しては初めて見る食材ばかりだったみたいだけど特に問題はない様子でいつも美味しそうに食べているし、城の者達とも挨拶を交わす程度には仲良くなったみたいだ。

 何故か僕の衣装部屋から良く転がって出て来くるのを発見されているようだけど、衣装部屋に何かあるのかな?

  あと僕と一緒に居ない時は図書館に行ってナツは何か調べ事をしていることが多かった。

 十中八九、元の世界に帰る方法でも調べているのだろう。

 “帰せない”って言ったのに、ナツってば中々諦めが悪いなぁ。

 “帰れない”んじゃなくて“帰せない”

 正確に言えば帰さない、だけど。

 やっと見つけた僕の花嫁を、早々手放すことなんてあるはずないでしょ。

 本当はもっとこの世界に慣れてから受け入れて貰おうかと思ったんだけど、これは早く婚姻を結んだ方が良いかな。

 逃がしてなんてあげないよ。

 

 手早く書類を片付け、この時間ナツが居るであろう部屋を尋ねた。

 そうしたら何故か部屋にはゼノンと東の公爵公シグルドがテーブルを囲んでナツと談笑してて、

 もー!また勝手にナツに会いに来てるー。

 ナツは僕のだって言ってるのに。

 ・・・まぁ良いや、こいつ等には立会人になって貰おう。

 

 

「ナツとずっと一緒にいたい。僕のお嫁さんになってくれる?」

 

「はい」

 

「ちょ、陛下!本気でs、グァッ!!」

 

 

 瞬時に隅に控えていたメアリーが動き、シグを伸した。

 うん、早さはやっぱメアリーが一番だ。

 ナツの見えない位置から小型のナイフを飛ばし、それを避けた所でメアリーの蹴りが見事に決まった。

 シグはちょっとお喋りだから静かにしててね。

 ついでにゼノンの方にも同時に攻撃したみたいだけど、こっちは綺麗に回避してた。

 ナツは「何事!?」と慌ててながらも、ニコニコ笑う僕を見てすぐにさっきの言葉を思い出したのか頬を染め、けどちょっと困ったような顔になった。

 あれ?きっとナツなら二つ返事で喜んでくれると思ったのにな。

 少し考えるような素振りを見せた後、どうやら僕の年齢が気になるらしい。

 歳?

 この外見がダメなのかな?

 まだ完璧な成体には成れないけど、それに近い形はとれるから交わるのには何も心配はないと思うんだけど。

 それにもう随分前に成人の儀も終えたし・・・

 この国で大人と認められるのが250歳だと知ってナツがビックリしている。

 

 

「おや?御存知りませんでしたか?てっきり陛下から聞いていると思ったのですが」

 

 

 ・・・あ

 

 ゼノンの言葉にハッとする。

 僕としたことがすっかり失念していた。

 年齢や寿命のこともそうだけど、彼女は人間だ。

 僕達とは色々と違う。

 ナツはゼノンから話を聞くと恐々と僕の方に振り返り、

 

 

「・・・大人?」

 

「ううん、王様は魔力がいっぱいあるからまだ身体は成長途中なんだって」

 

 

 その辺りは曖昧に濁しておく。

 だってなんだか黙っていた方がオモシロそうなんだもん。

 でもまだナツは浮かない顔。

 

 

「魔力で寿命が決まるんなら、私すぐに死んじゃうわよ?」

 

 

 ああ、それを気にしていたのか。

 普通ならそうだね。

 魔力の強さで寿命が決まるのは“人外”と呼ばれる者達だけだ。幾ら魔力を保持しようとも短命種の人間と僕達では明らかに寿命は違う。精々生きて100年前後と言ったところだろう。中には300年くらい生きる者も居るが、そんなのは稀だ。

 先の見えない僕と先の見えるナツ。

 きっと彼女はあっと言う間に年を取り、土に返る。・・・僕を置いて。

 その事を分かってか、心配するナツにゼノンが一粒の種を蒔いた。

 

 

「王との婚姻は特別でして、召し上げられた花嫁は王の持つ魔力と同調致します。ですからナツキ様の場合はルーファウス様ですね。ルーファウス様と同調・・・云わば同じ時を生きるようになるのです。死別はまず・・・在り得ないんじゃないかと」

 

「よぉっしゃぁあああ!!」

 

 

 あ、ナツが歓喜に吠えてる。

 ホント可愛いよね、そう言うとこ。

 でもね、手放しに喜んでくれてるナツには悪いけど、それは事実であって真実ではないんだ。

 嫌気が差す程の長い人生に、王が狂ってしまわないようにとあてがわれる花嫁と言う名の生贄。

 通例なら同調すると言っても、精々寿命が数百年延びる程度で共に消滅など在り得ない。

 

 ・・・ある方法を除いては。

 

 うーん、これはゼノンにばれてるな。

 僕はね、ほんの僅かな時間で満足するほど出来てないんだよ。

 最後の時まで一緒に居たい。

 ナツが嫌がってもずっとこの腕の中で閉じ込めていたい。

 

 だからね、君には内緒でこっそり結んだんだ。

 

 

 魂の・・・

 

 奴隷の契約を。

 

 

 もう人間側では禁忌となった禁術の一つ。魔族と人間の間で主従の関係を結ぶことによって、人が魔の力を得る方法だ。

 身体を魔に属する者へと変え死さえも物ともしない力を与える。そしてその代償として人は真名を差し出す。真名を奪われると言う事は、命を差し出したのと同じで決して主には逆らえなくなる。

 まぁナツの場合十分過ぎるぐらいの力があるし、どっちかと言うと元から魔寄りだからこれは必要ないとして、重要なのはこの制約だ。

 

 “僕から離れない”

 

 これが大事。

 契約が完了されれば、生きてこの楔から逃れることは出来ない。主が死んで一緒に消滅するか主に殺されるかのどちらかで、自分で死を選ぶ事は許されない。

 要は僕が死ぬまでナツキも死なないってこと。

 なんて甘美なことなんだろう。

 考えただけでもゾクゾクする。

 

 あと、ナツの力も今はこの制約で押さえてある。

 未だにナツは自分に魔力が無いと思い込んでいるから、制御しようとすることをしないのだ。

 なので近づいた者は片っ端からバンバンバン。

 僕は別に構わないと思ってたんだけど、ナツが「誰も目を合わせてくれない」と沈んだ表情をするもんだから、伯爵辺りの者達よりも少し多いぐらいまでに力を制限した。

 あまり制御しすぎると逆に捕食されかねないし、かと言って多すぎると本末転倒。中々難しい。

 まぁ、見る者が見たら制御されているのは分かるからそう簡単には手は出されないだろう。

 

 

 選り強固な契約キズナで僕はナツを愛するよ。

 少し卑怯なやり方だけど、ナツは許してくれるよね。

 こっそり左胸に刻んだ刻印を思いほくそ笑む。

 ナツが盲目に僕を好きになるのは変じゃないんだよ。

 

 

「ふ、不束者でずが、っよろじぐお願い、じまずっ・・・!」

 

 

 泣きながら縋るナツを宥めながらにっこり微笑む。

 

 

「こちらこそ。愛してるよナツキ」

 

 

 だってこれは・・・

 

 

 

 

 僕が願ったことなんだから。

 

 

 

 

 

 

 そして無事・・・とは言い難かったけど、婚儀を終えてナツは正式に僕の妃になった。

 黒いドレスを身に纏ったナツは、まるで世界からの寵愛を一心に受けた宝石のようで。

 女は化粧すると変わるって言うけれど、参った・・・

 変わり過ぎだよ。

 普段どちらかと言うと無邪気で可愛らしいイメージが強いのに、目の回りを黒で囲んで唇に赤いラインを引いたその姿はまさに妖艶そのもの。

 胸元の開いたドレスからはしっかりと胸の谷間も見え、透けるような白い肌が淫靡さを醸し出し、柄にも無く言葉を失ってしまった。

 

 

「どうよ!私だってやれば出来るのよ!これでもう子供には見えないでしょ」

 

「ええ、そうですね。ナツキ様は立派なレディーです。・・・私を誘惑するなんて、イケナイお方だ」

 

「ぎゃぁああああ!!ちょ、ゼノン手!手!!どこ触ってるのよバカァアアア!!!」

 

 

 やっぱりナツはナツだ。

 ゼノンの手から逃れるように、何重にも重なったレースの重さなど意図せず素早い動きで僕の後ろに隠れた。

 

 

「ルー変態がセクハラする!!」

 

「後でゼノンにメッてするから安心して」

 

 

 ヨシヨシと結われた髪を崩さないように撫でながらそう言うと、若干ゼノンは顔を青くしたが知らない。

 僕のモノに触れる方が悪いんだよ。

 そんなゼノンには気付かず、ナツはナツで後ろから僕の髪に顔を埋めながら「私にもメッってしてー」と頬を寄せて甘えてくる。

 ナツのお願いだったら何だって聞いてあげる。少し待っててね。

 

 しかしそんなナツも身体はやはりまだ人間で。

 やっぱりあの契約は完了するまでに時間が掛かるのが難点だな。

 人と魔は姿形は似ていても根本的に全く違う存在だ。一から細胞を壊し作り上げていき、完全に身体が魔の者に成り替わった時、初めて契約は完了する。

 だからそれまではまだ人としての部分が強く出てしまい、中々身体が安定せず突然体調を崩してしまうことがあった。

 今回の場合も半分はそれが原因だ。

 式典が終わるまでは元気だったものの、ナツはその日の夜は熱を出し寝込んでしまった。

 いつものなら元からある膨大な力で多少はカバー出来たんだろうけど、今回は式の途中で血を流し過ぎたのと結果的に二重契約を結んだ所為か、過度な負担が一気に掛かり自己回復力では間に合わなかったのだろう。部屋に戻るなり倒れてしまった。

 

 ぐったりと寝台に横たわるナツ。

 ゴメンね?無理矢理契約を結ばせて。

 ナツは火照った顔を枕に押し付け、

 

 

「結婚初夜なのに・・・結婚初夜なのにぃ・・・!」

 

 

 恨めしそうに嘆いてた。

 うん、熱が下がったらいっぱいイイコトしようね。

 

 

 

 

 その後もあまり僕達の表面上は何も変わらなかったと思う。

 ああ、挨拶のちゅーが増えたかな。

 毎朝誰かしらに邪魔されながらも懸命に「夫婦の嗜みだぁああ!」と言って頑張るナツはとっても可愛い。

 昼間は執務があるから別々に過ごすことが多かったけど、時間の合間を見て会いに行ったり出来るだけ一緒に食事は取るようにした。

 その間身体はずっと幼体のまま。

 どうやらナツはあまり成人姿の男が好みではないらしい。

  柔らかな膝の上が僕の定位置になりつつあるんだけど、僕が本当は成体に近い姿になれると知ったらナツはどうするだろう?

 たまたま出会った日は幼体でいたが、普段は成体形に近い容姿で過ごし、執務を熟すことの方が多かった。

 大きくなれると分かったら、もう抱っこはしてくれないのかな?

 

 ・・・それはヤダな。

 

 でもこの身体じゃあナツと交わることが出来ない。

 いや、満たして上げようと思えば幾らでも方法はあるけど、やっぱり男としては僕のモノを入れて抱き締めて上げたいし。

 けど膝も捨て難い。

 これがもっぱら最近の僕の悩みだったりする。

 

 あと悩みと言えば、四方を治める四皇公爵公もそうだ。

 何かと時間を見つけてはナツの寵愛を得ようとしているし、特に西の公爵公――カルディアはナツにべったり。

 始めはナツを嫌悪するカルディアを危惧していたが、今じゃそんな片鱗は見せず、結構な頻度でお茶会と称して会いに来ている。

 まぁ馬鹿な貴族を追い払ってくれてるからいいけど。

 

 僕と結婚したことでナツはこの国の妃になった。

 異世界から来たナツには勿論この世界に知り合いなど居るはずもない。

 その事を知ってか、何の後ろ盾のない彼女を取り得てその力を独占しようと躍起になって貴族達が群がった。

 双黒の王妃と繋がりがあれば社交の場でも優位に立てるし、周りに牽制も出来る。

 そして寵愛を得て、その力を一身に注いで貰えば一気に公爵まで上り詰めれると思ったのだろう。

 しかし幾ら貢物を宛がい面会を乞おうとも、ナツはそれらを一切無視し誰とも会おうとしなかった。

 ナツ曰く、どの世界でも権力者って言うのは自己利益者ばかりで人を人とは思っていない。

 ただの駒として扱うその姿勢がナツは好きじゃないんだって。

 

 ・・・何も言えない。

 力主義の魔族にとってはそれは当たり前の事で、ある種の本能だ。利用出来るものは何だって利用するし、力ある者以外には従わない。自分以外は皆ただの道具。不要となれば切り捨ればいい。

 

 けど、どうしよう。

 それを正直にナツに言うのは憚れるし、僕もそんなヤツだと思われて嫌われたくない。(実際はそうだけど)

 

 そんな僕の葛藤を他所にナツは苦笑し、

 

 

「・・・でも、一国の王妃様になったらそんなこと言ってられないよね。今まで貴族とか権力とかと無縁な生活をしていたからよく分からないけど、上に立つ人間っていうのは貴族同士のラインも大切にしなきゃいけないんだよね。私個人としての感情よりも国の事を一番に考えなくちゃいけない。私ルーの奥さんとしては失格かな」

 

 

 悲しそうに話すナツに胸が締め付けられるようだった。

 

 

「ううん、ナツは僕の側に居てくれるだけでいい」

 

 

 寧ろそれだけが良い。

 誰にも会わず、ずっとずっと僕の事だけ考えてくれれば良いのに。

 

 

 

 その次の日からナツは意を決したように面会を受け付けるようになった。

 ただし、その見た目が“愛らしい”と分類される者だけ。

 幼体の者が小さな身体を寄せ合い、ナツの前に座っていた。

 

 

 ・・・・・・。

 

 

 ナツは自分にとっても正直だと思う。

 そう言うところはすっごく魔族っぽいよね。

 しかもいくら見目が良くても強欲・傲慢といった性質の輩は嗅ぎ分けて、純粋に好意を抱いている者だけを選りすぐっているみたいだし。不埒な感情が見えればすぐに距離を置こうとする。

 うん、獣並みの嗅覚の良さだ。

 相変わらず成体系の男は皆断っているようだし、カルディアとメアリーが側に付いてるから大丈夫だろう。   

 不敬な者が居れば速攻喰い殺すはずだ。

 暫くは様子を見よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナツキ様との御契約が完了するまであと期間はどのくらいなんですか?」

 

「うーん、あと二ヶ月ってとこかな。」

 

 

 本当はもう少し掛かるはずなんだけど、少しでも早く僕に馴染むよう、ナツの食事には少量ずつ僕の血を混ぜている。

 今のところ拒否反応も出てないし、このまま順調にいけばもっと早まるかもしれない。

 ああ、早くこの手でナツを抱きたいよ。

 身体が不安定な今、一つに交わることは出来ない。

 不用意に抱いて体内のバランスが狂って影響が出たら元も子もないからね。

 完全に魔に染められるまで待ち遠しい。

 

 

「今度夢への介入があたら僕に回して。僕もご挨拶がしたいから」

 

「心得まして。魔王陛下」

 

 

 ゼノンの手から球を取る。

 

 バキッ

 

 力を籠めたら中の頭は潰れ球が真っ赤に染まった。

 これは“本体”も死んだな。

 

 

 ナツに手を出すなんて許さない。

 

 だってナツは僕の物だもの。

 

 誰にも渡さない。

 

 僕の知らない所でナツに近づこうとするなんて、メッてしなきゃ。

 

 

 

 

 可愛い可愛い僕の奥さん

 

 

 浮気は許さないからね?

 

 


次回からは4000~5000文字を目安に更新していこうと思います。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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