堕天使編9
「また派手に割れたねえ。何したってんだい一体」
「ちょっと鳥が飛び込んで……」
「鳥ってあんたねぇ、こんなガラス割れるわけないだろう」
「ははは……。いや、ちょっと物を運んでいたらバランスを崩しまして……」
大家さんはやれやれと呟きながら、俺の出したお茶をずるずるとすすった。
「次は気をつけて運ぶんだよ」
「すみませんでした……」
それからしばらくした五時丁度。
割れたガラスの処理と窓ガラスの嵌め込みが終わり、大家さんと業者の方は帰っていった。
「はぁ、疲れた」
「……出ていい?」
「おう」
翠はそーっと押し入れを開けると、ふわりと羽ばたいて俺の前に降りてきた。
「おとなしくしてられて偉いぞ」
「ん……」
頭を撫でてやると嬉しそうに微笑む。
「翠、俺は今日6時からバイトなんだ。三時間くらいなんだが、一人でも大丈夫か?」
「平気」
「そうか。じゃあ安心して仕事出来るな」
「お仕事頑張ってっ」
にかっと笑うと翠は擦り寄ってくる。
あーかわいい。まるで懐きはじめた子犬か子猫のようだ。
こんなにも仕事に行きたくないと思ったのは久しぶりだ。
「翠」
「んー?」
「俺は絶対に帰ってくるから、寂しいとか思うんじゃないぞ」
「うんっ待ってる」
「よし、偉いぞ」
俺はたくさん翠の頭をなでまわし、バイトの準備をして家を出た。