堕天使編8
翌日。
俺は学校に欠席の連絡を入れて、台所に立った。
さすがにこの翠をガラスのない家に放置出来ない。
色んな意味で怖い。
フライパンに卵を落としたところで、翠が鳥の天使であることを思い出す。
もしかして、共食い?
「…………」
ダメだ。出せない……。
俺は割った卵を目玉焼きからスクランブルエッグに変更してタッパーに押し込んで冷蔵庫に無言で収めた。
「翠が寝たら食べよう……」
パンをオーブントースターに入れて、焼き上がるまでの間にお湯を沸かす。
スープ皿にインスタントコーンスープの粉を出して、待つ。
カチンとお湯が沸いた音がして、ポットを器に傾ける。
まぁインスタントでも立派な香りが部屋に立ち込める。
「いい匂い」
早速香りに誘われた翠がやってくる。
「翠、部屋で待ってな。持ってくから」
「うん」
チン、とオーブンが鳴り、丁度のタイミングでパンが焼けた。
コーンスープとパンなんていう質素な朝だが、今は食材が無いから仕方ない。
それに翠が喜んでるようなので特に気にしない。
「ほら、翠朝ご飯」
「わーっ」
「熱いから冷ましてからスープ飲むんだぞ……ってちょっと待て!」
テーブルにスープを置いた瞬間、口を近付けたため、翠の肩から流れ落ちた髪がスープに入った。
さらに熱かったために舌を火傷したのか翠はビクッと震えてあとずさる。
「とり頭なのか翠……」
「あちゅい……」
翠の髪の毛がベタベタで、俺は自分の分を置いてからタオルで彼の髪を拭き、コップに水を入れてストローを差して渡す。
ちうちうと冷たい水を飲みながら、翠は俺をちらちらと見上げる。
「何」
「怒った?」
「ちょっと呆れた」
「うぅ……」
翠はぶくぶくと水を泡立てる。
「行儀悪いからぶくぶくしない」
「ごめんなさい」
やれやれ。
可愛いんだからまったく。
一時期髪が長い時期があったので、どこかに髪止めがあったはずだ。
俺は引き出しを手当たり次第開けてピンを探した。
「あ、あった」
見つかった数本のそれで翠の長い横髪を留める。
これで食器に口から行っても大丈夫だろう。
「オッケーだ。スープ飲んでも良いがちゃんと冷ましてから飲むんだぞ。あ、先に言っとくが翼で扇ぐのはダメだぞ」
「分かった」
そういうと翠はふうふうと息を吹き掛けた。
「パン食うか?」
「食べる」
一口サイズにちぎって口元へ持っていくと、翠はぱくんと口に入れた。
飲み込んではスープに口をつけるのを繰り返し、翠はすぐにパンとスープを平らげた。
食欲だけは半端ないな。
この天使は。
満腹になると、翠は自らベッドへ行くと丸くなる。
食べると寝るのか。としみじみ思いながら、俺はスクランブルエッグを取りに行き、食事を始めた。
「あ、そう言えば」
今日は6時からバイトだ。
その間、翠は留守番出来るだろうか。いくらガラスが入るとはいえ、心配だ。
これから学校がある間も、この不安を抱くのかと俺はため息をついた。