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堕天使編5


そう言った翠は、俺の顔色を窺いながら、ぽそぽそと自身のことについて話しはじめた。


普通の姿の人間が話していたら、即座に信じろと言うのは無理な内容ばかりだったが、目の前にいる翠の肩から生える翼が、彼の言葉の何もかもが真実だと物語った。


翠の話を要約するに、彼は聖歌をさえずる芸術の女神が生み出した、鳥の天使だったそうだ。

天界では天使に、現世では聖人や聖女に愛され、翠は仲間たちと一緒にたくさんの賛美歌や聖歌を歌っていた。


そんな翠が悪魔に堕ちたのは何の前触れもなく訪れた日。

前日はいつものように教会で歌を歌っていた。


翠が目を覚ますとそこは聖なる光りなど一筋も差し込むことがない暗闇だった。

鳥の天使だけに鳥目の翠は、今までに感じたことのない黒一色の恐怖にうち震えることしか出来なかった。

それから何日も何ヵ月も経って暗いのに目が慣れた翠は、うっすらと見える岩壁を辿りながら歩きだした。何年も何年も。


その間に目はいつの間にかくっきり闇を見渡せるようになり、自身の身体に満ちていた光の力も弱まっていくのを感じた。


何十年の間歩き続けただろう、ようやく現世に繋がる池を見つけた翠は、迷うことなく飛び込んだらしい。


そして。


「会ったの」


「俺に?」


こくんと頷く。

翠は俺の胸に頭を押しつけながらくぅ、と声をもらした。


「まだ、ぼくは天使な気がする。悪魔だって、感じがしないの。でも。ぼくにはもう光がない」


「翠……」


「悪いこと、いけないと思う。悪魔、怖いと思う。人間、嫌いじゃない」


「翠」


「……でも、ぼくは悪魔だから。やっぱりゲヘナ(地獄)に帰る」


翠が離れようとするのを無言のまま阻止し、力ずくで引き寄せ、抱き締める。


どうしてこんなにもかわいいのか。

どうしてこんなにも守ってあげたくなるのか。

自分でも分からない。

ただ、どうしても地獄とやらに帰すのも嫌で、彼が不幸なのも気に食わなかった。


「大丈夫だ。ここにいればいい」


「でも」


「でもじゃない。いろ」


「………ん」


胸のところに、じんわりと染みが広がる。

ぐりぐりと、彼は顔を押しつけた。


「泣き虫だな。翠」


「泣いてない。泣いてないもん」


翠はバサリと翼を上下させて抵抗した。

何枚もの小さな羽根がふわりと部屋を舞う。


一瞬にしてただのワンルームが幻想的な空間に変わり、俺は様々な感情と涙を流す彼を、短い腕を精一杯広げてまたきつく胸に抱き留めた。


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