堕天使編11
~天界:《果て:第二天・ラキア》~
なんたる失態だろうか。
私ともあろうものが下級天使が堕天するのを阻止出来なかっただと!?
――彼の前に浮かぶ雷で作られた小窓に映るのは、一匹の堕天使が人間と眠る姿。
天界の果ての果て。
そう自身を責め立てているラグエルが住むのは、天界だがまるで地獄のように暗い街にある廃屋。
彼には上等な城が支給されているが、なぜかそこに住まわず、好んで廃屋に居座ってはや……何XX年。
廃屋はラグエルの憤りの咆哮だけで崩れおちそうだったが、なんとか揺れるだけで崩壊することはなかった。
「あぁ、私としたことが!!」
手入れが面倒で腰の辺りまで伸びるだけ伸びたボロボロの髪を振り乱しながら、ラグエルは部屋の中を行ったり来たりを繰り返す。
まず自分自身にどういう罰を与えるか考えをまとめ、声に出して言った。
「ラグエル、お前は鞭打ち1000回だ。明日部下を呼んで刑を執行する」
ラグエルはふう、と1つ息を飲んだあと、直ぐに部下あてにプット(小天使)を飛ばした。
「次、ルエルとリエルに与える罰は……」
自らの刑を考えた時間の半分以下の思案のあと、ラグエルは肩を竦めて首を振る。
「考えるまでもない。《死刑》だ。ルシファーの氷河で永劫の眠りについてもらう。堕天使に、慈悲など無用」
ラグエルはニヒルに笑むと、手に雷の刃を握り、悪役さながらの高笑いを闇に響かせた。
《悪魔には死を》
《地獄には更に深い闇を》
《堕天使には絶望を》
自身のモットーを何度も何度も心の中で唱えた彼は、ふと笑うのを止め、忌々しい堕天使の隣に映る人間に目を止めた。
「この人間にも、罰を与えるべきではないのかラグエルよ」
そう自分に話しかけ、人間はなんという罪を侵したかを審査する。
「堕天使なぞと関わること自体、秩序を壊す大きな罪ではないのか?ラグエル」
まるで言い聞かせるように呟き、ラグエルは一人納得し頷く。
あの人間は罪人だ。
堕天使と接触した。
とても許しがたい行為だ。
堕天使を取り締まれなかったのは私の責任だ。
天使、否私に裁く権利がある。
鬼の形相とは、まさに今のラグエルの表情である。
天使と言って行動はまるで悪魔のようだが、それは誰も口にすることは出来ない。
彼は《ルミナリーの世界に復讐する者:天界を監視する者》として尊敬され、畏怖されていた。
つまりは、誰一人として、彼を敵には回したくないと思っているからであった。
「天使を監督するのが私の役目。全うしてみせる」
そうしてラグエルは、空高だかに神から授かったラッパを吹きならした。
《堕天使には絶望を》
《悪魔には死を》
ラグエルのラッパの音は、一晩なり止むことは無かった。