堕天使編10
翠が家に来て、五日目。
夕方、学校の帰り道で見知らぬ男二人に声を掛けられた。
「栗咲 翔くん」
「?」
長い金髪を一つに結まとめた碧眼の背が高い男と、同じく金髪だが透明感のある緑の瞳にメガネを掛けている男が、真っ直ぐにこちらを見据えている。
誰だろうか。こんな知り合いがいた覚えは無いのだが……。
俺の名を知っているのも大いに疑問である。
怪訝な目つきで彼らを見返すと、メガネの男が衝撃的なことを口にする。
「我々はあなたの家にいる彼の上司です。少々お話がしたくてはるばる天界からやってまいりました」
「翠の、上司?」
メガネの男は頷き、背の高い方の男は肩をすくめながら、「信じられねーって顔だな」と俺の心情を読み取り、言葉を紡いだ。
彼はメガネの男に催促され、めんどうくさげに名前を名乗る。
「俺はアナフィエル。そっちのメガネがエノクっていう。信じてなくても、“君達”の味方だと思ってくれていればいい」
「“君達”……」
「そう君と、君の家にいる小さな堕天使のね」
長身の男もといアナフィエルは、黙り込む俺に意味ありげな笑みを向けてくる。
どうやら彼らはら本当に翠の事を知っているようだ。これは間違いないだろう。
この日、二人に出会ったことが、本当の全ての始まりであることに、あの頃の俺は気が付いていなかった。