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短編版 【餌付け】ミステリアスな高身長先輩に串団子を捧げたら、ぷっくりほっぺの天使が現れました。~ななか先輩は今日も僕の前でだけかわいい~【幼馴染も嫉妬でぷっくり】

作者: 天堂慧
掲載日:2026/02/21

「世界中の人が、いつも笑顔でいられたらいいのに」


 なんて言うと、決まって友人たちは「お前はお人好しすぎる」と呆れ顔で笑う。

 けれど、僕は本気だ。眉間に皺を寄せて難しい顔をしているより、美味しいものを食べて「ふふっ」と笑っている顔の方が、ずっと素敵だと思うから。


 そんな僕が、彼女――ななか先輩に出会ったのは、桜の花びらがまだ歩道に白く残る、四月の放課後のことだった。


 学園の正門を出てすぐ。

 香ばしい醤油の香りと、甘い蜜の匂いを漂わせている和菓子屋『三色堂(さんしきどう)』の前に、その人は立っていた。


(……綺麗だな)


 思わず、足が止まった。

 すらりとした高身長。艷やかな亜麻色のロングヘア。モデルのような美しいシルエットなのに、不思議と『守ってあげたくなる』柔らかさが滲んでいる。

 凛とした空気を纏ったその背中は、校内でも「ミステリアスな美人がいる」と噂になっていた二年生、森園(もりぞの)ななか先輩だった。


 けれど、そんなクールな雰囲気とは裏腹に、彼女の視線は一点に釘付けになっていた。

 ショーケースの中に並ぶ、つやつやに輝く『みたらし団子』に。


「…………」


 先輩は、じーっとお団子を見つめている。

 細い指先を口元に当てて、まるで世紀の難問を解いているかのような真剣な表情。


 だけど、時折「ぐぬぬ……」という心の声が漏れてきそうなほど、切なげに眉を寄せている。

 財布を取り出しては、中を覗き、そっと閉じる。

 それを三回ほど繰り返して、彼女は深いため息をついた。


 ……困っている。

 これは、明らかにお団子を前にして困っている。


「あの、先輩」


 気づけば、僕は声をかけていた。


「……っ!?」


 びくっ、とスレンダーな背中が跳ねる。

 ゆっくりと振り返った彼女の瞳は、少し潤んでいるようにも見えた。

 近くで見ると、その美貌に圧倒されそうになるけれど、今はそれ以上に彼女の「切実さ」が伝わってくる。


「お団子、食べたいんですか?」


 僕がそう尋ねると、彼女は一瞬だけ逡巡するように視線を泳がせたあと。


(……コクリ)


 小さく、だけど力強く頷いた。

 言葉はない。でも、その瞳が「すごく、食べたい」と雄弁に語っている。


「だったら、僕に買わせてください。入学祝いで親戚からお小遣いをもらったばかりなんです」

「……そんな、わけには」

「僕、お節介なんです。目の前で悲しそうな顔をされるのが、一番苦手で」


 僕は店員さんに声をかけ、一番美味しそうに焼けている串団子を一本注文した。

 はい、どうぞ。そう言って手渡すと、彼女は驚いたように目を見開いたあと、吸い込まれるような仕草でそれを受け取った。


「……いただきます」


 小さく、消え入りそうな声。

 彼女は包み紙を丁寧に開き、その一粒を口に含んだ。


 その瞬間。

 僕の心臓は、ドクンと大きく跳ねた。


「……おい、ひい……」


 クールだった先輩の顔が、一瞬でとろけた。

 シュッとしたフェイスライン。そんなミステリアスな彼女の頬が、お団子を含んだことで「ぷっくり」とリスのように膨らんだのだ。


 幸せそうに、もぐ、もぐ、と咀嚼する。

 柔らかそうな頬が動くたびに、僕の視線は釘付けになる。


 なんだこれ。めちゃくちゃ……いや、超絶に可愛い。


「ん…………っ」


 ペロリ。

 唇の端についた琥珀色の蜜を、小さな舌が器用に舐めとった。

 熱を帯びた瞳が僕を捉え、彼女の頬がほんのりと桜色に染まる。


「……ありがと。すごく、おいしい」


 そう言って、彼女は今日一番の、そして僕が今まで見た誰よりも綺麗な笑顔を見せた。


「…………」


 食べ終えたあとの串を「はい」と僕に預けると、彼女はどこか恥ずかしそうに、だけど足取り軽く、夕暮れの街へと去っていった。


 手の中に残された、一本の竹串。

 先端には、まだほんの少しだけ甘い匂いが残っている。


(これ、先輩が口につけたやつだよな……)


 急に自分のしたことの重大さに気づいて、顔が火照るのを感じた。

 お人好しにも程がある。だけど、あの「ぷっくり」としたほっぺと、最後の笑顔。


「……ななか先輩、か」


 春の風が、少しだけ甘い匂いを運んできた気がした。

 これが、僕と「食いしん坊な天使」との、始まりの放課後だった。



「――ひなたー、朝だぞー。生きてるかー?」


 お隣さんである柏田(かしわだ)家の玄関を、勝手知ったる我が家のようにくぐる。


 僕の家の『甘野庵(かんのあん)』と、ひなたの家の『三色堂(さんしきどう)』は、この街で長く続く和菓子屋仲間だ。家族ぐるみの付き合いどころか、僕とひなたは生まれた時からの腐れ縁である。


「伊織くん、おはよう。今日もごめんねぇ、あの子ったら全然起きなくて」

「おはようございます、おばさん。いいですよ、日課みたいなもんですから」


 台所で朝食の準備をするひなたのお母さんに挨拶し、僕は二階の「魔境」へと足を踏み入れた。


 ひなたの部屋のドアを開けると、そこには四月の爽やかな朝とは無縁の光景が広がっていた。

 ベッドの上で、タオルケットを盛大に蹴飛ばし、Xの字になって爆睡している少女――柏田ひなた。


「……ふにゃ……あんこ……盛りすぎ……」


 低い位置で緩く結んでいるはずのツインテールは、寝返りの嵐に揉まれて、もはや得体の知れない毛玉と化している。学園前にある『三色堂』の看板娘として、放課後にお店を手伝うこともある彼女だが、この姿を見たら常連客もひっくり返るだろう。


「おい、ひなた。いつまであんこの夢見てるんだ。遅刻するぞ」


 枕元に歩み寄り、声をかける。反応なし。

 お人好しの僕でも、これには毎朝ツッコミを入れたくなる。ラブコメなら、可愛い幼馴染が「おーきーてー!」と男子の部屋に飛び込んでくるところだ。なぜ僕が、女子の寝相を修正する係をやっているんだろう。


「……んぅ……伊織ぃ……? もう食べられない……」

「安心しろ、最初から何も出してない。ほら、起きろ」


 肩を掴んでゆさゆさと揺する。

 すると、ひなたの瞼がようやくピクリと動いた。


「……ふぇ? い、いおり……?」

「あぁ、伊織だ。あと十五分で家を出ないと、一時間目の数学に間に合わないぞ」

「…………じゅう、ごふん?」


 ひなたの瞳が、急速に焦点を結んでいく。

 三秒後。


「ぎゃあああああああ!? なんで起こしてくれないのよバカ伊織ー!!」

「いや、五分前からずっと呼んでたからな?」


 ひなたは跳ね起きるなり、僕の胸元をポカポカと叩いてくる。

 寝起きのせいでパジャマの肩ははだけているし、髪の毛は芸術的な爆発っぷりだ。本人は必死なんだろうけど、こういう隙だらけなところが「妹っぽい」んだよな、と思う。


「ちょっと! 見てないで下行ってて! 五分で支度するから!」

「はいはい。おばさん、ひなた起きましたよー」


 背後で「もう、伊織のバカぁ!」という叫び声を聞きながら、僕は一足先に一階へ降りる。


 ……全く、世話の焼ける幼馴染だ。


 ふと、昨日の放課後に出会った「ななか先輩」のことを思い出す。

 凛としていて、ミステリアスで、でもお団子を前にした時のあの子供のような無垢な瞳。


(……今日も、三色堂の前を通るかな)


 そんなことを考えながら、僕は玄関先で、トーストを咥えて飛び出してくるであろう幼馴染を待つのであった。



 僕の家は、この街で三代続く和菓子屋『甘野庵(かんのあん)』だ。

 といっても、いま僕が立っているのは商店街にある店舗の方ではない。そこから少し離れた場所にある自宅の台所だ。


 すぐ隣には幼馴染のひなたが住む『三色堂』が並んでいるけれど、昼間のこの時間は両親も店に出っ放し。しんと静まり返った我が家の台所は、放課後、僕だけの「秘密の工房」へと姿を変える。


 今日の課題は、もちろん「串団子」だ。

 あの日の放課後、脳裏に焼き付いて離れない、ななか先輩の至福の表情。あれをもう一度、いや、もっと最高の形で引き出すためには、市販品レベルじゃ納得できない。僕の全てを懸けた、究極の傑作を仕上げるんだ。


「よし、いくぞ」


 気合を入れ、真っ白な作業台に向かう。

 まずは生地作り。上新粉と白玉粉を、これまでの研究で導き出した絶妙なバランスで配合し、ゆっくりと水を加えていく。


(……先輩のあのほっぺ、本当に柔らかそうだったな)


 粉のさらさらとした感触が、なぜか先輩の白い肌を連想させて、無意識に口元が緩む。いけない、集中だ。

 耳たぶくらいの硬さになるまで、丁寧に、けれど情熱を込めて練り上げていく。これはただの団子じゃない。先輩を笑顔にするための、魔法の玉なんだから。

 蒸し上がった生地からは、甘いお米の香りが立ち上る。熱いうちに臼でつくこの工程が、食感の決め手だ。


『美味しい顔にな~れ、美味しい顔にな~れ……』


 心の中で呪文を唱えながら杵を振るう。つけばつくほど、生地は艶やかに、滑らかに。まるで、先輩のきめ細かい素肌のような質感に育っていく。

 次は成形。一口サイズにちぎり、手のひらで転がして綺麗な真ん丸にする。

 これを串に刺していく作業は、職人らしいリズム感が大事だ。トン、トン、トン。三兄弟が仲良く並んだ。


 そして、最大の難関――「焼き」と「タレ」の工程へ。

 焼き網の上に乗せると、じゅわっ、と微かな音が響いた。

 香ばしい匂いが工房いっぱいに広がる。焦げすぎないよう、一瞬の隙も逃さず裏返す。うっすらとついたキツネ色の焼き目は、美味しさの勲章だ。


(先輩、熱いのは大丈夫かな。ふーふーして食べる姿も、きっと可愛いんだろうな……)


 妄想が暴走しそうになるのを必死に抑え、隣のコンロでタレに取り掛かる。


 醤油、砂糖、みりん、片栗粉。門外不出の黄金比率で混ぜ合わせた鍋を火にかけた。

 ヘラを休めることなくかき混ぜる。とろみがつく瞬間を、絶対に見逃してはいけない。

 透明だった液体が、熱を帯びることで徐々に琥珀色に変わり、艶やかな粘り気を帯びてくる。


(このタレが、先輩の唇についたら……それをまた、ペロって……)


 ドクン、と心臓が跳ねた。

 危ない、手が止まるところだった。煩悩を振り払え、僕。


 仕上げだ。焼き上がった団子を、熱々のタレの海にダイブさせる。

 たっぷりと琥珀色の衣を纏わせれば、夕日のように美しく輝く、極上のみたらし団子の完成だ。


「……できた」


 工房の熱気の中で、僕は額の汗を拭った。

 見た目は完璧。匂いも最高。


 あとは、あのミステリアスな食いしん坊天使が、これを食べてどんな「ぷっくり」を見せてくれるか、だ。

 想像しただけで、僕の頬まで緩んでしまうのだった。



「――ちょっと、伊織っ! また試作やってるの? 匂いが表まで漏れてるわよ!」


 引き戸が勢いよく開き、工房の静寂がにぎやかな声に塗り替えられた。

 入ってきたのは、我が家の隣――和菓子屋『三色堂』の看板娘であり、僕の幼馴染のひなただ。低い位置で結んだツインテールをぶんぶんと揺らし、彼女は不機嫌そうに腰に手を当てて僕を睨んでいる。


「あぁ、ひなたか。悪いな、ちょっと納得いかないところがあってさ」

「納得いかないって……あんた、昨日も同じこと言ってなかった? 全く、伊織がこだわりだすとキリがないんだから」


 ひなたは呆れたように肩をすくめるが、その鼻先はひくひくと動いている。隠しきれない期待が、潤んだ瞳に透けて見えていた。


「ほら、看板娘の私が毒味……じゃなくて、味見してあげるから。出しなさいよ」

「毒味って……。はい、熱いから気をつけて」


 僕は出来立てのみたらし団子を一串、彼女に差し出した。

 ひなたは「仕方ないわね」なんて口では言いながら、迷わずそれを受け取ると、ふーふーと小さく息を吹きかけてからパクりと食いつく。


「……ん! んん~っ、相変わらず、あんたの作るタレは絶妙ね」


 一口食べて、ひなたは満足そうに目を細めた。

 幸せそうなその顔を見て、僕は思わず本音が漏れる。


「だろ? これなら、ななか先輩も喜んでくれるかな……」

「…………ななか、せんぱい?」


 ひなたの手が、ピタリと止まった。


「誰よ、その……いかにもお淑やかそうな、これぞヒロイン! みたいな名前の人は」

「あぁ、この間お団子をあげた二年生の人だよ。背が高くて、モデルみたいに綺麗なんだけどさ。お団子を食べてる時は、あのシュッとしたほっぺをこう、ぷっくり膨らませてさ。それがまた、めちゃくちゃ可愛いんだよな」


 あの日見た「食いしん坊天使」を思い出し、僕がデレデレと鼻の下を伸ばすと、工房の温度が急降下した。

 ひなたの頬が、ななか先輩とは別の意味で「ぷっくり」と大きく膨らんでいる。


「……ふーん。モデルみたいで、ぷっくりで、可愛いんだ。へぇ、そうなんだぁ」

「ひなた?」

「別に! あんたが誰にお団子を振る舞おうが勝手だけどさ! 私は幼馴染として、あんたが変な女に騙されて、お店の秘伝のタレとか盗まれないか心配してるだけなんだからね!」


 ひなたは残りの団子を強引に口へ押し込むと、もぐもぐと力いっぱい咀嚼しながら、恨めしそうに僕を睨みつけた。


「伊織のバカ! お人好しも大概にしないと、そのうち自分がお菓子に加工されて食べられちゃうんだから!」


 それだけ言い残すと、ひなたは嵐のように工房を去っていった。

 バタン、と景気よく閉まった戸のあとには、なぜかいつもより少しだけ、甘酸っぱく焦げた醤油の香りが残されていた。


(……そんなに怒ること、言ったかな?)


 僕は首を傾げながら、次の試作の火加減を調整する。


 憧れのミステリアスなななか先輩と、口うるさいけど放っておけないひなた。

 どうやら僕の四月は、想像以上に賑やかで、そして少しだけ騒がしくなりそうだ。



 放課後のチャイムが鳴ると同時に、僕は足早に校門を抜けた。

 向かう先は、学園の目の前にある和菓子屋『三色堂』――ではなく、その隣。僕の自宅だ。


(先輩、今日もあそこにいるかな……)


 期待を胸に角を曲がると、案の定、彼女はそこにいた。


 夕日に照らされた亜麻色のロングヘア。モデルのような高い背筋。

 ななか先輩は、今日も『三色堂』のショーケースの前で、彫刻のように静止していた。


「…………」


 その横顔はどこまでもクールでミステリアス。けれど、その視線はつやつやのみたらし団子に一点突破で突き刺さっている。

 お財布の中身と食欲の間で、彼女は今日も人知れず、世紀の死闘を繰り広げているのだ。


「ななか先輩」


 声をかけると、先輩は「はうっ!?」と短く声を漏らして肩を震わせた。


「……あ、一年の、お節介さん」

甘野伊織(あまのいおり)です。先輩、またお団子と睨めっこですか?」

「……睨んでない。見つめてただけ」


 先輩は頬を微かに染めて視線を逸らしたけれど、そのお腹から「ぐぅ……」と切実な音が聞こえてきた。

 耳まで真っ赤になっている先輩が、たまらなく愛おしい。


「ちょうどよかったです。家で新作の試作をしてたんですけど、お団子って時間が経つと固くなっちゃうじゃないですか。一番美味しい状態で食べてほしいので、うちの縁側でモニターになってくれませんか?」

「……うちって、すぐそこの?」

「はい。目と鼻の先です」


 僕が自宅を指差すと、先輩は迷う仕草を見せた。

 少しの逡巡のあと、食欲という名の悪魔が勝ったらしい。


 「……モニターとしてなら、協力する」


 そうして僕は、憧れのななか先輩を連れて、家の門をくぐった。

 夕暮れの優しい光が差し込む縁側に、先輩に座ってもらう。


 僕は急いで工房へ向かい、今朝練り上げた生地を手早く仕上げ、香ばしく出来上がった「最高傑作」を皿に盛った。


「お待たせしました。淹れたてのほうじ茶と一緒にどうぞ」


 朱塗りの盆に乗せられた、琥珀色に輝く三兄弟。

先輩は、ごくり、と喉を鳴らした。


「……いただきます」


 細く綺麗な指が、串をそっと手に取る。

 そして、小さく開かれた口に、最初の一粒が運ばれた。


 その瞬間。


「……んぅっ……!」


 劇的な変化が訪れた。

 凛としていた先輩のフェイスラインが、一瞬でとろけた。


 柔らかいお餅を頬張ったことで、シュッとしていた頬が、内側から押し出されるようにして「ぷくーっ」と丸く膨らんだのだ。

 まるで、大好物をいっぱいに詰め込んだ小動物の頬袋だ。

 高身長で大人びた雰囲気とのギャップが、その可愛さを暴力的なまでに引き立てている。


(……っ、かわいい……!!)


 心の中で叫びながら、僕は懸命に冷静さを装う。

 先輩は目を細め、幸せそうに「もぐ、もぐ」と咀嚼を繰り返す。

 柔らかそうな頬がリズムよく動くたびに、僕の胸は締め付けられるように高鳴った。


「……おいひぃ……これ、すごふおいひぃ……」


 口の中が幸せで満たされているせいで、言葉がうまく発音できていない。

 けれど、その潤んだ瞳と、緩みきった口元が、何よりの感想だった。


「……ふぁぁ。幸せ……」


 最後の一粒を飲み込み、とろんとした表情で空を見上げる先輩。

 夕日に照らされたその横顔は、ミステリアスな美少女から、ただの「お団子が大好きな女の子」へと変わっていた。


「どうですか、お口に合いました?」

「……うん。伊織くん、天才。お店で売ってるのより、ずっと好きかも」


 先輩は僕の方を向き、ふにゃりと無防備に笑った。

 その瞬間、僕の胸の中に、これまでにない達成感が広がった。


(あぁ、これだ……)


 僕が作ったもので、この人を笑顔にできた。

 眉間の皺が解けて、柔らかな「ぷっくり」が生まれるこの瞬間。

 お人好しだって言われてもいい。僕は、この笑顔を隣で見守るために、和菓子屋の息子として生まれたのかもしれない。


「先輩、おかわりもありますからね」

「……食べる」


 二本目に手を伸ばす「食いしん坊な天使」を眺めながら、僕は確信した。

 僕の高校生活は、甘いお団子の香りと、この世界一可愛いほっぺとともに、最高に甘酸っぱく幕を開けたのだ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

ぷっくりほっぺのななか先輩、いかがだったでしょうか。

この作品は短編ですが、長編化することを検討しています。もし良かったら、ページ下の★評価で応援をもらえるとうれしいです。

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