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ただの使用人の女ですが、伯爵家次男の振りをして士官学校に入学します  作者: 睦見むに
三章

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二つの歪み


 二日ほど熱で寝込んでいたカルディアだったが、三日目にはすっかり良くなっていた。今はキッチンで、遊びに来たミンスと二人お喋りに興じている。ちなみにレオは町に出ていて、ファルサも仕事があるとかで部屋に篭っている。


「今日はこれから何すんの?」

「うーん、特に何もすることがなくて。正直暇だよ」


 今朝、ファルサに家の手伝いを申し出てみたのだが、「病み上がりなんだから、ゆっくりした方がいいですよ」と断られてしまったのだ。そんなカルディアの様子を目に、ミンスが不思議そうに言う。

 

「元気になったんだし、暇なら王子について行けば良かったじゃん」

「それが――」


 カルディアだって、最初はそのつもりだった。しかし、今日のレオは猛烈に機嫌が悪く、とてもついて行ける雰囲気ではなかったのだ。朝起きて顔を合わせた瞬間、鋭い眼光で睨みつけられたのを思い出す。カルディアが寝込む前までは普通で、回復して数日ぶりに会ったらこうなっていたのだから、原因なんて知る由もない。


「ふーん。なんか怒らせることしたんでしょ」

「してない……と、思うけど……」


 話を聞いたミンスが興味なさげに言い放った言葉を、カルディアは弱々しく否定する。レオを怒らせた記憶はないが、彼に対しては他の誰よりも気安く接している自覚がある。態度も口も悪いレオだが、何だかんだ許してくれるし、面倒見が良いのでつい甘えてしまっていた。そんな今までの態度が、ここにきて問題になっているのだろうか。


(でも、殿下がそんなことであんなに不機嫌になるとも思えないし……かといって、他に心当たりなんてないんだよね)


 結局頭でどれだけ考えても、レオ本人に聞かなければ分からないことだ。しばらく独り言のように唸っていたカルディアがそう結論づけた時、話に飽きたらしいミンスが椅子から立ち上がった。我が物顔でキッチンを漁ると、クッキー片手に戻ってくる。そんなミンスの様子に、カルディアは前々から抱いていた疑問を投げかけた。


「ミンス君って、ファルサさんとはどういう関係なの?」


 一緒に住んでるわけではないようだが、ただの知り合いというには気安すぎる。毎日のように遊びにくるし、家主がその場にいなくても、我が家のように寛いでいるのだ。


「どういう関係って言われてもなぁ」

「ていうことは、親戚とかじゃないんだ」

「うん。町を歩いてたファルサに、俺が声かけたんだ。二ヶ月前くらい?」


 ミンスとファルサは、案外短い付き合いらしい。意外な事実に驚きつつ、ミンスが差し出してきたクッキーを頬張る。ミンスは残りのクッキーを次々に口へ放り込み、食べ終えてしまうと席を立った。


「じゃ、俺そろそろ帰るから。早めに王子と仲直りしなよ」

「あはは……出来るだけ頑張るよ」


 カルディアは苦笑いしながらミンスを見送った。しばらくして、入れ替わるようにレオが帰ってくる。もしかしたら機嫌が治っているかもしれない、そんな期待を胸に話しかけてみた。


「お帰りなさい。何か進展はありましたか?」

「……特には」


 カルディアの思い虚しく、帰ってきたのは短い一言だ。目を合わせることもなくその場を立ち去ろうとするレオを見て、カルディアは無意識にその手を握り引き止めていた。


「何だよ」

「えっ、あの、えーっと……」


 何も考えずに行動したのだから、何と聞かれても困る。だがこうなったら、レオがこんな態度になった原因を問いただすほかないだろう。カルディアは意を決して口を開いた。


「あ、あの!殿下、今朝から様子がおかしい気がするんですが……」

「…………」

「何かありましたか?もしかして私、無意識のうちに怒らせちゃったんじゃ」


 不安げに言葉を紡ぐカルディアを横目に、レオが深くため息をついた。カルディアの方へと一歩足を踏み出してくる。二歩、三歩と歩み寄られ、カルディアはじりじりと後退していき、ついには壁に背中が当たった。顔の横には、レオの腕が逃げ道を塞ぐように置かれている。困惑して見上げれば、レオの琥珀色の瞳が冷たくこちらを見下ろしていた。


「いいか、一度だけ聞くぞ。……お前、俺に隠してることあんだろ?」

「えっ」


 レオから浴びせられたのは、思いもしない質問だった。しかし、その問いに対する心当たりなら腐るほどある。そもそもカルディアはサイラス・レーラントではないし、ましてや男ですらないのだから。その事実を隠すため、色々と誤魔化してきたことも多い。


(殿下は、どれのことを言ってるんだろう……もし、私が女でサイラス様じゃないってことに気づいたなら……)


 レオの言う隠し事がそれだと確信を持てたなら、正直に告白することも出来ただろう。しかし、違う何かについて話している可能性がある以上、自分から己の正体を口に出すことは憚られた。


(だってもし、私が女だって気づいていなかったら……。本当のことを話したら、殿下との関係は崩れてしまうかもしれない)


 いや、レオの態度を見るに既に崩れているのかもしれない。カルディアが咎の娘だと知ったからこうして冷たい態度に変わったというなら、納得のいく話だ。それでもやはり、カルディアは真実を話すことは出来なかった。


「……心当たり、あるよな?」


 黙ったままのカルディアに焦れたのか、レオがそう言い募る。しかし、カルディアは言葉を返さずに首を振った。カルディアを見るレオの眼光が、より鋭い色を帯びる。レオは小さく舌打ちをすると、壁に置いていた腕を離した。俯くカルディアに、淡々とした口調で言う。


「お前、ミラフォッサに帰れ」

「えっ……」

「海淵の石は俺一人で手に入れる。フェンリル・アストラなら、文句も言わねえだろ」


 突然の突き放すような言葉に、カルディアは思わず反論した。


「で、でも。失踪事件について調査しないと、石は手に入らなんですよ」

「お前が居て役に立つのかよ。お守りしなくていい分、一人の方がよっぽど楽だろ」

「そ、それは……」


 確かに、魔法に秀でたレオと比べ、カルディアにしか出来ないことなんて何もない。カルディアは食い下がる言葉を見つけられず、それでも頷くことは出来ずに立ち尽くしていた。


「ミラフォッサまでの路銀くらい用立ててやるよ。分かったらさっさと支度しろ」


 レオは苛立った声音でそう言い捨てると、ぽつねんと佇むカルディアを置いて部屋を出て行った。



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