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ただの使用人の女ですが、伯爵家次男の振りをして士官学校に入学します  作者: 睦見むに
三章

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 ノヴァはカルディア達を座らせると、紅茶を出して向かいに腰掛けた。彼女の隣に座らされているぬいぐるみは、先ほどまでとは違い動くことも喋ることもない。カルディアがぬいぐるみに向ける視線に気が付いたのか、ノヴァは笑顔で問いかけてくる。


「このぬいぐるみが、どうして生きてるみたいに動いていたのか気になるかしら?」


 カルディアが頷けば、ノヴァはぬいぐるみを膝に乗せて話し出した。


「あれは錬金術よ。ぬいぐるみに、私の魂と命をちょこっとだけ分けていたの。体を休めている間に、もう一人の自分が働いてくれたら最高だと思ったのだけど……。休んでも休んでも疲れは取れないし、ぬいぐるみの体じゃ本のページも捲れない。失敗だったわ」

「疲れが取れねえのは歳のせいだろ」

 

 レオがボソッと呟けば、ノヴァは鋭い眼差しで彼を見やり、「聞こえてるわよ」と不機嫌そうに言った。


(歳のせいってどういうことだろう……?どう見ても若い女性なのに)


 そんな疑問が湧いてきたが、ノヴァがレオに向ける恐ろしい笑みを見ると、とても尋ねることはできなかった。ノヴァは早々に話題を変えたいようで、改めてカルディアに話しかけてくる。


「錬金術については、どれくらい知ってる?」

「全くです」

「そう。だったら初めから教えてあげるわ」


 ノヴァはそう言うと、自身のカップを手に取り紅茶を飲み干した。そして、空になったカップからパッと手を離してしまう。


「えっ!」


 カルディアがつい声を上げたと同時に、床に落ちたカップは粉々に砕けてしまった。ノヴァは「まあ大変」と頬に手を当てている。


「お気に入りのカップなのに、このまま処分するなんて悲しいわよね」


 ノヴァは本当に残念そうな声音でそう言った。わざとカップを落としたように見えたが、不注意だったのだろうか。カルディアは判断しかねて曖昧に頷く。それを見たノヴァは、満足そうな笑みを浮かべた。


「でも、錬金術さえあれば……ほら見て。あっという間に元通りよ」

「本当だ……」


 床に散らばった破片にノヴァが手をかざせば、それは光を放ち瞬く間に元の形に戻っていた。まるで時間が巻き戻ったかのような出来事にカルディアは目を見開く。


「錬金術っていうのはね、ある物を別の形に変えたり、何かと何かを掛け合わせたりする力なの。ゼロから何かを生み出すことも、陶器のカップをガラスに変えることも出来ないけれど……。元となる物さえあれば、無限の可能性がある」

「魔法と違って、四大元素に縛られないってのは強みだな。まあ、素材がなきゃ何も出来ねぇんだけど」


 魔法は地水火風の四大元素とそれに連なる力しか扱えない。対する錬金術はノヴァがぬいぐるみに自分の命を分け与えていたように、素材さえあれば制約はないのだとレオが語る。


「殿下は、錬金術も使えるんですか?」

「使えはするけど、普段はやらねぇな」

「魔法士はみんな錬金術も学ぶのよ。人一人の扱える魔力は限られているから、魔法と錬金術を掛け合わせることで強い力を扱おうとするの。そこの坊やみたいに、余程桁外れの魔力を持ってたら別だけど」


 ノヴァはそう言うと、改めてレオに視線を向けた。どうやら本題に入るつもりのようだ。


「それで……そんな怖いものなしの王子様が、はるばるジェダイトまで私を訪ねてきたのはどうしてかしら?」

「お前に用なんて、錬金術についてしかないだろ」

「やっぱりそうよね。面白い話だといいけど」


 ニコレッタという錬金術師。彼女が生み出した魔人という存在。レオはそれらをノヴァに語って聞かせる。彼女は真剣な表情で話を聞き終えると、さほど間を置かずに口を開いた。


「ニコレッタ、知らない名前ね。魔人を生み出す錬金術については……実際に使うかはさておき、理論的には可能よ」

「理論的には可能、か……。どんな錬金術師でも、魔人を生み出せるのか?」

「それは難しいんじゃないかしら。生物を用いた錬金術っていうのは、技術があっても高いリスクを伴うわ。魔物と人間、掛け合わせる素材がどちらも生物なら尚更ね。術者が錬金に巻き込まれる恐れがある」

「魔人を量産してるニコレッタは、相当腕のある錬金術師ってことだな」

「えぇ、そう考えてもらって構わないわ」


 ノヴァから得られた答えを受け、レオはしばらく考え込むと、「お前に頼みがある」と改めてノヴァに視線を向けた。


「ニコレッタ、それから魔人について調べてほしい」


 レオの頼みに、ノヴァがすぐに頷くことはなかった。勿体ぶるように間を置いて、悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「そうねぇ……私、こう見えて忙しいのよ。でももし、私の代わりに仕事を片付けてくれる人がいれば、坊やの頼みを聞く時間も出来るかもね」

「ハァ……。俺に何させてぇんだよ」


 「流石、話が早いわね」と愉しげなノヴァの言葉に、レオは不承不承の様子で耳を傾けていた。


「ここから西にある港町、ハルジオンで採れる鉱石があるの。それを錬金術に使いたいんだけれど、市場に流通していなくて……。現地で交渉しないと手に入らないのよ。研究が立て込んでるおかげで、ジェダイトを出る暇もなくてね。代わりに行ってくれたら助かるんだけど」

「ハイハイ、取ってくるよ。……俺を使い走りにするんだ、お前もしっかり調べろよ」

「えぇ、もちろん。ハルジオンの外れには、知り合いの錬金術師が住んでるの。まだ若いけれど、優秀な子だから。頼めば手伝ってくれると思うわ」


 ノヴァはその錬金術師が住む家の地図を簡単に描くと、それをレオへと手渡した。


「それじゃ、お互い最善を尽くしましょう」

 

 カルディアは笑顔で手を振るノヴァに会釈をすると、レオに続いて立ち上がった。塔から出て、今日泊まる予定の宿へと向かう。


「明日の朝には出るから、お前も支度しとけよ」

「はい。あの殿下、一つ聞いても良いですか?」


 カルディアが言えば、レオは前を向いたまま「何だ」と短く応える。カルディアは、先ほどからずっと疑問に思っていたことを口に出した。


「どうしてそこまでして、ニコレッタについて調べようとしてるのかなって」


 魔人は危険だし、国のために王族として対応しているなんてことも考えたが。普段のレオなら「めんどくせぇ。異端審問会の仕事だろ」とでも言いそうだ。ハルジオンまで鉱石を取りに行くという、ノヴァからの頼みを素直に受けたのも意外だった。カルディアの問いに、レオは苦い顔をしている。だが少しすると、観念したように口を開いた。


「……ンなの、お前のせいに決まってんだろ」

「わ、私のせい?何でですか?」


 予想外の答えに、カルディアは頭上にハテナマークを浮かべる勢いだ。そんな彼女を見て、レオはますます不機嫌そうに顔を歪めている。


「知るかこの能天気。たまには自分で考えろ」


 レオは吐き捨てるようにそう言うと、スタスタと歩き出してしまう。お前のせいとはどういう意味なのか。それ以上のことは何も教えてくれず、真意を理解できないまま明朝にはジェダイトを発つことになった。



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