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ただの使用人の女ですが、伯爵家次男の振りをして士官学校に入学します  作者: 睦見むに
一章

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答え合わせ


「どうして女の君が、"サイラス・レーラント"として士官学校に通っている?」


 カルディアは一瞬、言葉の意味が理解できなかった。それから頭の中でどうにか咀嚼して、そして絶望した。


「いつ、そのこと」

「うーん……最初から、かな」


 予想もしていなかった答えに、カルディアは目を見開く。最初?最初とはいつだろう。頭を巡らせ、彼と厩舎で会ったあの日のことを思い出した。


「最初って、あの、厩舎で会った時ですか?」

「うん、君が"サイラス・レーラント"なんて名乗るから、びっくりしちゃった」


 ヴィンセントはあっけらかんと笑う。確かにカルディアを女だと分かっていたのなら、驚くのも無理はないだろう。ヴィンセントはサイラスの兄であるセシル・レーラントと知り合いで、サイラスが()だということを知っていたのだから。


「二択で迷ったんだよ。君が本当にサイラス・レーラントで、男とされていた伯爵子息が実は女性だったのか。それとも、本物のサイラス・レーラントは別にいて、君が彼になりすましているのか」


 カルディアは、シーツ越しにぎゅっと胸元を握りしめた。心臓がなくて良かった、もしあったら、今頃バクバクと暴れ回っていただろう。


「でも、その謎はすぐ解けた。君はサイラス・レーラントじゃない」

「なぜ、そう思ったんですか」

「レーラント伯爵とは会ったことがある。権力に貪欲で、世間体を何よりも気にする人だ。黒髪金眼の息子というだけでも相当だろうに、実の子が"咎の娘"だったりしたら、その時点で母娘もろとも殺してるはず」

「…………」

「君はレーラント伯爵の子じゃない。ここに来たのは伯爵の差金だろうけど。伯爵にとって君は、いつでも切り捨てられる駒だ。いざとなったら、『息子は咎の娘に呪われた、咎の娘がいつの間にか息子に成り代わっていた』なんて言い訳をすれば良いんだからね」

「それで……そこまで分かっていて、どうするんですか。私を異端審問官に突き出すんですか」


 もう、誤魔化す気も起きなかった。異端審問会に連れて行かれて、火炙りにされて死ぬくらいなら、ここで舌を噛み切ってやる。それくらいの気持ちで、ヴィンセントを睨みつける。


「そういう反応になると思ったから、今まで黙ってたんだけどな……。心配しなくても、君のことを異端審問会に告発する気はない。そのつもりならとっくにそうしてるよ」


 確かに、ヴィンセントが初めからカルディアの正体に気づいていたというのなら、異端審問会へ告発するチャンスはいくらでもあったはずだ。ヴィンセントの的を射た主張に、カルディアも少し警戒を解く。


「このタイミングで君に話したのは、ちゃんと理由があってのことだよ。君が見たという黒い外套の男、君のことを知ってたんだよね?」

「はい」

「一つ確認したい。その男は君を、男と女、どちらとして認識していた?」

「………彼は私を、カルディアと呼びました」

「カルディア、か。それが君の名前?」


 カルディアが無言で頷く。ヴィンセントの表情は深刻さを増していた。


「つまりその男は、君が咎の娘だと分かって接していたわけか。……いいかい、これから神殿の外に出るときは、一人にならないようにして。俺か……俺が無理だったら、殿下あたりにでも同行してもらうといいよ」

「……分かりました」


 心配されずとも、カルディアが神殿の外に出ることなどまずない。今日だって、ヴィンセントに連れられなければ自室に引きこもっていただろう。


「それにしても、カルディアちゃんか。可愛い名前だね」

「ヴィンセントさんに可愛いと言われるたび、女だとバレるのではと怯えていました」

「ごめんね、ついからかっちゃって」


 軽口を叩くヴィンセントを見ながら、カルディアは今ならあの手紙について聞けるのではないかと思い至った。

 『ヴィンセント・ベリウスが【戴冠せし者(レガリア)】になるよう助力しろ、逆らえば異端審問官に告発する』というような趣旨のことが書かれていた、あの脅迫状めいた手紙。

 カルディアは早速、手紙についてヴィンセントに尋ねた。しかし、ヴィンセントには心当たりがないようで、首を傾げるばかりだ。


「やっぱり知らないですよね……」

「でも、知らないほうが良くない?嫌でしょ、俺が君をそんなふうに脅迫する奴だったら」

「それは、確かにそうですが」

「それこそ、今日会った外套の男が怪しいんじゃないかな。カルディアちゃんのこと知ってたんだし」

「うーん……仮に彼が犯人だとしても、ヴィンセントさんが【戴冠せし者(レガリア)】になるのを手伝えなんて要求をしてくる理由が思いつかないです」


 それからも二人で手紙の差出人が誰か考えてみたが、結局謎は深まるばかりだった。そうしてしばらく話をして、どれくらいが経っただろうか。勢いよく部屋の扉が開かれ、そちらに視線を向ける。


「なんだ、起きてるじゃねぇか」

「殿下」


 レオが入室してくると、ヴィンセントはスッと立ち上がり礼をする。レオは「いーよ、そういうの」と言いながら、ベッド脇へと歩み寄った。


「案外ピンピンしてるな。倒れたって聞いたんだけど」

「それが聞いてください!大変だったんです!」

「わーったから喚くな。うっとうしい」


 相変わらずレオに対してだけ遠慮のないカルディアは、城下町で魔物騒ぎが起こってから今に至るまでを細かく説明した。当然、カルディアの正体についての話は避けてだ。


「お前、俺がやった指輪持ってなかったのかよ」

「え?持ってましたよ」


 カルディアは首にかけていた指輪を取り出してみせた。キラキラと輝く指輪は、しっかりとそこに存在していた。


「お前、腕で胸貫かれたとか言ってなかった?」

「はい、でも外傷はなくて……。あっ!この指輪の力で、傷が治ったとか」

「ンなわけねーだろ。そんな夢みたいな魔法あってたまるか」


 レオが言うに、この指輪は装着者の身に危険が迫ったとき、盾の役割をこなしてくれるものらしい。指輪が正しく作動していたなら、そもそも胸を貫かれることはないのだとか。


「よく分かんねえけど、一応魔力込めなおしてやったから。これからも俺様に感謝しながら、大事に持っとけよ」

「はい、ありがとうございます」


 レオに魔力を込め直してもらった指輪を、改めて首にかける。今日は散々な日だったが、明日から普通の日常が戻ってくる。この時のカルディアは、そう信じて疑っていなかった。

 


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