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ただの使用人の女ですが、伯爵家次男の振りをして士官学校に入学します  作者: 睦見むに
一章

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12/38

これからよろしく

ヴィンセント視点のため、カルディアがサイラス表記になっています。


「こういうことをする人じゃないんだよね」


 ヴィンセントが言う。彼の目の前にある金眼は、強い警戒の色を灯していた。


(まるで借りてきた猫だな)


 あの王子は、一体どうやってこの子を手懐けたのだろうか。尋ねてきたとき、自分から隠れるようにレオの背に回ったサイラスの姿を思い出す。レオなら自分を庇護してくれると、信じて疑っていない様子だった。

 

「レオ殿下のことだよ。本来の彼は、【戴冠せし者(レガリア)】にしたい人間に助力するタイプじゃない。相応しくない人間を徹底的に潰すタイプだ」

「どうして、そう思うんですか」

「どうしてって、そうだな……。俺もそうだから、かな?」


 人を見る目には自信がある。そもそも彼は、自分の手助けを必要とするような人間に興味を持たない。何らかの理由でヴィンセントをどうしても【戴冠せし者(レガリア)】にしたかったとして、黒髪金眼というだけの、何の力も持たなそうな伯爵子息を送り込むこともしない。彼自身が動いた方がよっぽど手っ取り早いからだ。


「殿下は、俺を【戴冠せし者(レガリア)】にしたいわけじゃない。何か他の意図がある」

 

 サイラス・レーラントが、拳をぎゅっと握りしめた。微かに息が浅くなっている。その反応から、自身の考えが正解であることをヴィンセントは確信した。

 

「でも、それについて詮索する気はないよ。殿下には感謝してるしね」

「感謝、ですか?」

「うん、君にまた会わせてくれた」


 サイラスが怪訝そうに顔を歪めた。何でも顔に出るたちらしい、隠し事には不向きな性質だなと考える。


「よく分かりませんが……。あの、ベリウス様は【戴冠せし者(レガリア)】になりたいんですよね」

「いや?別になりたくないよ」

「えっ、でも、選出に参加されているじゃないですか」


 サイラスは、訳がわからないという風に首を傾げている。確かに、自分から選出に参加しておきながら【戴冠せし者(レガリア)】になりたくないと述べるのは、矛盾しているのだろう。だが、その言葉に嘘はなかった。


「くだらない人間が選ばれたら困るから、かな?一種の保険だよ。でも相応しい人がいるなら、その人になって欲しいな」

「そ、そうですか」

「それで、どうする?殿下はああ言ってたけど、君が嫌なら無理に手伝うことも――」

「それはぜひ!ぜひ、お手伝いさせてください。頑張るので!」


 サイラスの前のめりなまでの勢いに少々面食らう。この様子を見るにどうやら今回の話は、レオではなくサイラス側の事情のようだ。あの王子がサイラスの為にわざわざ動いたというのも意外だが、どうしてサイラスが自分に近づこうとしているのかも気になる。どう考えても、自分に好意は抱いてないだろう。となると、レーラント伯爵の差金か……。


「そういえば、お聞きしたかったことがあるんです」

「俺に?分かった、何でも聞いて」


 考えに耽っていたヴィンセントは、サイラスに声をかけられ笑顔で頷いた。


「その、フェンリルさん……フェンリル・アストラさんとはお知り合いですか?」


 サイラスから出たのは、意外な人物の名前だった。フェンリル・アストラ。その辺境伯は、確かにヴィンセントと知り合いだ。友人と言っても良い仲かもしれない。


「うん、知ってるけど……。あいつがどうかした?」

「実は以前、色々あって助けてもらって。その時にフェンリルさんが、ベリウス様のお名前を挙げていたので」


 詳しく聞いてみれば、気分の悪かったところを介抱してもらったらしい。その際にフェンリルが、「ヴィンセントに優しくするように言われている」と話していたそうだ。フェンリルのことだ、どうせ言葉足らずでサイラスを困惑させたであろうことが容易に想像できた。


「一度会っただけにしては、随分親しげだね。"フェンリルさん"なんて」

「フェンリルさんが、そう呼べと言っていたので」

「そっか、じゃあ俺のことも、ヴィンセントさんって呼んで欲しいな」

「ヴィンセントさん、ですか」

「うん、いいね。可愛い」


 ヴィンセントがそう言えば、サイラスはただでさえ歪めていた顔をますます渋くする。今にも心の声が聞こえそうなほど表情豊かなサイラスの姿に、ヴィンセントは思わず声を上げて笑った。


「あははっ!何にせよ、これからよろしく頼むよ。助手さん」

「……こちらこそ、よろしくお願いします」


 ヴィンセントが差し出した手を、サイラスの小さな手が握り返した。この前と同じだ、とヴィンセントは思った。乗馬を教えた時もそうだったが、自分を警戒して、恐れているくせに、そのことをすぐに忘れてしまうらしい。実際、今ヴィンセントの手を握るサイラスは怪訝そうにこそしているものの、怯えは感じさせなかった。だいたい、恐れている相手に不服の感情を隠しもしないあたり、肝が据わっているというかなんというか。やっぱりおかしな子だな、とヴィンセントはまた笑うのだった。



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