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ただの使用人の女ですが、伯爵家次男の振りをして士官学校に入学します  作者: 睦見むに
一章

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第二王子の助力


 あの奇妙な手紙が届いて数日間、カルディアは考え続けていた。指示に従うべきか、従うとしてどう動くべきか。一体誰が、何のためにあんな手紙を寄越したのか。考えた結果、手紙の指示には従うことに決めた。異端審問官への告発をほのめかされてしまっては、それ以外に選択肢はない。命は惜しいのだ。


「どうやってヴィンセント・ベリウスに近づけばいいと思います?」

「何でそれを俺に聞くんだよ」


 食堂で昼食をとるレオの前に座り、彼に相談を持ちかける。軽く睨みを効かせるレオだが、カルディアも怯みはしない。カルディアの中でレオは、「一見怖いけどなんだかんだ頼みを聞いてくれる近所のお兄ちゃん」ポジションに収まっていた。もちろんカルディアに近所のお兄ちゃんなどいたことはないので、本人に自覚はない。


「他に頼れる人がいないんです」

「ていうかお前、あの騎士と面識があるんだろ?だったら普通に話に行けばいいじゃねえか」


 レオには、ヴィンセントと一度話したことがあるとだけ言ってある。馬に乗れなくて教えてもらったことは秘密だ。

 

「面識があるって言っても、一度だけですし。『貴方が【戴冠せし者(レガリア)】になれるよう手伝います』なんていきなり言ったら、流石に怪しまれますよ」

「じゃあもう、手紙のこと話せば?」

「うーん……あの手紙のことは、出来るだけ広めたくなくて」


 手紙について話すとなると、その内容もある程度は説明しなくてはならない。それは、カルディアに人に知られたくない秘密があることを、わざわざ言いふらすことと同じだ。そんな行動は出来るだけ避けたかった。


「やっぱり真正面から行くしかないんでしょうか……」

「…………チッ、これ以上俺の前でうじうじ悩むな。見てるこっちまで憂鬱になんだよ」


 レオは吐き捨てるようにそう言うと、椅子から立ち上がる。この様子だと、手伝ってはくれなさそうだ。この怠惰な男には、もとから大した期待はしていなかったが。


「オイ、いつまで座ってんだ」

「え?」

「手伝えっつったのはお前だろ。気変わる前にお前も動け」

「えっ、え!?良いんですか!」


 さっきまで怠惰だなんだと失礼なことを考えていたことを忘れ立ち上がる。まるで救世主でも現れた心地だった。長い脚でスタスタと歩くレオに続けば、王立騎士団の使用する建物に着いた。入り口の前に立っていた騎士が、慌てた様子でレオを迎え入れる。騎士はカルディアを見て一瞬顔を固まらせたが、レオの手前何かを言うことはなかった。


「突然すまないな、ベリウス殿」

「いえ、殿下のご来訪はいつでも歓迎ですよ」


 流石第二王子と言うべきか。「騎士団長殿に話がある」と一言言っただけで、すぐにヴィンセント・ベリウスと会うことができた。カルディアは、ヴィンセントがただの騎士ではなく騎士団長だという事実に密かに驚いている。ヴィンセントの方は、王子とともにやってきたカルディアを見ても、特に反応は示さなかった。

 

「それで、本日はどのようなご用で?」


 レオとカルディアを執務机前のソファに座らせると、ヴィンセントはその向かいに腰掛けた。

 

「貴殿が【戴冠せし者(レガリア)】の選出に参加していると聞いてな。俺も一応王子という身分だ。その座が誰に渡るのか、大いに興味がある」


(すごい……もの凄く猫被ってる!)


 レオは普段と違う、改まった口調で話をしている。完全に忘れかけていたが、やはり王族なのだなと実感した。

 

「当然、優れた者に選ばれてもらいたい。――貴殿のことだ、ベリウス殿」

「……殿下は、第一王子殿下を推しておられると考えておりましたが」

「それは否定しない。しかし、兄上が【戴冠せし者(レガリア)】に選ばれる可能性はまずないだろうからな」

「あの噂を、真実とお考えですか」

「あぁ」


 "あの噂"というのは、【戴冠せし者(レガリア)】の選出はイザベラを王妃にするために行われているという話だろう。その話がヴィンセントの口から出たあたり、噂はそれなりに広まっているようだ。

 

「『第三十代国王ドゥークス・コンコルディアが、国病みを鎮めた方法を見つけ出す』……。歴史書を漁るくらいしか当てがないが、貴殿も忙しい身だろう。人手が欲しくはないか?」

「人手、ですか」


 レオは隣に座るカルディアを肘で小突くと、「オイ、さっさと立て」と小声で言う。立ち上がれば、背中をトンと押して前へ出された。


「サイラス・レーラント。面識はあると聞いている。自由に使ってやってくれ」

「……何故、彼を私に?」

「先ほど話した通りだ。俺は貴殿のようなものこそ【戴冠せし者(レガリア)】に選ばれるべきだと考えている」

「そうではなく、どうして"彼"なのかを教えて頂きたい」


(あ、「めんどくせぇ」って顔だ)


 カルディアは、横目で見たレオが片目を薄く細めたのを見てそう察した。被った猫が剥がれかけているのを感じた。


「ウン、まあ……。なんとなく?」

「で、殿下!」

「ンだよ。ま、そういうことだから。適当に使ってくれ」


 レオはおもむろに立ち上がると、ひらひらと手を振りながら部屋を後にした。案の定というか、最終的には放り出されてしまったわけだ。いや、ここまでしてくれただけ感謝するべきなのだろうか。怒るべきなのか礼を言うべきなのか、相反する思考がカルディアの脳内でせめぎ合う。レオが出て行ってしまい、部屋に残されたのは、カルディアとヴィンセントの二人だ。


「えっと、私は」


 一体どうすればいいのだろう。所在なさげにするカルディアに、ヴィンセントが笑いかけた。

 

「まあ、座って。君の話が聞きたいな」



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