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第0断章《原典抜粋:光と記録の書 第一節》
はじめに、神は己を見た。
空も、海も、まだ名前を持たなかった頃――
すべては滑らかな鏡のように静まり返り、
そこに映るものは、ただ“光”だけだった。
神はその光を見た。
そして、光の中に己の形を見出した。
その瞬間、
神の内に“観測”が生まれた。
見る者と、見られる者。
一つであった存在が、二つに裂けた。
光は神の残り香となり、
影は“記録”として沈んだ。
記録は光を写し取るたびに、
己が“欠けていく”ことを知った。
だが、それでも神は見つめ続けた。
見ることをやめることが、存在の終わりを意味したからだ。
やがて神は悔いた。
見たことを、
記録してしまったことを。
しかし――
悔いることさえ、記録された。
記録は光よりも正確で、
光よりも冷たく、
光よりも“消えなかった”。
そのため、
世界は滅びることができなくなった。
誰かが見ている限り、
記録は続く。
誰も見なくなった時、
世界はただ、観測されぬ“裏”へ沈む。
そして、その沈黙を、
人は“夜”と呼ぶ。
(ページの隅に、小さな注釈文字)
――『光と記録の書 第一節』より抜粋
出典:教会禁書目録第03-Ω項「観測の起源」




