七月 雨の日の物思い
七月。
雨が続く。
ムーンガーデンでは花がらを摘みそびれ、パンジーが種をつけてしまった。種を作った植物は枯れる。パンジーの花は少なくなり、アリッサムも茶色くなってきている。ロベリアは相変わらず咲いているが、広がってしまったアリッサムや枯れ始めたパンジーの中、まとまりなく青を見せている。
野趣溢れると言えば聞こえが良いが、放りっぱなしの様相を見せている、ムーンガーデン。
「こういうのも嫌いじゃないけど」
パンジーの種を取る。茶色くなったアリッサムの茎を少し刈り込んだ。
* * *
頭が重い。風邪を引いた。
朝食の代わりに、国産の紅茶を入れた。喉が痛いので、渋い紅茶は少しつらい。国産の紅茶は渋みがないので、喉に痛みが走らない。ショウガのジャムを入れると、瓶の中のジャムはそれで終わりになった。
「もう少し体調が整ったら、ジャム作ろうか」
レンジでできる、ショウガのジャムのレシピがどこかにあった。
どうにも気分が重い。体がだるいせいだろうか。同じ事をぐるぐる考えているような気がする。
夏至のころに摘んだ、セントジョンズワートを飲む事にした。気分が沈んだ時には、このハーブは力を与えてくれる。
太陽の力を持つ、不思議なハーブ。セントジョンズワートは、決して薬と同時に飲んではいけない。併用して飲むと、思ってもみない事が起きてしまうからだ。薬の効き目が強くなりすぎたり、逆に無効化されてしまったりという事が起きる。だからセントジョンズワートを飲む時には、慎重になる。このハーブは、魔法の力が強いのだ。
薬を常用している者が飲むのなら、薬の摂取の後、三時間はおいてからでないと、危険な場合もある。血圧の降下剤を飲んでいた人が意識せずに飲んでしまい、血圧が下がりすぎて、倒れた事があると聞いた。薬局などでも健康茶として売られているが、箱には必ず、『この薬を飲んでいる人は、飲まないで下さい』と書かれている。
自分の体調を考える。風邪薬は飲んでいない。大丈夫だ。
お茶パックにセントジョンズワートを小さじに一杯。ペパーミントを小さじに半分まぜて、味を整える。カップに入れて熱湯を注いで三分。お茶パックを引き上げてから、ほんの少し、蜂蜜を垂らした。
舌先に少し、苦かった。
* * *
昼には気分が浮上していた。食欲も少し出てきたので、豆乳でフレンチトーストを作った。豆乳の匂いが気になるので、シナモンを多めに入れる。プルーンを添えてみた。
飲み物は豆乳で作ったマサラチャイ。
牛乳がなかったのだ。
食べていると、胃が重くなった。まだ固形物は無理だったか?
「うーん……」
せっかく作ったのになあ。と思って首をかしげ、フレンチトーストとマサラチャイを見比べる。ちょっと考えてから、深めの皿に両方を入れた。レンジで温める。
即席パンがゆ。
怪しいそれをスプーンですくいながら、ふうふう息をふきかけて食べる。豆乳が微妙に固まっている。
適当で良い。適当万歳。温かいし食べやすい。
不意に、たちたち、と道路に雨粒の落ちる音。
「あ、また降ってきた」
たちたち、はすぐに、たたたた、すあささ、という音に変わり、やがてずぁざーっ、という大きな音になった。風景が鈍色めいたものになる。
ぼうっとしながら外を眺める。
灰色に染まった空と大地をつなぐ鈍色の線が、果てし無く繰り返し、音を響かせている。
戸や窓にぶつかっては、落ち続ける滴の玉。
漂ってくる雨の匂い。
ずぁざあああ。
ちっ、たちっ、たたっ、
アスファルトを打つ音に混じって、屋根や木々の葉に弾かれる音も混じる。
ちっ、たたっ、たちっ、たっ、
あああずぁああああああ。
循環する水。雨は、大地に吸い込まれ。やがて水蒸気となって空に昇り。
雲となり、いつかまた大地に向かう。
この雨はだから、過去の時代に降った雨でもあり。
やがて未来に、また降る雨でもある。
「恐竜も、この雨に打たれたりしたのかな?」
まだ陸地がほとんどなかった時代にも。この雨は降ったのか。
雨の音を聞きながら、海の底を思った。
何となく、昔、貝殻を耳にあてた時のことを思い出した。
* * *
ほどなくして、雨足が弱まる。
「朝顔が育つなあ」
去年の朝顔のこぼれ種が、あちこちで芽を出していた。いくつか植木鉢に移したが、この雨で、またいろんな所で伸びるだろう。
そう言えば、バジルも随分と育った。あれは確か、頭痛に良かったのではなかったか。
「夕食はリゾットに、バジルを山ほど入れようか」
まだそれほど、固形物が取れる自信がない。おかゆにウメボシでも良いが。バジル使いたいなあと思ってしまった。味付けは塩をほんの少し。卵を入れて卵がゆ風に。オリーブオイルとシラスを入れる。そうして、刻んだバジルで香りづけ。
「飲み物は番茶にウメボシ……」
そこまで考えておきながら、ウメボシが外せない。潰したウメボシに番茶を注ぎ、ちょっぴりのショウガと醤油を数滴。美味しいんだ、これが。
すさあああぁぁぁぁ
ちっ、……たちっ……さささああああ
静かに聞こえる雨の音。パソコンを起動させると、紅茶屋さんからメールマガジンが届いていた。
「今回は何の特集かな」
何となく、微笑みたい気分になった。
※セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)は、おだやかな向精神薬のハーブとして知られていますが、薬と併用した場合の副作用についても警告されているハーブです。血液凝固剤などは効果が阻害され、抗うつ剤を使用している場合は相互作用によって副作用が出ます。
三時間、間を置く、としたのは、ティザン(ハーブティー)の場合、三時間たつと体から成分が排出されるためです。薬と茶の飲み合わせなどでも調べてみましたが、普通のお茶でも、薬を飲む場合は前後二時間は飲まない方が望ましい、とありました。(カフェインが薬の成分と反応する可能性があるため)
薬を常用している人が飲む場合は、お医者さんと相談して下さい。
『レンジで作るショウガのジャム』
ショウガ百グラム
砂糖百グラム
はちみつ 大さじ2
レモン汁 大さじ1
水 大さじ1
1.ショウガをすりおろし、材料を全部混ぜて、レンジで5分ほど加熱する。(ラップはしない)
2.一度混ぜて、様子を見ながら、もう2、3分加熱。ゆるいかな~、ぐらいで完成。加熱しすぎると、冷えてからガチガチに固まってしまうので注意。
『豆乳のマサラチャイ』
豆乳は沸騰させると、固まって湯葉ができてしまうので……マサラチャイ用の茶葉を、普通の紅茶のようにいれてから、豆乳を注いで静かに置きます。
マサラチャイ用茶葉 5~6グラム
熱湯 160cc
豆乳 160cc
砂糖 お好みで
1.温めたポットに茶葉を入れ、熱湯を注ぎます。蓋をして3分むらします。
2.豆乳を鍋で少し温めます。沸騰させないように。
3.ポットに豆乳を注ぎます。そのまままた蓋をして、2分ほどむらします。
4.茶漉しでこします。お好みで甘みをつけて下さい。
※ スパイスの入ったマサラチャイだと、豆乳の匂いも気になりません。
『豆乳フレンチトースト(女性の味方フレンチトースト)』
食パン一枚 一口サイズに切る
卵一個
豆乳 120~150cc
黒砂糖 大さじ1
シナモン 少々
レーズンまたはプルーン 適当
オリーブオイル 少々
1. 卵をボールでしゃかしゃか。豆乳を加えて混ぜる。
2. 黒砂糖とシナモンをさらに混ぜる。
3. パンをひたす。良く染み込ませる。
4. フライパンにオリーブオイルをひいて、パンを焼く。ひっくり返して両面焼く。ついでに、卵液が残っていたら、それも全部上からかけて焼いてしまおう。豆乳だから固まる。
5. 皿に載せ、レーズンかプルーンを添える。
※ 牛乳で作るより、あっさりした味になります。
※ レーズンやプルーンは鉄分が豊富なので、貧血の時には良いかもしれません。とりあえず、この豆乳フレンチトーストは個人的に、『女性の味方フレンチトースト』と名付けました。
ラストで「わあ!」と言いますよ~、と言って、ミツティの店長さんに、初稿を送りました。返事が来ました。「本当に声を上げてしまいました」。現実と小説がリンクすると、メルマガ書いた人は照れ臭いみたいです(笑)
セントジョンズワートについては、様々な機関から、副作用の報告が出されています。役に立つハーブなんですが、飲む時には注意書きを良く読んで下さい。