小さな女王さまと、クリスマスのお茶のおはなし
読者さまへのクリスマスギフトです。幼稚園のクリスマス会に招かれた時、何か話してくれと頼まれて、とっさに作ったお話を、手を入れて読み物にしてみました。
小さな国がありました。エメラルド色の森と、青い青い、すきとおった湖があるその国には、ばら色の石で作られた、小さなお城がありました。
お城に住むのは女王さま。くるくるとした黒い巻き毛と、きらきらした灰色のひとみと、ばら色のほおをした、小さなドリーナ女王さまです。
ある冬の日。女王さまは、クリームの入った甘い紅茶と、干しぶどうを入れた麦のおかゆを、朝ごはんに食べていました。オレンジのマーマレードもありました。なんてすてきな朝ごはんでしょう。
「ねえ、ジーナ。もうじきクリスマスね。今年はどんなおくりものがもらえるのかしら」
十さいになったばかりの女王さまは、おたんじょうびはもちろんのこと、クリスマスにも、いろんな人からおくりものをもらっていました。だから毎年、クリスマスが楽しみでなりませんでした。
乳母のジーナは答えました。
「さあ、わたしにはわかりませんよ、小さなひいさま」
ジーナはとても年を取っていて、かしこい女性でした。そうして女王さまだけでなく、かつては女王さまのお母さまの乳母もしていました。それで、お二人をまちがえないように、お母さまのことは『姫さま』、ドリーナ女王さまのことは、『小さなひいさま』と呼んでいたのでした。
「おくりものが、まちどおしいですか?」
「もちろんよ。何がもらえるのか、うれしくって、わくわくしてくるわ。クリスマスって、楽しいことがいっぱいね」
「そうですね。でも、小さなひいさま。クリスマスは本当は、おくりものをあげる日なのですよ。もらう日ではなく」
ジーナの言葉に、女王さまは目を丸くしました。
「そうなの? わたし、ずっと、クリスマスはおくりものをもらう日なんだって思っていたわ」
「いいえ、小さなひいさま。クリスマスは、神さまのひとりごイエスさまが、この世に生まれてきた日です。イエスさまは、ご自身を、この世に生きるわたしたちへの、おくりものとされたのです。天の国で幸せにお暮らしになっていることもできたのに、苦しみの多いこの世にやって来てくださった。ですから、わたしたちも、この日はだれかにおくりものをするのですよ。家族、したしい人、友だち、悲しんでいる人や、苦しんでいる人に。その人がうれしいように。その人のよろこびを、いっしょによろこべるように」
「そうなの?」
「そうですよ。神さまの子どもが、まず、お手本をしめして下さったのですからね」
ジーナの言葉に、ドリーナ女王さまは言いました。
「おくりものをもらうと、うれしいわ。あげるのは、どうかしら。でもわかったわ。わたし、やってみるわ。今度のクリスマス、みんなにおくりものをしてみましょう」
女王さまは、考えました。クリスマスのお祝いには、どんなおくりものが良いでしょう?
「たくさんの人におくりものをあげたいわ。村の人たちも、まねいてあげたいわ。何が良いかしら。金のボタン? 銀のつるぎ?」
「金のボタンは、ねたみの心をもたらします。銀のつるぎは、争いの心をもたらします」
「では、何が良いかしら」
「どれだけお金をかけたかではなく、どれだけ心をこめたかが、大切なのですよ、小さなひいさま」
女王さまは、考えました。何をすれば良いのでしょう。
「わたしにできることって、何かしら。冬だもの。みんな寒くてたまらないわね。そうだ。何かあたたかいものをあげたらどうかしら。わたし、お紅茶をいれることができるわ。だってもう、十さいなんですもの!」
女王さまは言いました。
「今年のクリスマスには、国じゅうの人をお城にまねきしましょう。そうしてね。わたし、熱くって、甘くって、とびっきりのお紅茶を、みんなにごちそうするの!」
女王さまは大臣を呼ぶと、クリスマスに国じゅうの人を、お城にまねくようにと命令しました。大臣は汗をかきかき、国じゅうの人に招待状を書き始めました。
女王さまはそれから、お城のお台所に行きました。ありったけのおなべや、やかんを持って来させると、きれいに洗ったり、みがいたりし始めました。ジーナも、お台所のお女中も、みんな女王さまをお手伝いしました。
女王さまが、クリスマスに、おくりものをくださるんだって!
その話は、小さな村にまで伝わりました。いったい、何がもらえるのでしょう。みんな、わくわくしながら、クリスマスを待ちました。
そうして、待ちに待ったクリスマスの日。うんと早起きをしたドリーナ女王さまは、エプロンをきりりとしめて、かみのけをしっかりしばると、お女中たちに手伝ってもらって、大きなおなべに、お湯をぐらぐらと沸かし始めました。
「熱くって、甘くって、とびっきりのお紅茶よ!」
ふみ台に乗った女王さまは、おなべに紅茶の葉っぱを入れ、おさとうを入れました。りんごを入れました。オレンジやレモンも入れました。ぴりりとするしょうがを入れました。香り高いシナモンを入れました。クローブのつぼみも入れました。あまいぶどう酒も入れました。そうして、湯気でお顔を真っ赤にしながら、大きなおたまでおなべのなかを、ぐるぐるとかきまわしました。
お城のお台所は、かぐわしい香りでいっぱいになりました。
「なんて良い香り! まるで天国みたい!」
だれもがうっとりとして、そう言いました。
それから女王さまは、お城の人に一人一人、お紅茶をくばり始めました。お手伝いをしていたお女中たちはもちろんのこと、火の番をしていた小さな女の子も、馬の番をする男の子も。お城の兵隊さんも、えらい学者の先生も。きれいなドレスの奥方たちも、太った大臣も。みんな、女王さまのお紅茶をいただきました。
「ああ、おいしい。熱くって、甘くって、とびっきりだ!」
いただいた人はみんな、にっこりしてそう言いました。
やがて、村の人たちが、せいいっぱいの晴れ着を着て、クリスマスのお祝いを言いに、お城にやって来ました。お城のお女中が手伝って、一人一人に、女王さまのお紅茶がくばられました。
「さあ、どうぞ。女王さまからの、おくりものですよ!」
村のがんこなおじいさんは、お紅茶を見て言いました。
「なんだい。どんなおくりものがもらえるかと思ったら。ただのお茶かい」
「とにかく、飲んでごらんなさい」
ジーナはそう言いました。おじいさんは、顔をしかめましたが、とにかく飲んでみようと、カップに顔を近づけました。そうして、びっくりした顔になりました。
「これは、なんて、良い香りだ!」
おじいさんは、かぐわしい湯気を吸い込み、うっとりとした顔になりました。それから一口飲んで、にっこりしました。
「ああ、おいしい。熱くって、甘くって、とびっきりだ!」
そうして、一口、一口とお茶を飲んで。ついには全部、飲み干してしまいました。
おじいさんは、しわだらけの顔をくしゃくしゃにして笑うと言いました。
「体が、しんからあたたまる。天国みたいな香りと、よろこびの歌声みたいな味がする。それに、何よりうれしいのは。このお茶を、女王さまが、わしのためにいれてくれたってことだよ!」
その日は、だれもが、女王さまのお茶をいただきました。貧しい人も、お金持ちも。えらい人も、えらくない人も。お城ではたらく人たちも、村で暮らしている人たちも。よろこんでいる人も、泣いている人もです。まだお紅茶が飲めないとても小さな子どもたちは、甘いミルクをいただきました。忘れられた人はだれも、いませんでした。みんなが一人ずつ、おいしい飲み物をいただいたのです。
みんな、笑顔でいっぱいでした。寒くてふるえている時に、熱い飲み物は、本当にうれしいおくりものだったのです。
「ああ、おいしい! 熱くって、甘くって、とびっきりだ!」
飲んだ人はだれもが、そう言いました。
「それにね。このお茶は、女王さまがわたしのために、いれてくれたんだよ!」
ドリーナ女王さまのお茶をいただいた人は、その後、何年も何年も、この年のクリスマスを忘れませんでした。くりかえしくりかえし、自分の子どもや孫たちに、このお話を語って聞かせました。悲しい時にも、苦しい時にも、この年のクリスマスの思い出は、きらきらと輝いて、胸の奥をあたためる光として、人々を照らしました。やがて女王さまが年を取って、亡くなってしまった後も。このお話はずっと語り継がれました。
話す人は決まって、最後にこう言いました。
「熱くって、甘くって、とびっきり。本当に、おいしいお茶だった。寒い日には、ありがたいおくりものだったよ。それにね。そのお茶は、女王さまがわたしのために、いれてくれたお茶だったんだよ!」
※ 麦のおかゆ……オートミールです。果物やジャムを入れて、甘く煮込んだ『ポリッジ』は、とてもすてきな朝ごはんです。
※ 女王さまのお茶……ホット・クリスマス・ティーや、ティーパンチのレシピを元に考えました。
材料(4人分)
紅茶のティーバッグ4個
熱湯400cc
砕いたシナモン 2本
クローブ 8個
スライスした生姜 数枚
砂糖 大さじ2
オレンジジュース 100cc
りんごジュース 100cc
カットしたオレンジ 半個分
カットしたりんご 半個分
スライスしたオレンジやりんご(飾り用)
作り方
1、 手なべに水を入れ、沸騰させます。
2、 沸騰した湯に茶葉とスパイス、生姜を入れます。(スパイスは、お茶パックなどに入れておくと、扱いやすいです)。火を止めてからふたをして、5分待ってから、ティーバッグを引き上げ、砂糖を入れます。
3、 カットしたオレンジやりんごとジュースを入れてかきまぜ、弱火で軽く温めます。
4、 マグカップなどにつぎわけて、スライスしたオレンジやりんごを浮かべます。
※ 何人かで分け合って、飲んで下さい。
※ カナダなどのレシピでは、クランベリージュースを入れます。
※ ホット・クリスマス・ティーの場合、ワインなどのアルコールも入るのですが、子どもも飲めるように、ノンアルコールにしてみました。