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三月 三日月の下、シロップには魔法

「ミツティ」のメルマガから生まれた話。店長さんからは一応、「書いても良いよ~」と許可をもらっています。

 三月。

 そろそろ、ムーンガーデンを作る季節。


「今日、作ることにしよう」


 肌寒い日が続いていた中、不意に訪れた温かな日。そう決めた。


 煮沸しゃふつ消毒した小さなボウルを用意して、ミネラルウォーターを注ぐ。太陽の光がしっかり入るように、窓辺に置く。これは、太陽の水になる。

 注意するのは、人の手が触れないこと。

 太陽が真上に来るまで、この水に太陽の力を注ぐ。

 ガーデンを構成する苗を購入しに、近くのホームセンターへ行く。苗や土も売っている。探すのは、全て一年草。冬が近づくと枯れてしまう。けれどそれで良い。それが良い。

 時は、循環するもの。植物は春に生まれ、萌え出でて、夏には力強く育ち、秋には種を作り、やがて枯れ落ちる。だから、私のムーンガーデンも、一年で終わる植物で作る。


「と、言うより、何度か枯らしてしまったから、最初から一年で終わる花だけにしようって思ったんだよね」


 庭に直に植えるなら、植物も長持ちするのだろうが。ベランダガーデニングは水を切らしたり、ちょっとした事で植物がダメージを受ける。ついうっかり、で枯らしてしまう事も多い。

 だから毎年、一年草でガーデンを作る。




 苗を購入して、家に帰る。

 ガラス瓶を煮沸消毒して、うつ伏せにして布巾の上に置く。

 植木鉢に土を入れ始める。

 使うのは薄い緑色をした、大きめの植木鉢。土を入れる所は広くて深いボウルのよう。長めの足がついていて、噴水を思わせる形。

 丁寧に土を入れる。値段が少し高めの、軽くて扱いやすい土。安い土は重いから、持ち上げる時に大変なのだ。


ざく、ざく。


 移植ゴテスコップで土を入れる。


ざく、ざく、ざく。


 ボウル部分がある程度土で満たされると、用意しておいた苗を植え込む。買ってきたのは、パンジーとアリッサム。どちらも白い花が咲く。三つずつ買ってきたポリポットから苗を出して、適度に間隔を開けて植え込んでゆく。

 そうして中央に、一株だけ。青い花の咲くロベリアを植える。


ざく、ざく。

ざく、ざく、ざく。


 まだ季節ではないので、アリッサムは葉っぱばかり。ロベリアも。かろうじてパンジーが咲いているが、それも蕾の方が多い。


ざく。


 一度、じょうろで水をやる。水を含んだ土がへこみ、苗の部分が浮き上がる。だから、もう一度、苗の周囲に土をかぶせる。最後にもう一度、水をやる。


「こんなものかな」


 首をかしげ、ベランダに出来上がった小さな『庭』を眺める。

 月光をイメージした小さな世界。

 いずれパンジーは次々と咲いて広がり、アリッサムも小花を群れさせるだろう。

 中央にはそうして、真っ青なロベリア。

 噴水が静かに水を噴き上げ、月光にきらめく。真っ白な花々はただ、月の光に染まる。そんな庭のイメージだ。

 今はまだ、土の色が黒々として。緑の葉が土の上に広がっているばかり。

けれど、私には見える。この『庭』が完成された時の姿が。真っ青なロベリアは清浄な水が噴き上がるように伸び、甘く香るアリッサムは水面に広がる泡のように咲くだろう。そうして白いパンジーは、月光。ただ月光として、ここに咲く。白さの中にほんの少しの黄色を示し。

 それが私の小さな庭。

 私のムーンガーデン。




 作業を終えて、手を洗う。思ったよりも時間がかかった。

 窓辺に置いていたボウルを回収する。中の水はもうたっぷり、太陽の光を吸収しただろう。

 指で触れないよう、気をつけながら。中の水をガラス瓶に移す。ここで触れてしまったら、太陽の力は失せてしまう。

 ゆるく温もっている水に、グラニュー糖を入れてしゃかしゃかと振る。しばらく振ってから、静かな場所に置いた。

 これでガムシロップができる。

 一時間ほど置くと、シロップは透明になる。急ぐ時には鍋で温めて溶かすのだが、これでも充分、シロップになる。太陽の力を込めた水で溶かしているから、このシロップには太陽のしずくも入っている。

 人にはわからない。ただの透明な砂糖水にしか見えないだろう。

 けれど私には。これは魔法のシロップだ。




 夕闇がやってくる。外の空気が冷たくなってきた。

 空の色が次第に、オレンジに染まり、藍色に染まる。

 今日の月は、ほそい三日月。生まれて間もない月の姿は、作ったばかりのムーンガーデンのよう。

 お茶が飲みたくなって、湯を沸かした。ケトルに水を入れて、火にかける。湯沸かしポットに入っている湯を使って、ティーポットを温め、カップを温める。茶漉も湯通しをしておく。

 今日のお茶は、何にしよう。

 甘い香りが欲しい。そう思って、砕いたシナモンとアニスの実を用意する。寒い時には、体を温めるスパイスが欲しくなる。

 茶葉はアッサム。日常使いがしやすいCTC。細かく砕かれ、丸まった茶葉。それでもセカンドフラッシュなので、味は確か。ミルクで煮込むとココアのような、こっくりとした味になる。スパイスとブレンドしても、馴染みやすい。

 今日はミルクなし。スパイスと甘みだけ。

 ピーッとケトルが鳴って、湯が沸いた事を知らせてくる。

 葉をスプーンではかってティーポットに入れる。アニスの実と砕いたシナモンも。沸かした湯を勢い良く注ぐ。そうして砂時計をセットして、葉が開くのを待つ。


「そろそろ、かなあ」


 ティーカップに、氷砂糖のかけらを二つ放り込む。それから、作ったばかりのシロップを、スプーンの先ですくって、ひとたらし。


「ちょっと甘過ぎるかな?」


 マグカップにすれば良かったかもしれない。でも、たまには良いか。

 茶漉ちゃこしを使いながらお茶を入れると、紅茶の茶葉の香りと共に、シナモンとアニスの甘い香りがふわりと漂う。

 ベランダに置いたムーンガーデンに目をやる。暮れてきた空の、オレンジや藍色の中、くろぐろとして見える。葉っぱばかりで花が見えない。

 それでもその中で咲いているパンジーの白さが、ほのかに輝いて見える。

 熱で溶け始める氷砂糖。赤い紅茶液の中で、透きとおって水晶のよう。シロップはもう、綺麗に溶けてしまった。

スプーンでかき混ぜると、カップの中でちりちり、と小さな音がした。

 太陽の力を込めた、魔法のシロップを入れた紅茶。

 その中で小さく音を立てる、氷砂糖。

 三日月の下で一口ふくむと、温かなシナモンとアニスの香り。甘い優しさが、私の中を通り過ぎて行った。



※ 作中の太陽の水は、バッチ博士のフラワーレメディを参考にしています。太陽の力を借りて、花のエネルギーを水に転写するというもので、東洋医学の漢方や、鍼の発想に近いものです。科学的に分析すると何も出てこないのですが、気力の衰えた者に使用すると、体内の『気』のバランスを取ろうとして働きます。

 動物用のレメディも市販されており、使用している動物病院もあります。私の家の犬が死ぬ間際に使用した所、恐怖や不安が和らげられたのか、苦しむ事なく最期を迎える事ができました。


※ シロップの作り方は、水に対してグラニュー糖が一対一。家で使う分だと水50ccにグラニュー糖50グラムぐらいで充分です。ガラス瓶をしっかり煮沸消毒しておけば、カビがはえる事なく、二週間ぐらいもちます。



☆★「シャカシャカ シュガーシロップ 作り方」★☆


1)

 煮沸消毒したきれいなビンに、

 グラニュー糖 1 対 お水 1

 を入れて、シャカシャカ振ります。


2)

 ほおっておけば、1時間前後で

 グラニュー糖も溶けて透明になります。


 すぐに作りたい場合は、ビンではなく、手鍋に入れて火にかけ、煮溶かせば、すぐに出来上がり!


「セイロン紅茶専門店ミツティ メルマガ

 部活レシピ シャカシャカシュガーシロップより」

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