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異世界・ファンタジー系短編/中編集

賢者が魔法を使えるだなんて誰が決めた?

作者: 源泉

白く、無限に思える広い部屋。

そこに立つ人影がふたつ。



「ようこそ! 君を待っていたよ!」


「……え?」



ひとりは歓喜に満ち、もうひとりは戸惑っていた。


「ここ、は……?それに、俺は……」


「ああ、そうだね。驚くのも無理はない。

ここは私の部屋、君のいた世界の“外側”にある場所だよ。

君は今、記憶を失った状態でここにいる」


「世界の外側……というと、つまり俺は死んで、あの世に向かう途中ってことですか?」


「さすが、私が選んだ者だ!理解が早い。

細かいところは違うけど、イメージとしてはほぼ正解だよ」


「それで、あなたは……神様?」


「そのとおり!まさしく神!

まあ、この空間では、見る者のイメージに合わせた姿で現れるようになっていてね。

君には、私はどんなふうに見えてる?」



誇らしげに胸を張る(らしい)その姿に、彼はわずかに沈黙したあと、淡々と答える。



「“もしかして神?”って書かれた、白い布を被った何か、ですね」


「……え?」


「フォントは創英角ポップ体です」


「よく分からないけど、すごく馬鹿にされてる気がする」


「ちなみに太字です」


「やっぱり馬鹿にされてるよね?」


「馬鹿にはしてないので、色々と説明をお願いします」



彼は、ごく淡々とした口調でそう言った。

目の前の“神”を名乗る存在は、しばし沈黙する。



「……本当に馬鹿にしてない?」


「まだ、馬鹿にするほどの情報がありませんから」



間髪入れずに返されて、神はわずかに肩を落とす。



「……情報が揃ったら馬鹿にするんだね?」


「むしろ、神様のほうが自分が馬鹿にされる未来を前提に話してるように見えるんですけど」



痛いところを突かれたらしい。神は咳払いでごまかすと、話題を無理やり戻した。



「まあ、それはともかく。君をここに招いたのは、私を――正確には、“私の創った世界”を助けてほしいからだ」


「神様を、助ける……?」



彼は、眉をわずかにひそめた。

突拍子もない話ではあったが、こうして目の前に不可解な存在がいる以上、まるごと否定するのも難しい。



「そう。君には、私が創った異世界へ行ってもらう。そして、そこで“ちょっとした手伝い”をしてほしい」


「なんで俺がそんなことを」


「君のいた世界で、“一番賢いもの”を選んで連れてきたんだ。だからこそ、君に頼みたいんだよ」


「“一番賢い”……なるほど。まあ、少しくらいなら話を聞いてみましょうか」



腕を組んで視線を外すと、神はそれを合図と受け取ったのか、ぱっと白布の奥から喜びが弾けるような雰囲気を放つ。



「さすが賢い者は心が広い! 優しい! 慈悲深い!」


「……馬鹿にしましたよね?」



神は目をそらすように布を揺らす。



「まあともかく、君がこれから行く世界についてだ」



神が白い布をふわりと揺らしながら、改まった調子で言った。



「これまでいた世界ではない、ということは分かります」


「その通りだ。君には記憶はないが、知識はそのままあるだろう? 向かってもらうのは、その世界とは異なる場所だ」


「異世界転生、ってやつですね」


「ああ、向かうは剣と魔法の世界」



神は自信たっぷりにたぶんを張った。



「……王道RPGっぽい」


「そうそう! スライムとか出る感じのね!」


「スライムは、擬宝珠みたいな形のやつですか?」


「ぎぼし……?」



神は布越しに首を傾げたようだった。



「玉ねぎみたいな形で、橋の欄干とかにあることが多いあれです」


「ああ、あれ!あれね!……でも最初から“玉ねぎ”って言ってよ!」


「神様だから、ちょっと雰囲気を合わせてみたんです」


「神様はものの名前にこだわりがないだけだからね」


「はあ、覚えておきますね」



淡々と返す彼に、神はしゅんと布の端を指でいじる。



「……まあとにかく、君にはその世界に行ってもらう」


「はあ」



話が無理やり本筋に戻され、あらためて静かに息を吐いた。



「……それで、俺は一体何をするんですか? 魔王を倒して世界を救うとか?」



そう問いかけると、神はあっさりと首を横に振った。



「魔王はすでにいない」


「……え?」


「私の創った勇者が倒した」



あまりにも当然のように言われたその事実に、思考が一瞬止まる。


「じゃあ俺は一体何を?」


「勇者をなんとかしてほしい」


「誰が創ったんですか?」


「私だ」


「製造者責任って知ってます?」



神は困ったようにため息をつく。



「あの子、私の言うこと全然聞いてくれなくて……」


「反抗期ですか?」


「ああ、親の言うこと以外なら聞くかと思ってね。この世界の者たち全員にも力を与えたんだ」


「全員……?」


「いわゆるスキルとか職業っていうやつ。まあとにかく、全員に与えるのは大変で……実はまだ終わってなくて」


「……どうやって配ってるんですか、それ」


「これ」



神がすっと床を指さす。


そこには――無限に広がる床一面に、びっしりとあみだくじが描かれていた。

見ただけで頭が痛くなるような線と文字の迷宮。あらゆる種類の名前や称号、スキルの断片が交差し、重なり、渦巻いている。



「幸い、この空間は無限だからね」


「うわぁ」


「何に対する“うわぁ”なの?」


「文字がびっしりで気持ち悪いのと、ほんとにこれでやってんのかっていう、“馬鹿にしたうわぁ”です」


「正直に言うのが正しいとは限らないよ」



神は傷ついたようにつぶやく



「とりあえず、それは置いておいて……その、力を与えたのは。

勇者が力を振りかざして暴れているから、それを止めるため……とか?」



神は、ふわりと布を揺らして頷く。



「まあ、流れとしては合ってる」


「流れ以外を詳しくお願いします」



神は少しだけ言葉を探してから、やや誇らしげに語り始めた。



「勇者は、“平和な世界を作る”ようにと、私が生み出した存在なんだ」


「魔王を倒して、平和になったなら、それで良かったんじゃないですか」


「勇者は、魔王を倒した“あと”も、平和な世界を作ろうとしている」


「……何も問題はないように思えますけど」


「そうだろう? だが問題は、“勇者にとっての平和”の基準に満たないものが、許されないという点なんだ」


「……たとえば?」



神はわずかに声を低くしながら続けた。



「町の中で、ちょっとした喧嘩が起きる。ほんの些細な言い争い。時間や話し合いで解決しそうなやつだ」


「勇者はそれを“平和を乱した”とみなす?」


「うむ、そして喧嘩両成敗」


「町の人口が……二人、減る?」


「うむ」


「うわあ……平和過激派だ」


「人々は、勇者に怯えながら暮らしている。

正しさしか存在しない世界。間違いを試す余地がない」


「でも、“結果として平和”ならオーケーでは?」



何か裏があるだろうとは思いつつも、あえて問う。

神は小さくため息をついて、静かに反問した。



「……君は、自習時間に私語を一言も許さず、

すべてを担任に報告する学級委員のクラスメイトになりたいかい?」



男は言葉に詰まりかけ、それでも何とか返す。



「その例えはよく分かりませんが……息苦しそうなことだけは、分かりました」



「職業を与えたことで、人々はどう変わったんですか?」



静かに、しかし核心を突く問いが投げかけられる。



「……そこで君だよ」



唐突な返答に、男は一瞬まばたきをしたあと、淡々と確認するように繰り返した。



「職業を与えたことで、人々はどう変わったんですか?」



神はしばし沈黙した。

布の下から聞こえていたはずの軽快な声が、ぴたりと止まる。



「…………」


「……効果はいまいちだったんですね」


「あー……うん、まあ……」



神は白い布の裾をいじりながら、気まずそうに呟いた。



「勇者を強く創りすぎたみたいでね。だけど、全員に与えるつもりで始めちゃったから……今さらやめるのも不公平というか……」


「そこには責任感あるんですね」


「そう、私はそれで今とっても忙しい」


「……勇者に関する責任感も、お願いします」


「……そこで君だよ」


「さっきも聞いた気がする」



まったく噛み合わない論理展開に、彼はそっと天を仰いだ。

数秒だけ沈黙し、吐息まじりに言葉をつなぐ。



「……納得はできませんが、状況は理解してきました。

これは、断っても無限に説得される流れですね」


「話が早くてほんと助かる!」


「俺の記憶を消している理由は?」


「あっ、そこ……聞いちゃう?」



神はあからさまに狼狽し、布の中でわたわたと手を振っている気配がした。

男は微かに目を細め、ぼそりと呟く。



「……俺の知識に、自力で成仏する方法があった気がするんですが」


「わーっ! ごめんごめん! 言う!ちゃんと言うから!」



神は慌てて言葉を重ねた。



「ただ単に、前の世界に戻りたいとか思わないようにってだけ! ほんと、それだけ!」


「それだけ」


「……あと、君の知識量が多すぎて、記憶が持ってこれなかったみたい……」



布に書かれた“もしかして神?”の文字が、どこか気まずそうに沈んで見えた。



「俺が、前の世界で一番賢いもの……って言いましたよね?」



彼は少し顎を引き、静かに問いかける。



「よく覚えてるね、賢い!」



神は相変わらず調子のいい声で返す。



「もしかして……俺って、車椅子の天才科学者だったとか?」


「……神の存在を否定しようとしてる?」


「いえ、今目の前に実在してるので。

どちらかといえば、“神はサイコロを振らない”どころか、“見えないところに投げて我々を混乱させる”という言葉が思い浮かんでまして」


「……馬鹿にしてる?」


「そんなつもりはありません」


彼の口調に悪びれた様子はない。



「……君は、ホーキング博士が“異世界転生”って言葉にピンとくると思ってるの?」


「ピンと来ないというのを証明することはできませんからね」


「ぐう……」


神は苦しげなうなり声を漏らす。



「……ぐうの音って本当に出るんだ」


「まあ、君の記憶については……あまり深く考えずにいても問題ないよ」


「せめて名前だけでも教えてください」


「自由につけていいよ? ゲームの名前みたいに」


「じゃあ、スティーブン」



即答する男に、神は布をめくりかけた勢いで止まった。



「君が博士を尊敬してるのはよく分かった。でもダメなんだ」


「自由にって言いましたよね」


「四文字以内で」


「あのゲームも10なら六文字まで行けましたよね」


「まあ、それは冗談」


「どれが冗談なのかわかりにくいです」


「名前くらいなら、教えても障りないだろう。ええと……名前……名前、名前……」



神がぶつぶつと呟く。



「……もしかして今、考えてます?」



男はじっと布の中心を見つめたまま、冷静に問いかけた。



「いやいや。違う違う。

職業を付与するために、この世界の全員分の名前を手作業で書いたから、ちょっと思い出すのに時間が……」


「あみだくじの弊害がここにも出てるとは」


「……ああっ! そうだそうだ、思い出した! ケンサク! お前の名前は、ケンサクだ!」



勢いよく指を突き出す神。布の下でドヤ顔をしているのが容易に想像できた。



「ケンサク……」



ケンサクはその言葉を、どこか遠い響きのように繰り返す。



「……おじいちゃんっぽいですね」


「まあ、感想は人それぞれだし。

名前なんて記号のようなものだよ」


「……俺、おじいちゃんだったんですか?」


「人間、やがて全員おじいちゃんかおばあちゃんになるからね」


「じゃあ俺、おじいちゃんなら孫とかいたんですかね?」


「……おじいちゃんに食いつきすごいね、君」



神は空気を正すように、咳払いをひとつ。



「ケンサク。君もこれから行く世界の“人間”だ。だから、職業を与えている」


「職業……勇者とか、そういうやつですね」



ケンサクは警戒を滲ませつつも、言葉の端に興味を滲ませた。



「まあ、八百屋とか道具屋とか、数え切れないほどいろいろあるけどね」


「職業選択のない世界……」


「温度感的には、“適性”と捉えてもらえるといい。

たとえば“職業が八百屋”でも、努力すれば“剣士”として大成することもできる」


「でもその人が“八百屋”をやると?」


「世界の半分くらい手に入る」


「野菜以外も扱ってそうですね」


「まあとにかく。君にも、職業はすでに与えてある」


「すでに?」


「うむ。君はあみだくじをせずに、私が直接授けたからね」


「融通がきくんですね」



神は自信たっぷりに言い放った。



「君の職業は――賢者だ。賢い者。君にぴったりだろう?」


「それは……ちょっとテンション上がりますね」



ケンサクが少し口角を上げたのを見て、神は続けた。



「その賢さで、勇者を導いてほしい」


「……この世界って、音楽がすぎやまこういちさんの、あの世界観に似せてあるんですよね?」


「似せているというか、創ったら似ていたというか……」


「それなら、“賢者”って、回復魔法と攻撃魔法を極めしもの、みたいな職業ですよね?」



神は、しばし言葉を選ぶように沈黙し、どこか歯切れの悪い調子で答えた。



「……ああ、まあ、ね……」


「なんですかその煮えきらない返事は」


「賢者が魔法を使えると誰が言った?」



神は突然、もったいぶるように口調を低くした。

しかしその言葉を聞いても、ケンサクはほとんど表情を動かさず問い返す。



「この世界では、“そういうものではない”ということですか?」


「いや、正直に言うと――賢者は魔法適性が高い。

君の言った通り、“回復も攻撃もこなせる、最強の後衛”みたいな職業だよ」



「自分の言葉、一瞬でひっくり返さないでください」


「でも、君は、使えないんだ」


「でも、俺は、使えない」



静かに繰り返したその声には、諦念とも怒りともつかない感情が混ざっていた。



「なぜなら、魔法を唱えるために必要な“魔力”が、君にはないから」


「……それは、なぜ」


「前の世界には、そもそも魔法がなかっただろう?

だから君は、“魔力という概念”そのものを持っていない。

そして、本来なら転生ボーナスで補いたいところなんだけど……」


「……なんだけど?」



神は気まずそうに布の裾をいじった。



「勇者を創る時に……そういうの、全部使い切っちゃって……」


「……」



ケンサクはしばらく沈黙した。言葉の代わりに、深いため息が場に落ちる。



「でも、賢者なんですよね。なら、使える魔法はたくさんあるはずですよね」


「うん、あるある。たくさんある。

でも魔力がないから、使えない」


「ええ……」


「無理やり使おうとすると……死ぬ」


「なにそれこわい」



布に書かれた“もしかして神?”の文字が、やけに遠く感じられた。



「まあ、賢者ということを伝えなければ、魔法が使えないことでの弊害はないでしょう」



ケンサクは淡々とした口調で言った。



「……ああ、まあ、ね」



神の返事はどこか歯切れが悪い。

ケンサクは眉をひそめて、静かに言葉を重ねた。



「……あれ、煮えきらない返事、なんかデジャヴ」



神はそっと咳払いをひとつした。



「……ケンサク、ちょっとこっちを見て」


「はい?」


「じっと見つめてみて」


「まあ、はい」



言われるままに視線を向けた瞬間、ケンサクの目に不思議なものが映り込んだ。

神の頭上――白い布のすぐ上空に、淡い光を放つ文字が浮かんでいた。



《神 職業:神

称号:この世界を照らす無限の光》



「……何か見える?」



神の声がやけに静かに響く。



「神、職業:神……これを見られるのは、賢者の能力ですか?」


「いや、この世界の人はみんな見られる」


「えっ」



ケンサクはきっちり1秒止まった。



「じゃあ、俺が賢者ってことも」

「うん、ばれる」


「なにこの個人情報の扱いの軽さ」



肩を落としたケンサクは、やや呆れた口調で続ける。



「まあ、そういう仕様なら仕方ない。……それで“称号:この世界を照らす無限の光”というのは?」


「えっ」


「えっ?」



神の声が明らかに動揺していた。



「そこも、見えてるの?」


「“この世界を照らす無限の光”ですか?」


「読み直さなくていい」


「この世界を照らす無限の光、ですか?」


「だから読み直さなくていいってば!」



神は布の奥で顔を覆っているようだった。



「この称号は……その……私がこの世界を管理するために設定したもので。

神が考えた称号や、その存在がどう思われているかが表示されるようになっている」


「つまり神様は、“この世界を照らす無限の光”と周りのものたちに思われている、と」


「……それは自分で考えた」


「まあ、称号が他人から見えないなら、何をつけても恥ずかしくはないですね。

たとえば、“この世界を照らす無限の光”でも」


「もうやめて」


「……これが、賢者の力……!」


「私もなぜ見えるのかは分からないけど、たぶんちがう」


神は、どこから取り出したのか、大きな鏡をすっと掲げた。

鏡面はまっさらな銀のように輝き、現実味に欠けるほど綺麗だった。



「ケンサク、これで自分の姿を確認してみて」



促されて覗き込んだ鏡の中に映っていたのは、見覚えのない顔だった。



「……おじいちゃんでは、ない。もしかして……若返った?」


「おじいちゃんにこだわりすぎないで」



神はうんざりしたように布の裾をぺちぺち叩いた。



「それより、自分のプロフィールも見てごらん」



ケンサクが鏡越しに自分の頭上をじっと見上げる。すると、またもや文字が浮かび上がった。


《ケンサク

職業:賢者

称号:転生者、世界を正すもの……》



「あっ」


「ん?」


「この文字、鏡の中でも反転しないんですね」


「実際にそこに浮かんでるわけじゃないからね。あくまで“視認”してるだけ」



ケンサクは目を凝らして、さらに表示の続きを読む。



《……魔力ゼロ、賢さカンスト、他は一般人並み》



「……随分、尖ったステータスですね」


「そういうわけだ」


「いや、どういうわけ」



ケンサクは静かに問い返す。神はまるで事務的に処理を進めるような口調で説明した。



「君には“賢さ一点集中”の、鋭い働きを期待している」


「ちなみに、この“他は一般人並み”というのは……?」


「体力、力、素早さ、器用さ、運……そういうの全部」


「つまり、頭がいいだけの普通の人、ということですね」


「まあ、そうなるね」



ケンサクはまた天井を見上げるようにして、しばし沈黙。


それから、少しばかり警戒を込めて尋ねた。



「勇者は、どんなステータスなんですか?」



神の返答は、実にあっけらかんとしていた。



「賢さ以外が全部カンストしてる、イケメン」


「わあ、勝てる気がしないうえに顔もいいなんて」


「世界を救う英雄だからね。私も、気合いを入れて造ったんだよ」



神は少し誇らしげに言った。



「……それが今では、“平和過激派”として世界の平和を脅かしている、と」


「そういうわけで、私の分まで頼んだよ」



さらりと投げられた言葉に、ケンサクの眉がぴくりと動く。


「えっ?」


「えっ?」



一瞬、二人の間に沈黙が走った。



「俺、このまま転生するんですか?」


「うん」


「魔法も使えない、頭がいいだけの普通の人が、一人で?」


「まあ、その予定だったけど」


「ついてきてくれないんですか?」



ケンサクが半ば本気の声を上げると、神は少しだけ言いよどんだ。



「……頼られるのは、悪い気はしないけどね。ただ」


「ただ?」



神はひとつ咳払いをして、言葉を選びながら続ける。



「この空間では、君が“思い描く神の姿”で私を見ているけれども。現世へ転移すれば、私の姿は少し変わる」


「まあ、それは……そういう仕様なら納得できますけど」


「現世での私は、常に光っている」


「……なぜそんなことに」


「神々しさを表現した」


「たぶん、履き違えています」



ケンサクが冷静に突っ込むと、神は少しだけ視線をそらした。



「眩しい、と現世での私の体は――勇者によって封印されている」


「……この世界を照らす無限の光が、そんな……」


「思ってもない“哀しい感じ”を出さないでくれる?」


「バレましたか」


「……それじゃ、準備はできたね」



神は、白い布をふわりと揺らしながら、言った。



「いや、全然できてないですけど」


「細かいことは転生先で考えよう!」



そう言った瞬間、床が光に包まれた。



「ちょ、待っ――」



ケンサクの抗議の声ごと、その身体は光の奔流に呑まれていった。


――こうして、魔法も使えない賢者の、世界を救う旅が始まった。

まだ誰も知らない、少し風変わりな物語が。




いつか長編にしたいな、と考えながら書きました。

読んでくださり、ありがとうございます!

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