閑日は予感
〜対倣社社宅〜
私は自分の部屋で独り、寝床に横になって、珍しく何もない閑日を謳歌していた。
「今日は珍しく何もないなぁ」
私はボソッと独り言を呟いた。
「ほんと。珍しいよねぇ」
「ワッ!?」
私しかいないはずの部屋から突然、私の独り言に共感する声が聞こえた。
この声は...。
「ども。古知丸君」
「なんでいるんすか?楡俣先輩」
謎の侵入者は楡俣先輩であった。
「だって暇で寂しかったからぁ」
「いいですよそういうの。別の理由で来たんですよね?」
「流石古知丸。僕の心もお見通しだね」
「お見通しというか。楡俣先輩いつもその理由でしか私の部屋来ないじゃないですか」
「まあ確かにね。まあ、そういうことなんでよろしくお願いします」
「いいですけど、警報なったら必ず自分の部屋戻ってくださいよ?こういう暇な日って絶対、何かしらあるんですから」
「それについては対策してあるから大丈夫」
私の顔を見てニコッとする先輩。
「対策?」
「そう。警報がなった時、いつでも出動できるように、必要なものは全部ここに持ってきた」
「え?警報鳴らなかったらずっとここにいるつもりっすか?」
「うん」
私は流石に呆れた。
「まあ、いいですよ。好きなだけここにいればいいですよ」
「いいの?ありがとう」
また私を見て笑う先輩。なんなんだこいつは。
「酒マブラーしようぜ」
「いいっすよ。ボコボコにしてやります」
〜30分後〜
「やっぱ先輩はまだまだっすね」
「クッソ...」
酒マブラーで初心者狩りするのはやっぱり面白い。
ビービービー...。
「出動命令。討伐課第弍班は、2階討伐専門カウンターに集まりなさい」
討伐課の任務のアナウンスが流れた。
「俺ら関係ないな」
「もう一戦しましょう」
先輩の言った通り、我々はこの任務には関係ない。
討伐課には壱、弍、参の三つの班があり、それぞれ担当区域が違う。
だから今回の任務は我々、壱班には関係ない。
ちなみに壱だから優れているとか、参だから劣っているなど数字による優劣は全くない。皆同じ実力だ。
同じ実力なら互いに実力を高め合う仲間だと思われがちだが実際そんなことはない。
「おやおや、弍班がこれから戦闘しに行くというのに、壱班は呑気にゲームですか。流石は雑魚の集まり」
「そうですねぇ。捻橋さん。あんな雑魚なんか気にしないで、早く任務に行きましょう」
「ああ、そうだな」
優劣はなくても、残念ながら壱、弍、参それぞれ仲が悪い。
私たち壱班は仲良くしようとしてるつもりだけど、他の班には仲良くなろうなんていう気が全くない。弍班も参班もどちらも見下すような目で見てくる。
特に弍班の捻橋 捩と言う男が一番捻くれている。
我々を憎たらしい笑みを浮かべ、さらに鼻で笑い、見下すのだ。壱班の中では彼を意地悪な猿「悪猿」と呼んでいる。
「申し上げます。申し上げます。楡俣様。あの人は酷い。酷い。厭なやつです」
「駆込み訴えみたいに言うな」
「すみません。内なる文豪の血が騒いで」
「お前は文盲だろ」
「文読めるし」
「なんだその訴えは」
ガチャン!
突然扉が閉まった。と同時に
チッ。
と舌打ちが聞こえた。
「まだいたのかアイツ(捻橋)」
「意味わからんとこでキレるっすよね」
「な。本当に何がしたいんやろ」
また謎に捻橋に憎まれた私たちであった。
〜10分後〜
「やっぱ先輩は弱いっすね」
「は?互角だろ」
「いや。さっきまで何を見てたんですか?めっちゃボコボコにされてましたよね」
「いや、厚揚げと油揚げくらい変わんない」
「だいぶ違うじゃないですか」
「いやほぼ同じだろ」
ガチャ。
突然扉が開いた。
「壱班のお二人。弍班から援護要請が来た。ちょっと言ってくれないか?」
部屋に入ってきたのは、壱班司令部長の白井部長だった。
「あ、こんにちは!白井部長」
「弍班だけじゃ対処できない数の、モドキが出たらしい。だから、壱班の半分の人を送ってくれと戦地から無線がきたよ。だから行ってらっしゃい」
「えぇ〜」
「コラ。古知丸。ええ〜じゃないの。わかりました。白井部長。僕は司令室に行ってきます」
「楡俣君。君も戦地に行くんだよ」
「えぇ〜」
「コレ楡俣君。君もえぇ〜じゃないよ。なんでそんなに嫌がるのかね?古知丸とか戦闘好きじゃない?楡俣君も」
私と楡俣先輩はそう言われて目を合わせた。
そして部長を見つめ直して言った。
「弍班が嫌なんです」
「本当仲悪りぃな」
部長は笑っていた。
笑い事ちゃうわ。
※酒マブラー:様々な酒豪を操作して戦う格闘ゲーム。




