襲撃・前編
対倣社の一階ロビーに、突如として現れたモドキ。数はそこまで多くはない。
「ほらほら、新人君。隠れてないで行くよ」
「む、む、む、無理です...」
カタカタと歯を鳴らしながら、新人君が震えている。
「だ、第一、銃なんて、つ、使ったことないし」
「使ったことないの?せっかくの実践練習が」
「これは実践練習の範疇を優に超えていませんか?」
「こんなもんでしょ」
私は持っている自前の銃を新人君に渡して、戦闘に参加した。
「お疲れぇっす」
「戦闘中だぞ。もっと気を引き締めんか?」
「うぃ〜す」
楡俣先輩は呆れた顔をした。
対倣社に突撃してきたのはサカナモドキモドキ。
ややこしい名前で有名(対倣社の人だけ)なモドキだ。
なぜここまでややこしい名前になってしまった理由を説明しよう。
まず最初にサカナモドキの説明から。
サカナモドキは水の中で生きるモドキで、普段は魚に紛れて生活している。戦闘能力は低く、討伐課の人のような訓練を積んだ人じゃなくても、武器さえあれば余裕で倒せるモドキだ。
そのサカナモドキの亜種として生まれたのが、サカナモドキモドキ。こいつは水中でも陸上でも生きることができる特殊な個体で、サカナモドキに人間の足が生えている、グロテスクな見た目をしている。戦闘能力はサカナモドキよりやや高く、訓練を積んでない人だとちょっと厳しいが、討伐課の人間からしたら微々たる差なので、結局、雑魚。
今、討伐にあたっているのは2年目や3年目の若手。少し手こずっているようだ。楡俣先輩も討伐課ではあるが、司令部の人なのであまり戦闘が得意ではない。
さらに、ベテランの人たちは他の任務にあたっているため、それも手こずっている要因だ。
「どいて。私が殺ってやろう」
私は満を辞して前に出たが、右ももに巻きつけたガンホルダーに手をかけた時、忘れていた何かが頭によぎった。
「銃、無い...」
さっき新人に渡した銃しか持っていなかった。
「2丁あると思ってた」
「そんな凡ミスする!?しっかりしてくれよ古知丸」
先輩は呆れた様子だった。
今、私に残された攻撃手段は素手のみ。多分。
「素手で行くなよ古知丸。流石のお前でも無理だと思うぞ」
「ですよねぇ」
私は武器があることを信じて、自分の服のポケットを弄った。もちろん武器は入っていない。残る希望は左もものガンホルダーのみ。
私は最後の望みにかけてガンホルダーに触れた。
「なんかある」
「銃か?」
私はガンホルダーにある何かを掴んだ。
掴んだ場所は野球のバットのグリップのような感じがする。
私はガンホルダーからそれを引き抜いた。
「短刀?」
私のガンホルダーに入っていたのは短刀だった。
「いやなんでだよ」
「あっ!思い出した。最近接近戦の練習してて。入れっぱなしでした」
「ほんと何してんだよ」
楡俣先輩は肩をすくめた。
「古知丸先輩!銃返します!」
そう言って新人君は私に銃を向ける。
トリガーに指がかかっている。流石の私も少しビビった。
「トリガーに指をかけた状態で銃口を人に向けるな!!殺されたいんか?」
「す、すみません」
新人君は楡俣先輩に怒られた。
私と新人の頃によく楡俣先輩に怒られてたなぁ、と少し懐かしい気持ちになった。
「まあ、銃はいいや。武器あるし。それ持ってていいよ。使わないなら地面置いといて。下手したら暴発するから」
「は、はい」
私の話を聞いて、新人君はすぐに銃を地面に置いた。
戦う気はさらさらないようだ。
「おっ!ラッキー!片方にもう一丁短刀あった」
奇跡的にもう一丁あったので、今流行りの二刀流となった。
「それじゃあ、捌かせていただきます」
私はサカナモドキモドキ目掛けて一直線に走った。




