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8 解呪の奇跡

 黒煙の化け物から一変して、眉目秀麗な男の姿が露わとなった。セシルの呪いが吹き飛んだのだ。


「……えっ……?」

「なっ、これは……! 何が起きたんだ!?」


 私とセシル、そして会場内の全員が驚きに目を丸くした。


 あたり前だが、本来の姿に戻ったセシルは、釣書の肖像画通りの見た目であった。信じられない、といった面持ちで、自分の体を見回している。


 陛下が前のめりになりながら感嘆の声を上げた。


「……なんという奇跡だろう! 重度の呪いが一瞬で……! 何が起きたのだ? その花細工に何か解呪の魔法が?」


 傍らに漂っていたミシェが得意げに笑う。


『へへんっ! 何とんちんかんなこと言ってんだか! エマの力のおかげに決まってるだろう』


 完全に無意識だったが、彼に触れた瞬間、反射的に浄化の力を発動させてしまったらしい。光の魔法にはこんな使い方もあるのね……? 今知ったわ。


 セシルの体がほんのりと光に包まれているように見える。私の魔法によって浄化の加護がついたようだ。本来の姿を取り戻すことができたのはとても喜ばしいことだ。が、一方で、私は顔を青くした。


 まずい……こんなに大勢の前で魔法を使ってしまった!

 よりによって陛下の目の前で……! 


 光魔法士だと疑われたら、このまま身柄を拘束されて、一生城に監禁コースでは……!? 心臓がバクバクと音を立てる。人々の目から逃げたくて、さり気なく後退りしてみたが、直後に思わぬ援護を受けることになった。


「セシル様……っ! 呪いがお解けになったのね……!」


 後ろにいたキャメロンが勢いよく前に飛び出てきた。彼女に押しのけられたことにより、私は中央から捌けることに成功した。妹の強引なノリに、生まれて初めて感謝した。


「そのお花細工の飾りは、あたしがお姉様にプレゼントしたものなんです!」


 そうだったかしら? 記憶を手繰ってみたが、確かに、数年前にもらったものだ。

「お姉様はルックスがパッとしなくてお可哀想だから、あたしのアクセサリーをあげるわ」と言って渡されたのだったか。綺麗な飾りだったので当時の私は素直に喜んだが、結局このプレゼントは、新しく買った物を収納するために不用品を処分したい、という意図によるものだった。


「もしかして、あたしの愛の力が花飾りに宿っていて、呪いが浄化されたのかも! きっとそうだわ! 純真な愛は呪いに打ち勝つって、物語でもよくあるもの!」


 まぁそういう事例も稀にあるようだけれど、今回の場合は違うみたいよ。天使様も首を振ってるわ。


 私はスゥーっと壁際まで移動して落ち着いた。人々の注目はもうキャメロンへと移っている。世にも美しい褒賞の花嫁が、英雄の呪いを解いた!? なんて、ものすごく絵になるシーンだものね。


 控室でのギャン泣きなんて少しも想像させないような、完璧な愛らしさの笑顔と所作で、キャメロンはお辞儀を披露した。


「あっ、騒いでしまってごめんなさい。セシル様の呪いがお解けになって、とっても嬉しかったのです……! 改めまして、あたしはキャメロン・ハーゲンと申します」


 上目遣いで首をコテンと傾げる。セシルが笑顔で挨拶を返すと、彼女は顔を真っ赤にした。そのまま二人は見つめ合い――……とはならず、セシルは壁際にいる私を見た。


「先ほどの、あちらのご令嬢は?」

「えっ……? あれは、あたしの姉です。エマと申します」

「あぁ、お姉様だったのですね」

「はい。実は姉は病気がちでして……あたしがいつもお支えしているんです」

「そうなのですか。仲が良くて素敵ですね」

「うふふ、よく言われますわ」


 言葉を交わした後、キャメロンも端に捌けた。真っ赤に染まった頬を両手で挟んでいる。


「はうぅ……やっぱり素敵だわ……。セシル様ぁ……」


 恋する乙女の呟きは聞き流し、会の進行を見守る。ミシェは『手のひら返しもいいとこだな。さっきは気持ち悪いとかボロクソ言ってたくせに』とぶつくさ言っている。


 祝賀会は無事に締め括られて、陛下、並びに高位の王族たちは大広間を後にした。

 残された騎士隊長と貴族たちは、このまま歓談のパーティーへと移行する。音楽が流れ始めると、人々は挨拶まわりに動き出した。


 壁際に控えていた両親は、真っ先にキャメロンへと歩み寄る。


「大役ご苦労だった、キャメロン! お前はもしかすると聖女なのかもしれないぞ! 英雄の呪いを解いたとあれば、王家からさらなる報酬をいただけるかもしれない!」

「キャメロンちゃん! あんな奇跡を起こせるなんて、神に愛されているとしか思えないわ!」

「うふふふ、お父様、お母様ったらぁ。そんなにすごいことじゃないわよぉ。あたしはただ、心の中で『セシル様、元に戻って』ってお願いしただけよ。でも、思ったより、あたしの愛の力は強かったのかもぉ」 


 家族三人は最高潮にご機嫌な様子で、早速セシルの元へと挨拶に向かった。私はというと、壁際でへたっていた。


『お~い、エマ、大丈夫か?』

「疲れがどっと出てきたわ……。もう帰ってもいいかしら?」


 やるべきことはやりきったし、このパーティーはもう自由時間みたいなものだ。ハーゲン家を追い出される予定の私など、挨拶まわりには不要だし、帰宅してもいいだろう。


『よっしゃ、じゃあ帰るか!』

「うん」


 早々に会場を抜け出して、私は帰路についた。セシルが会場内をキョロキョロと見回して、必死に人探しをしていることなど、知る由もなく。



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