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2 健気な異母妹

 以前に現れた光の魔法士は城に監禁されてしまったそう。その前は他国に誘拐されて行方不明になり、さらにその前は敵国の刺客に暗殺された……と、歴史の授業で習った。


 だから私は魔法バレを警戒している。極力、人前には出たくない。万が一『天使が見えるぞ!』なんて言い出す人が現れたら、私の人生は一変してしまうだろうから。


「……私は普通~に、心穏やかに暮らしたいの。お願いだから目立たずにいて。約束のお祈り魔法だけは毎日ちゃんと続けるから」


 お祈り魔法――正しくは、魔物を抑える祓魔(ふつま)の魔法。光の魔法士は毎日この魔法を空に放つ義務があるらしい。これは天の神から与えられたお役目なのだそう。しかし魔力の消費がえげつなく、体力をごっそり持っていかれるのでハードな日課だ。私の容姿がこんなに不健康なのも、この魔法のせいである。


 天使ミシェイラ――私はミシェと愛称で呼んでいる――は、ツンと唇を突き出して、不貞腐れた顔で言う。


『まぁ、エマがいいならいいけど。でもこんなにすごい魔法を使えるのに、みんなに誤解されたままなのは(しゃく)だなぁ。特に、君の妹には……』


 ミシェが目を向けた方を見ると、妹キャメロンが駆け寄ってくるところだった。彼女は舞台の中央まで出てきて、私の腕に抱き着いて大声を上げた。


「みんな、お姉様を悪く言わないで! お姉様は病気だから仕方ないんです! 魔力が開花しなかったのは残念だけど、四年間休まず学院に通ったことは誇るべきことでしょう? 先生方も、どうかお姉様に悪い点数をつけないであげてください」


 キャメロンは客席を見渡して、うるうると目に涙を溜めて訴えかけた。私はさっさと舞台上から()けたかったのだが、彼女が注目をさらってしまったことで、その願いは叶わなくなってしまった。


 客席のざわめきが耳に入ってくる。


「エマさんって、ご病気の噂は本当だったのね。どうりでいつも顔色が悪いと……」

「病気を理由にして、キャメロンさんにきつく当たっているって話を聞いたことがあるわ」

「いじめられてたのに、それでもお姉さんを庇うなんて……なんて健気なんだ……キャメロン嬢」

「あぁ、将来はああいう()と結婚したいな……。卒業したら、ダメもとで婚約の打診をしてみようかな」


 みんなの声はキャメロンにも確実に聞こえているはずだけど、彼女は「何も聞こえていないわ」という顔をして、私の両手を握りしめる。


「魔法士としては何もできないお姉様だけど……あたしにとっては大切な家族なんです。みんなもどうか優しくしてあげてください。さ、行きましょうか、お姉様。これにて、お姉様――エマ・ハーゲンの発表を終わりまぁす!」


 キャメロンに腕を組まれて袖へと捌ける。彼女は涙を潤ませながらも可憐な笑顔をこぼし、舞台女優のように客席に手を振っていた。

 できる限り目立たずに発表を終えたかったのに、彼女のおかげで一番目立つことになってしまった。


 フワフワと後ろをついてきたミシェは、まだ唇を尖らせている。


『いや、エマは病気じゃないし。魔力の消費でちょっと疲れてるだけだろ』


 そうなのだけれど、いつの間にか病気ということにされていた。学院でも家でも、今では疑う者はいなくなっている。一体、誰がそんな噂を広めたのだか……。


『病気の姉を支える健気な妹、か。ふん! 頭空っぽな人間が酔いしれそうな設定だな。あーあ、エマが許可してくれたら、噂の言い出しっぺに天罰を下してやるのになぁ』


 ミシェはニヤニヤとキャメロンに視線を送っている。こらこら、天使のくせにそんな悪い笑顔を浮かべるんじゃありません……と、突っ込んだら、彼はもっと拗ねてしまうだろうか。


『まぁでも、こんなしょうもない妹とも、もうすぐおさらばだな!』


 ミシェは私の顔を覗き込み、屈託のない笑顔を見せた。


 彼の言う通り、卒業したら妹に絡まれる生活はもうおしまいだ。貴族の子女たちは学院卒業と同時にどんどん結婚していくので、姉妹で絡んでいる暇などないだろう。


 キャメロンはとにかくモテるから、きっと爆速で婚約が決まって嫁いでいくに違いない。

 対する私はモテないが、長女として家に残り、婿(むこ)を迎える予定である。お相手は亡き実母の知人の息子。母は他界する前に縁を取り持ってくれていたのだった。


 既に顔合わせのお茶会も済んでいる。彼は五歳年上で、ぽっちゃりとした丸っこいお兄さんだ。おっとりしてて人柄も良い。ミシェも『良い奴じゃん』と評していた。天使様のお墨付き。


 きっと悪いようにはならない結婚だ。華やかさはないかもしれないが、普通に穏やかな暮らしができるだろう。私の理想の生活である。


 うんうん、何事も普通が一番よ。


 そう思っていたのに……。



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