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17 転落……真っ暗な未来へ

【キャメロン視点です】

 変貌したセシル様の姿――その姿は最初に見た時の、呪いの姿そのものだった!


 あたしの悲鳴に共鳴するかのように、会場内の貴族たちも叫び声を上げる。

 陛下の前にはすでに護衛騎士が並んでいて、盾を掲げて守っていた。


「えっ!? えっ!? なんで……!? 呪いはもう解けたんじゃないの!?」


 何が起きたのかわからなくて、あたしの頭はもう大パニックだった。そんなあたしを置いてけぼりにして、陛下とセシル様は二人で話し始めた。


「魔物の呪いはしつこく、そうやすやすと解けるものではないと聞いてはいたが……。やはり、完全な解呪には至っていなかったようだな」

「……そのようです」

「ふむ。居を据え、身を固めて、焦らずに解呪の方法を探るとよい。王家も協力を惜しむつもりはないから、安心せよ」

「はい。お心遣いに感謝申し上げます」


 何てことないように次の段取りへ進もうとする二人に、あたしは思わず金切り声を浴びせた。


「待ってください……っ!! えっ、何普通に話してるんですか!? まさかこのままパーティーを続けるつもりじゃないですよね!? う、ううう嘘ですよね……!? 身を固めて……って、まさか呪われたまま結婚しろってわけじゃない……ですよねぇ……っ!?!?」


 あたしは涙を溜めた目を見開いて訴えかけた。それなのに、陛下は「何を騒いでいるのだ」と言わんばかりの冷静な目であたしを見ていた。


「花嫁は夫となる者を支え、人生を懸けて、共に解呪の道を探るように。以上だ」

「……陛下っ……!? えっ……待っ……あの、あたし……っ」


 陛下はスッと手を上げて、司会進行役へと合図を出していた。えっ、何進めようとしてるの? こんな状況なのに……!


 あたしの頭の中は、もう真っ白になってしまった。「人生を懸けて」って……。え?え?え? あたしの人生、この煙の怪物に捧げなきゃいけないの……?


 もう身分とか、周囲の目とか、自分の可憐なイメージとか、そんな事を気にかけるのも忘れて、心情をぶちまけるしかなかった。


「いやっ……嫌よぉっ!! こんな姿の人と結婚なんてできるわけないでしょう!? 戻ってよ! 元に戻ってよ……!」

「戻れるものならそうしてます……! キャメロン様、驚かせてしまってすみません! ですが、少し落ち着いて……! 陛下の前です」

「キャアッ、近寄らないで! 触らないで!! 化け物ぉっ!!」

「……それがあなたの本音か。残念です……」

「ええ、そうよ……っ! だったら何です!? こんな女で残念だとか思ってるの!? だったら婚約を解消しましょうよ! ええ、それがいいわ、お互いのために!」


 そうだ、それがいい。あたしは見目麗しいセシル様じゃないと嫌だし、セシル様は呪いの姿を受け入れてくれる女性じゃないと嫌なのでしょう? じゃあ、婚約破棄といきましょう。円満解決だわ。


 そう思って提案したのに、彼は首を振った。


「いいえ、婚約は継続します。陛下のお言葉を聞いていなかったのか。反故にすることはできない」

「そんな……! ね、ねぇ、陛下、だって化け物相手なのですよ……!?」

「化け物ではない。この者は人間だ。(めい)に背くことは許さぬ」

「……嘘……嘘よ……っ。そんな……じゃあ、あたしの……幸せは……?」


 こんな得体の知れない気味の悪い怪物と結婚なんて……。あたしの幸せはどうなるの……? こんなに可愛らしくて殿方にも人気のあるあたしなら、いくらでもお相手を選べたのに。いくらでも幸せな、満足のいく未来を選べたのに。こんなのってないわ……。


 控えて立っている両親の方へ、縋るように目を向けた。けれど両親はうつむいていて、視線すら合わせてくれなかった。結婚に伴って王家から大金が入るから、そっちの方が大事なのだ……。


 誰か……助けて……助けてよ……っ。


 周囲の貴族たちも哀れみの目を向けるだけ。さっきまでのお祝いムードが嘘みたいに、低いどよめき声が響いている。


 あたしの人生……。とびきり華やかで、贅沢で、幸せで、みんなに羨ましがられるような、最高な人生……。夢見ていた未来は、真っ暗な闇に閉ざされてしまった。


 崩れ落ちて膝をつき、あたしは呆然とするしかなかった。あたしを見下ろして、煙の怪物は言う。


「……せめてもの約束として、あなたとは白い結婚を貫きますので。そこはご安心ください」


 あぁ、よかったわ……。あたしは怪物に抱かれることはないらしい……。


 よかった……。よか……った…………。


 

 もう何も考えられなくて、あたしはただ涙を流していた。そんな時、大広間の入口で誰かが叫んだ。


「キャ~~~~メ~~~~ロ~~~~~~~~ン……ッ! もう逃がさないわ……ッ!! 話があります!! 陛下と皆様も、どうか私の話をお聞きください……っ!」


 地を這うような恨みがましい声で名前を呼ばれた。



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