13 中毒と傲慢強欲のお茶会
【前半はエマ視点、後半はミシェ視点です】
「約束よ」と笑った妹の顔は二チャリと歪んでいて、悪魔みたいだなと思った。彼女は意気揚々と部屋を出て行った。
毒を受けた私は床を這いつくばって、ソファーへと移動する。体を横たえていると少し楽になってきた。
『エマ~っ! 大丈夫か!? クソッ、タイミングが悪い! さっき力を使うんじゃなかった!』
ミシェは「ふぬぬぬーっ!」と力を入れて天使の力を使おうとしてくれている。けれど不発のよう。ペナルティーを受けると力が使えないのは本当らしい。
「大丈夫よ、ミシェ……。少し息苦しいけど、咳も治まったし。あの花の致死毒は効果がゆっくりだから、すぐに死ぬわけではないわ。解毒の花をもらえれば良くなるから」
私はさっきの毒花のことも知っているし、キャメロンが解毒剤となる花を出せることも知っている。彼女は新しい魔法を覚えるたびに私に見せびらかしてきたから、彼女の魔法はすべて把握しているのだ。
「見て、お姉様! あたし死神の花を出せるようになったのよ。すごいでしょう?」
以前、彼女は無邪気に報告してきたが、私は嫌な予感がしたので、その時に色々と調べておいたのだった。
当時のキャメロンは――今もそうだが――天真爛漫な少女だったので、意図せず誰かを傷つけるんじゃないかと思い、警戒していたのだ。まさか自分が害されるとは思ってもみなかったけれど……。
「自然に体から排出されることはないけれど、死に至るまでは数ヶ月もかかる毒だったはず。それまでに彼女のご機嫌を取らないとね……」
じわじわと内臓を蝕んでいき、そのうち臓器不全を起こして死に至る、という性質の毒だ。解毒の花の花弁をかじれば毒素が分解されるが、非常に希少な花なので、国内の病院では入手が難しい。
当時、彼女にも伝えたが、「ふーん。あまり綺麗なお花じゃないから、あたし興味ないわ」と笑っていた。
自分の魔法に責任を持つという意識が欠如しているのが不安だが……まぁ、さすがに姉を殺す罪は犯さないだろう、と信じている。
「ふぅ……。疲れたから、ちょっと眠っていい?」
『うん、ゆっくり休んでて! 何かあったら僕が起こすから』
「ありがとう、ミシェ」
私は目を閉じると、すぐに眠りへと落ちていった。
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エマが眠ったことを確認して、僕は応接間へと移動した。クッソ~!こんな時に天使の力が使えないなんて! と歯ぎしりをしながら、壁をスゥッとすり抜けていく。
応接間の茶会は盛り上がっていた。主にキャメロンと両親がはしゃぎまくって、ペラペラお喋りをしている。両親はキャメロンの良さをプレゼンして、キャメロンは「もぉ~、恥ずかしいからやめてよぉ~」なんて頬を染めている。まんざらでもないくせに。
セシルは対応に必死のようだ。慣れない茶会をこなしながらも、別の考え事をしているように見える。エマのことを思っているのだろう。
エマとセシルは馬が合いそうだ。逆にキャメロンは相性が悪かった。ただそれだけのこと。
キャメロンにも馬が合う相手が必ずいるはずだから、セシルは諦めてそっちを狙えばいいだけなのに。どうして犯罪まがいのことまでして、固執するのか。
それは傲りがあるからだ。自分が選ばれるに決まっているという思い上がり。姉に負けるはずがないという思い上がり。自分は誰よりも優れているという思い上がり。
そういう傲慢な心からは、悪魔が生まれる。
パンにカビが生えてくるように、じわりじわりと悪魔が生じて、気付けば真っ黒!なんてことになる。
『キャメロンには傲慢の悪魔、あの両親には強欲の悪魔が芽吹きそうだ。悪魔が顕現する前に、僕が何とかしないとな』
ペナルティーが解除されるまで、一ヶ月くらいはかかるだろうか。エマの体がもつか気がかりだけど……たぶん、大丈夫だろう。……大丈夫、だよな?
若干、冷や汗を流しながら、とりあえず茶会を見守る。
しばらくしてお開きの空気になり、セシルが立ち上がった。
「今日は急な訪問にもかかわらず、ご親切に茶会にまでお招きいただきありがとうございました。最後に……エマ様を見舞うことはできないでしょうか? 一目お顔を見るだけでも。心配で……」
「セシル様は本当にお優しいのですね。あたしがご案内します」
キャメロンはセシルの腕に絡みつく。僕は急いでエマに報告しに行った。