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1 卒業発表会

【毎日、お昼に更新します】

 国内の貴族たちが通う王都学院の、絢爛豪華な大広間にて。本日は魔法士学科・四年生の卒業発表会が催されている。


 学科に在籍しているのは、十四歳から十八歳までの魔法士の家系の子女たちだ。発表会では、この四年間の集大成として、修得した魔法を披露する。

 一応、教師たちの評価はつくが、どちらかというとパーティー感覚の賑やかなイベントである。


 今、舞台上では学院一可愛いと評判のキャメロン・ハーゲン伯爵令嬢が、花の魔法を披露している。十八歳にしては幼い顔立ち、小柄な体躯、無垢な少女のような所作。艶やかな金髪をなびかせて、舞い踊るように魔法を振りまき、舞台上に美しい花々を咲かせていく。


 文句なしに可憐で、華やかで、素晴らしい魔法のショーだった。舞台袖で見ていた私は、思わず「はぁぁ……」と深いため息をついてしまった。キャメロンがもし、赤の他人であったなら、私は素直に感動していたことだろう。


 キャメロンは私の異母妹(いぼまい)だ。子供の頃、実母が亡くなった後、父が即座に再婚した継母の子供が彼女だった。要は、父には外に愛人がいたようで、既に子供をもうけていたのだ。

 同い年だが、キャメロンの方が数ヶ月誕生日が遅いので、妹という扱いになっている。


 そういう事情があり、昔から私とキャメロンは何かと比べられてきた。ほとんどの場合、愛嬌があって可愛いキャメロンは良い評価を受け、野暮ったい私はノーコメント扱い、という感じだったけれど。


 今日の発表会も、間違いなく私たちは比べられる。

 恐らく今まで生きてきて一番、キャメロンと比べられてしまう瞬間が来ようとしている。


「うぅ……胃が痛くなってきたわ……」

 

 呻いている間に、キャメロンの発表が終わった。ニッコリと愛らしい笑顔を浮かべて、彼女は舞台袖へと下がってきた。


「お姉様、あたしの魔法見てくれた?」

「ええ、いつもながらすごく綺麗だったわ」

「うふふ、ありがとぉ! お姉様も頑張ってね。きっとやればできるわ! お姉様だって、ずぅ~っと頑張ってきたんだから! あたしは信じてるからね!」

「……あんまり大きな声を出さないで。表に聞こえてしまうわ」


 わざとなのか何なのかわからないが、キャメロンは甲高い声でエールを送ってきた。私が()()()()()()と知っていて、わざわざ応援してくれた。


 私は深呼吸をしてから、舞台の中央へ歩み出る。


 私のパサパサの茶髪がライトで照らされた。血の気のない不健康な肌色が際立ち、目元のクマの影も一層濃くなった。


「学生番号、二二九番。エマ・ハーゲンです」


 自分の名前を言うと、既に数人の教師たちが『あぁ……来たか』といった感じで頭を抱えるのが見えた。


 私はげっそりとした貧相な体を深く折り曲げて、頭を垂れながらこの四年間の成果を発表した。


「私はこの四年間で――……何の魔法も開花させることができませんでした。私の発表は以上です」


 途端に、観客席の学生たちからはどよめきが起こった。


「ハーゲン伯爵家って由緒正しい魔法士の家系でしょ? 魔法が使えないなんてことある?」

「キャメロン嬢とは大違いだな。あんな華やかな発表の後にこれとか、公開処刑だろ」

「恥ずかしくないのかしら。よく出てきたものだわ」


 教師席からもため息混じりの声が届く。


「欠席せずに登壇したことは評価する。下がりなさい」

「はい……。ありがとうございます、先生」


 よし……とりあえず終わったわ……。一生分の冷や汗を流した気がする……。


 人生最大の山場を乗り越えた気分だ。私はホッと胸をなでおろして、最後の礼をした。後はさっさと引っ込んで、なるべく人々の意識に残らないように消え失せるだけ。


 学院生活、最後の最後の大舞台で何も披露できない、という恥ずかしさと心苦しさはもちろんだが、実は私には、それ以上に心配していることがあるのだ。


 胸の中で教師たちに謝罪する。


(ごめんなさい、先生。大嘘をついてしまって)


 嘘。そう、私は嘘をついているのだ。何の魔法も開花させることができなかった、というのは嘘です。ごめんなさい……。


 さっきからずっと私の頭上で待機していたモノが、私にだけ聞こえる声で話しかけてきた。


『どうして嘘をつくのさ! 大舞台で僕がド派手に姿を現したら、みんなビックリするだろうに! 本当に隠したままでいいのか!? 「私、エマ・ハーゲンは光の魔法の才能に目覚め、守護天使ミシェイラ様をお迎えしました!」って言ってやりゃあいいじゃんか!』


「駄目に決まってるでしょ……! みんなひっくり返っちゃうわよ……!」


 頭上に浮遊している神々しい天使に向かって、私は小声で反論した。


 実は私は三年ほど前に、突如として光の魔法を開花させたのだった。人よりずいぶんと遅い魔力の発現だったが、光の魔力は非常に希少であり、魔法士は一国内に一人いるかいないか、というほど。国によっては『聖人』『聖女』などと呼ばれて尊ばれる身分だとか。


 それほど特殊かつ神聖な魔法が、光魔法なのだ。人間が扱うには難しい力なので、サポートとして守護天使がつくらしい。私についてくれた天使は、十歳くらいの少年の見た目をしている。やんちゃな悪ガキといった性格だが、背負っている六枚の白い翼は美しく神々しい。


 そういう普通じゃない魔法を手にしてしまったので、私は魔法がバレることを恐れている。



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