私、あなたの様な方はキライじゃありません
「これ、いつもありがとね。お釣り、ゆっくりでいいからね」
夕方のコンビニに、いつもやってくるおじいさんがいる。
白髪まじりで、小柄。ゆっくり歩き、財布の中身を丁寧に確認しながら買い物をする人。
周りから見れば「ちょっと手間のかかるお客様」。
でも、私は彼が嫌いじゃなかった。
「またこの飴、入ったんだね。うれしいなぁ」
「若い人がていねいだと、ホッとするよ」
そんな何気ない言葉を、彼は一つひとつ、丁寧にこちらに返してくれる。
たくさん買わなくても、声が大きくなくても、彼の存在はいつも店に小さな灯りをともしていく。
ある日、忙しい夕方、レジが混んでいた。
後ろの客が舌打ちをしながら並ぶ中、おじいさんが財布の中で一円玉を数えていた。
「早くしてくれよ……!」
その声に、彼はビクリと肩をすくめた。私はすぐさま言った。
「お待ちのお客様、順番ですのでお静かにお願いします」
「な……ッ」
その瞬間、おじいさんがポツリと言った。
「私が遅くてすみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
私は改めて男性に向き直った。
「ここは、ゆっくりで大丈夫です」
会計を終えた彼が帰り際、小さく笑って言った。
「ありがとう。あなたがいるから、ここに来るんですよ」
その一言が、私の一日をまるごと報われたものにした。
私は今日もレジに立つ。嫌いな客も多いけど——
……あなたみたいな人が、いてくれるから。