私、いじめがキライです
夕方の店内、レジ横のベンチで小学生くらいの男の子がひとり、うつむいていた。
制服の袖が少し汚れていて、手には購入するのを迷っているのかパンが握られていた。表情は暗く、声も出さない。
そこへ、店内に三人組の子どもたちが入ってきた。
ランドセルをわざと大きく揺らしながら、わざとらしい声で笑っていた。
「あれ〜? 何やってんの?」
「いつまでパン待たせるんだよ」
「早くしろよ、こっちは待ってるんだぞ?」
レジ越しに聞こえるその言葉は、笑いながらでも確実に“暴力”だった。
見て見ぬふりをするのは簡単だ。売り場のトラブルに首を突っ込むな、という空気もある。
でも、私はレジに立っている。ここで起きることから目を逸らしたら、それは“仕事放棄”だ。
「……君たち、少し静かにしてくれる?」
声をかけると、三人はこっちを見て笑った。
「えー、なんで? 俺らなにもしてないっすよー?」
「ねー、ねー? “タナカくん”?」
その言葉に、タナカくんと呼ばれた男の子がびくりと震えた。私はその子に視線を落とし、静かに言った。
「大丈夫。ここにいる間は、私がいるから」
その一言で、彼の目が少しだけ揺れた。
私はレジを離れ、三人組に向き直る。
「お客様でも、ここでは“他人を不快にする権利”はありません。続けるなら、保護者に連絡します」
その言葉に、三人は急に静かになり、バツの悪そうな顔で店を出て行った。
しばらくして、ベンチの少年がそっと立ち上がり、パンを棚に戻してレジ前に来た。
「余計なコト、しちゃったかな?」
「……いえ、ありがとうございました。なんだかお姉さんのお陰で……勇気、出ました」
小さな声だったけど、しっかり届いた。
私は笑って言った。
「また来てね。次は安心して座れる場所、ちゃんと空けておくから」