私、あなたの傲慢さがキライです
「これ、温めないでって言ったんだけど? 耳ついてる?」
その女の人は、カーディガンにブランドバッグを合わせた、いかにも“キレイめな私”風の客だった。
声は甘くない。語尾に棘。笑顔はあるのに、目が笑っていない。
レジを始めたときから、ずっと細かく指示を飛ばしてきた。
「袋、別にしてね? 手汚したくないし」
「お釣り、手に触れないでくれる?」
「ほんと、よくこの仕事耐えられるね。えら〜い」
言葉の一つひとつに、“私はあなたより上”っていう意思表示が込められている。
彼女にとって私は、雑音のような存在なのだろう。
「申し訳ありません、すぐお取り替えします」
私は温めてしまった商品を下げ、丁寧に対応する。でも、それすら気に食わないらしい。
「もういいよ。どうせちゃんとできないんでしょ?」
その一言で、スイッチが入った。
私は新しい商品を差し出しながら、穏やかに口を開いた。
「……お客様。そういう言い方をされると、周囲の空気が悪くなります」
「は? 何様?」
「バイト様です。でも、客だからって誰にでも“何を言ってもいい”わけじゃありません。“ちゃんとできない”と言うなら、まずご自身の口の使い方を“ちゃんと”見直されたほうがいいかと」
彼女は一瞬、ポカンとした顔をした後、鼻で笑って商品をつかみ、そのまま去っていった。
私は深く一礼した。別に相手に勝ったわけじゃない。ただ、言うべきことを言っただけ。
言葉は刃にも盾にもなる。私は、ちゃんとした言葉を選べる人でいたいと思う。