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私、あなたのイチャモンがキライです

「これ、昨日より高くなってんじゃねぇか! 詐欺だろ、これ!」


 朝の静かな時間をぶち壊す怒鳴り声。

 私はレジ前で、手にしたレシートを震わせて突きつける常連の老人と向き合っていた。


 彼は週に三度はやって来ては、買い物のたびに何かしらケチをつける。

 パンが小さくなった、ジュースがぬるい、ポイントがついてない、前の店員の方が愛想が良かった——


 今日は、どうやら価格差で噛みついてきたらしい。


「お客様、どちらの商品でしょうか?」


「このカレーパンだよ! 昨日は98円だったんだよ!」


 私はレシートを確認し、棚の価格表示を確認し、冷静に説明する。


「本日は、メーカーの価格変更により108円になっております。詐欺ではなく、正式な価格改定です」


「そんなもん、こっちには関係ねぇよ! 昨日より高いってことは騙されたってことだろ!」


 その論理が通じるなら、世の中はすでに崩壊している。私は、少しだけ口角を上げて言った。


「お客様。詐欺という言葉を使うには、それなりの根拠が必要です。法的にも、社会的にも。軽々しく使うと、ご自身が恥をかくだけです」


「なんだと?」


「こちらの価格はすべて表示してあります。ご納得の上でレジに持ってこられたのはお客様です。“詐欺”という言葉は、今回の件には当てはまりません」


 彼はしばらくレシートを睨みつけていたが、何も言い返せず、ぶつぶつ文句を言いながら店を出て行った。


 私はレジのボタンを押しながら、自分の胸にもやっと晴れた空気を感じていた。


「いらっしゃいませー」


 次の客に向かって、いつもの声で笑う。

 私は、理不尽だけは商品として扱わない。これからも。

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