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私、あなたの説教がキライです

「若いのに、礼儀がなっとらんよな。最近のやつは“ありがとう”も言えんのか」


 その声が聞こえた瞬間、私は今日が木曜日だと悟った。

 週に一度、ぴったり午後三時にやってくる“説教じじい”のご来店である。


 レジに並びながら、客というより道場主のような目で他の客を見回し、聞こえよがしにブツブツ文句を言う。

 そして、いざ自分の番が来ると、唐突に“説教”が始まる。


「君も気をつけなさい。挨拶は基本だよ。笑顔が足りない。あと、もうちょっとハキハキしたほうが——」


 今日も始まった。私は、電子レンジに入れた弁当のカウントダウンと、説教の終了を同じくらいの熱量で願っていた。


「君たちはサービス業なんだから、“ありがとう”の気持ちをもっと——」


 ピピピ、と電子レンジが鳴った。その音が、わたしの中のとあるスイッチを押した。


 私は温めた弁当を袋に入れ、深呼吸しーー


「……お客様」


 彼は誇らしげに口を閉じた。それは自分の説教の成果を私に期待する目だった。


「素晴らしいですね。ではまず、今の言葉をご自身に向かって言ったほうがいいと思います」


「……は?」


「こちらが“ありがとうございます”を言っても、あなたは一度も返してくれませんよね。挨拶もせず、笑顔もなく、人を見下すように話す。それで“最近の若者はなっとらん”って……それ、ぜひ鏡見ながら言ってください」


 一瞬の沈黙。老紳士風の男は、口をもごもごと動かしたが、何も言わず商品を受け取って去っていった。


 残されたのは、ほんの少し静かになった空気と、私の心の中の爽快感。


「いらっしゃいませー」


 次のお客様に声をかけながら、私は密かに思った。


 説教より、黙って“ありがとう”って言える人のほうが、よっぽど大人だ。

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