私、あなたの順番抜かしがキライです
昼のピークを少し過ぎたコンビニのレジ前。
私はひと息つく間もなく、次のお客様へ「お待たせしました」と声をかけた。
その瞬間だった。
「おい、これだけだから。先やってくんない?」
スーツ姿のサラリーマンが、列の最後尾を無視してレジの真ん前に立った。手に握っているのは缶コーヒー一本。
その後ろにいたOL風の女性が驚いた顔で彼を見た。
「急いでるんだよ。空気読めよ」
いや、読めてないのはあなただ。
列に並ぶ他のお客様たちの視線が、私に集まる。空気はピリつく。でも、誰も声には出せない。
だから、私が言う。
「お客様、きちんと後ろに並んでいただけますか?」
「は? 一本だけだよ? こっちは仕事中なんだけど」
「こちらのお客様方も、皆さんお仕事の合間に並んでいらっしゃいます。一人だけ特別扱いはできません」
「……ハァ? お前、バイトだろ? 偉そうにすんなよ」
そう来たか。バイトだから、言われたことを黙って聞いてろ、と。
「はい、私はバイトです。でも、ルールは守ります。正しくないことは、誰が言っても従いません。バイトの私ですら守れる事を、お客様は守れないのでしょうか?」
男は一瞬言葉に詰まり、舌打ちをして列の最後尾へと戻っていった。
直後、先頭のOLさんが会計を終えて言った。
「……スカッとしました。ありがとう」
私は小さく微笑んで、頭を下げた。
「ありがとうございます。またお越しくださいませ」
今日は少しだけ、レジが誇らしかった。