私、あなたがキライです
コンビニのレジ前。深夜二時。
カップラーメン、ビール、週刊誌を無言でカゴに放り込む男。くたびれたスーツ、脂ぎった顔、そしてお決まりの——。
「おい、箸入ってねぇぞ」
私は一度も目を合わせず、レジ袋に静かに箸を滑り込ませた。
「申し訳ありません」
このセリフ、もう何十回目だろう。
その男は、毎週金曜日にやってくる。店に入った瞬間から舌打ちをし、レジで小銭をばらまく。
気に入らないと「使えねぇな」と捨て台詞。
あんたみたいな人間、どうやったら育つのか逆に知りたい。
私は今日も、「店員」という仮面を被っていた。だが、ついに限界がきた。
「おい、ポイントつけろって言ってんだろが」
その瞬間、指先が震えた。でも、もう我慢なんかしない。仮面なんか脱いでやる。
「——私、あなたがキライです」
男の手が止まった。
「……は?」
「毎回毎回、人を見下した態度で話して、ありがとうも言えない。箸がないと怒鳴って、袋詰めが遅いと文句を言って、小銭を投げて、間違えたら舌打ち。正直、あなたが店に来るたび、私は地獄に落ちた気分です」
店内が凍りついた。客は私とこの男とサラリーマンのみ。
「……お前、バイトのくせに客に向かって何を——」
「客だからって、何をしても許されると思わないでください。私はここで働いてますけど、モノじゃない。感情があります。人です」
言ってやった。言葉は怖かった。でも、スッと心が軽くなった。
男は唇を引きつらせ、何か言いかけて、それでも何も言えず、商品をつかんで出て行った。
その背中を見送りながら、私は深く息を吐いた。
「いらっしゃいませー」
次の客のドアベルが鳴った。私はいつも通りに声を出す。でももう、何も怖くなかった。