〈9〉無法地帯
ユウマが目覚めたのはベッドの上だった。ユウマは上体を起こし、辺りを見渡した。見たこともない知らない部屋。ユウマは風でなびくカーテンが目に入った。カーテンの舞に誘われたかのようにユウマはベッドから降りてカーテンがなびいている窓に向かった。そして、テラスに出た。
ユウマは息を飲んだ。
ユウマの眼前に見渡す限り、沢山の樹木が見えた。
それは明らかに人の手によって開墾され、植えられた樹木。
木々の間から樹木の世話をしている人の姿も見えた。
ユウマはテラスの手すりに手を置いて見渡す限りの樹木を眺めた。
「おう、少年、お目覚めかね」
樹木の傍で水を上げている男が二階のテラスにいるユウマに声をかけ、手を振った。
男はじょうろを置いて、ユウマのいる屋敷に入っていった。
男は屋敷に入り、ユウマのいる二階の部屋に入ってきた。
「いやぁ、良かった。無事で何より。どうだ、腹空いてないか?」
「いえ、今は」
「遠慮するなよ。ここには食い物も飲み物もなんだってある」
「一体、ここは……」
「ここか? ここはナパの都から遠く離れた無法地帯だ」
「無法地帯?」
「そう。山賊や盗賊が住み、ナパの警官隊から逃げてきた犯罪者が入って来るまさに危険地帯だ」
「危険地帯……」
ユウマは樹木の世話をしている人を見た。
「ここが危険地帯」
「そうだ」
「そうは見えない」
男は笑った。
「この地帯一帯は君をここに連れて来た山賊のボス、オウガ一派の縄張りだ。その縄張りを使ってこうやって樹木を植えている」
ユウマは樹木を見た。
男はユウマと一緒にテラスに手をかけ樹木を眺めながら言った。
「この樹木、なんの樹木かわかるかい?」
「……いえ、わかりません」
「わからない。そうか、わからないか」
「……」
男は微笑み目を輝かせながら言った。
「この樹木は君が盗もうとしたリンゴの樹だよ」
「リンゴの樹? あの聖なるリンゴの?」
「そう」
「御神木の?」
「そう」
ユウマは唖然とした。
「たった一つしかない御神木がこんなにいっぱい……」
男は笑った。
「そうそう。俺の名はディオン、宜しく」ディオンは手を差し出した。
ユウマは差し出された手を見た。
「僕の名前は」
「ユウマ君だね。わかってるよ。私の息子と同い年だ」二人は握手した。
「息子?」
「ルノアに遭わなかったかね?」
「ルノア?」
「ボスと一緒に君を助けた少年だ」
「いえ、ちょっと色々あって、よく覚えてない……」
「そうだね。大変だったね。でも、ここで君を捕えようとする者もいなければ裁こうとする者もいない。ここでは君は自由だ。なんの心配もする必要はない。だから、安心してくれ。私たちはユウマ君の味方だ」
ユウマはディオンの安心と味方という言葉を聞いて、自然と涙が出てきた。ユウマは膝から崩れた。ディオンはユウマを支えた。
「この数日、色々あったね。今は安心して、ゆっくり休んでくれ」
ディオンはユウマを抱いて、ベッドに寝かせた。
ユウマは目を閉じたまま泣いた。
「ゆっくり、気持ちを落ち着かせるといい」
ディオンは静かに部屋を出て、ユウマを一人にした。
ユウマは安心したのか、暫く泣き、そして、また眠りについた。この眠りは初めて安心して眠れた安らぎの眠りだった。