〈8〉遠くへ
オウガは馬をゆっくり歩かせ、都の外れまで来た。
オウガは前に乗って頭を垂れているユウマの体に手をかけ話しかけた。
「おい、俺の後ろに乗れるか?」
「え?」
「ここから馬を走らせる。俺の後ろに乗って俺にしがみつけ」
「はい……」
オウガが先に馬から降りてからユウマを降ろした。そして、オウガが乗って、ユウマを後ろに乗せた。
「しっかり俺に捕まってろ」
ユウマはオウガの腰に手を回した。
オウガはユウマが自分の腰に抱き着いている手を自分のベルト辺りを掴ませた。
「体ごと俺に密着させろ!」
ユウマはオウガの大きな背に体を密着させて腰に回していた手でベルトを握った。
「よし。振り落とされるなよ!」
オウガは馬を手綱で合図し、徐々に走らせ、速度を速めていった。
ユウマは揺れる馬の上で目を瞑り、暫くすると声を殺してまた泣き始めた。
オウガは泣いているユウマに気づくも何も言わず馬を走らせた。
ユウマは自分がどこに連れられて行くのかオウガに聞かなかった。聞く気もなかった。自分自身の手で母を殺してしまった以上、どこへ行こうが、どんな目に遭おうが構いはしなかった。ただ母殺しの罪を背負ってオウガにしがみついていた。
馬にのって激しく揺られていく中、ユウマは眠り落ちた。オウガは腰に回ったユウマの腕に力がなくなるのを感じ、黙ったまま片手でユウマの腕を掴み抑えた。
いくつもの山や谷を越えて、道なき道を走った。
オウガの乗る馬がとある谷に入ろうとすると山賊の男が二人、オウガの前に現れた。二人の男はオウガに近づいた。
「ボス、お帰りなさい」
「変わりはないか?」
「何もありゃしませんよ」
「その小僧がディオン様が連れて来いといった奴ですね」
「ああ」
「寝てやがる」
「よっぽどボスの背中が寝心地が良かったんじゃないのか」山賊の男は笑った。
「坊ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「ルノアは後からくる」
「どうでしたか、都は?」
「遊びに行ったんじゃないんだ。わかんねぇよ。だが、何も変わっちゃいないな。いつものことだ」オウガは意味ありげに言った。
「さて、この小僧をディオンの元に届けるか。見張り、しっかり頼むぞ」
「わかってまさぁ」
オウガはユウマを後ろに乗せてゆっくり谷の奥に入って行った。