〈6〉執政十家
執政十家の当主一同が執政十家の長たるオクタル家の会議室に集まっていた。
執政十家とは、御神木であるリンゴの樹をナパ国にもたらし、ナパ国を治めた祖先の十人の子供のことをいい、祖先はその十人の子供に御神木に実る十個のリンゴを権力の証しとして分け与えた。その分け与えられた十人の子供が執政十家として今もなおこの国を治めていた。
祖先の十人の子供の長男であったオクタルがその後、執政十家の長、オクタル家として他の兄弟である九家をまとめていた。
他の九家とはガリム、ヴァノン、シャダム、ハーチェク、サマロ、ルダ、ハザム、アルゴ、トリアの九家である。
この十家で合議し、採決をとり、ナパ国の全てを取り仕切っていた。
しかし今、会議室にはオクタル家を含めて九家しか集まっていない。ハーチェク家の当主は合議に参加していない。ハーチェク家は二十年前、当時のハーチェク家の当主が「ナパ国の大事を執政十家のみで議決するのはおかしい」と異を唱え、自ら執政十家から離脱したのだ。
ハーチェク家が離脱しても毎年、御神木には十個のリンゴが実る。
聖なるリンゴは権力の証しとしてそれを持つ者が執政者の一員としてナパ国を治める。
そこでオクタル家の当主はハーチェク家を不在のまま残した。
物事を多数決で決めるのなら基本、奇数、九家の方が望ましい。
ハーチェク家が抜ける前までは十家で多数決をし、同数による採用や不採用が曖昧だった。事あるごとにオクタル家とハーチェク家は言い争っていた。
しかし、ハーチェク家が抜けて多数決で物事が必ず決まるようになった。
そこに私腹を肥やす隙が生まれた。
上級身分の者が罪を犯し、九家で五対四で有罪と決まっても、オクタル家は不在のハーチェク家の一票を入れて五対五の同数にして無罪にし、恩を売った。上級身分は感謝の意として金銀財宝を執政十家に収めるようになった。
ハーチェク家の一票はハーチェク家が抜けてから、上級身分には都合の良いように。下級身分や政治犯には都合が悪くなるように利用された。
こうして執政十家はハーチェク家が抜けてから、ますます私腹を肥やすようになっていった。
そして、今もまたハーチェク家の一票は都合の良いように利用されようとしていた。
「聖なるリンゴは何人たりと汚してはならない! 下級身分の小僧が盗もうが許されることではない」
「しかし、子供だ。子供を裁いたとあっては心証が悪い」
「内部通報で未然に防げたのだから温情を持って裁くのが宜しいかと」
「たとえ、子供でもあり得ない。これを許しては示しがつかない」
九家の当主の議論を目を瞑り黙って聞いていたオクタル家当主ワイズは目を開けた。
「なら、多数決で決めよう。死刑に賛成の者は」
五人が手を挙げた。
「死刑以外の者は」
四人が手を挙げた。
「五対四か」ワイズが言った。
ガリム家の当主ケイタが立ち上がって言った。ケイタは死刑以外の者に手を挙げた一人。
「ユウマは悪い子じゃない。下級身分かもしれないが真面目に良く働く。それに母親想いだ。母親を亡くしただけでもう十分裁きは受けている。これ以上裁く必要がどこにある!」
「それでも聖なるリンゴを盗もうとした不届きものだ」
「聖なるリンゴは我ら統治者にとって最重要事項だ。それを盗み、食そうとするなんてありえない!」
ガリムの訴えに死刑に賛成したものが激しく反論した。
ケイタはワイズに言った。
「ハーチェクの票がある。それを死刑以外に入れて、五対五の無罪にすればいい」
腕を組んでいたワイズが言った。
「いや、今回はハーチェクは投票放棄だ」
「子供を死刑になさるんですか!」
「諸々、勘案して、十対零でもおかしくない。それを五対四という僅差だったということで我々の温情は伝わる」
「五対四でも死刑に変わりはない!」ケイタは言った。
「今回はそれでいいだろう。これがいい教訓にもなる。もう二度と盗もうと思う者もおるまい」
「大体ケイタは自分の農民から盗人が出たことを、もっと重く受け止めるべきだ!」死刑に投じたシャダム家の当主が言った。
ケイタは何も言わず、ただただ頭をふった。
こうしてユウマの死刑は決まった。
執政十家は五対四という裁きに温情があると流布させた。