〈5〉毒リンゴ
ユウマは警官隊に連れられ、地下の留置所に留置された。
ユウマは嗚咽し、涙と鼻水を垂らし続けた。
留置所にはもう一人の男が留置されていた。
男はユウマの嗚咽が気になった。男は見回りをしに地下に降りてきた看守に声をかけた。
「看守さん。ちょっと」
「なんだ?」
「あの少年は何をやらかしたんだい?」
「ん、あいつか。あいつはヴァノン家から聖なるリンゴを盗んだんだ」
「リンゴを盗んだ⁉ それであんなに泣いてるのか?」
「そのリンゴを食べて、母親が死んだんだとさ。だから泣いてるんだろ」
「リンゴを食べると死ぬのか?」
「さぁな。バチでもあたったんじゃないか」
看守は面倒くさそうに答えて、また階段を上がっていった。
「そうか。リンゴは食べると死ぬのか……」
男はユウマを見た。同情の眼差しで見た。
翌朝、レナトはユウマが起こした騒動を聞き、グレコに会いに行ったが家にはいなかった。
グレコはガリム家の荘園の外でキイチと合っていた。キイチは腰をかがめ低姿勢になっていた。
「よくやってくれた。あんなに上手くいくとは思ってもいなかった。予想以上だ」グレコはそういいながらキイチに一枚の金貨を渡した。
「ありがとうございます」キイチはさらに低姿勢になりお辞儀をした。
「また何かあったら、頼むぞ」
「はい。お坊ちゃまのためなら何でも致します」キイチは終始ペコペコした。年が三十以上離れた子供に。
「グレコ!」レナトがグレコを見つけ、呼んだ。
グレコは駆け寄ってくるレナトを見た。
キイチは気を利かせてグレコに深々とお辞儀をして去って行った。
レナトはグレコの傍まで来て言った。
「ユウマのこと聞いたぞ」
「耳が早いな」
「ユウマが聖なるリンゴを盗ませるように仕組んだのはお前か?」
グレコは何も言わず微笑んだ。
「なら、ユウマの母親が死んだのはなぜだ? 聖なるリンゴを食べるとバチが当たって死ぬのか?」
グレコは大笑いした。
「グレコ!」
「死にやしない。そもそもあれは聖なるリンゴじゃない」
「どういうことだ⁉」
「あれは他の果実を聖なるリンゴに見せかけたただの偽物だ」
「偽物?」
「そう。ユウマがヴァンノ家にリンゴを盗みに来るよう仕向け、それに引っかかっただけだ」
「じゃぁ、どうして母親が死ぬんだ」
グレコは微笑んでから言った。
「その偽リンゴにたっぷり毒を仕込んだのさ」
「毒?」
「そう。ユウマの母親はリンゴに見せかけた毒リンゴを食べて死んだのさ」
「グレコ、お前⁉」
「いいじゃないか。これで聖なるリンゴを食べるとバチが当たって死ぬことが広まるんだ。聖なるリンゴを盗もうとする者はいなくなる。それにエリスはもうユウマどころではない。いくらユウマがガリム家の農民であってもエリスは庇いきれない。お前の恋路を邪魔する者は消えたんだ。これぞ一石二鳥じゃないか」グレコは笑った。
「ユウマはどうなるのかな?」
「それは執政十家が決めることだ。兎に角、邪魔者は消えた。良かったなレナト」
グレコはレナトの肩を叩いて去って行った。
レナトは去っていくグレコの後ろ姿を見た。




