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〈4〉惨劇の夜

ユウマが家に着くと、母、レイアの咳をする声が外まで聞こえた。

ユウマはすぐさまレイアの傍に行った。

「母さん、大丈夫」

「咳が止まらなくて、起こしちゃってゴメンね」

「そんなことないよ。今、水持ってくるから」

ユウマは流しの水壺に水を取りにいき、水を持ってレイアの傍に行った。

「母さん、飲んで。落ち着くから」

「ゴメンね」

「いいよ」

レイアは咳が少し落ち着いたときに水を飲んだ。そして呼吸を整えた。

ユウマはリンゴを思い出した。

「そうだ! 母さん。良いものが手に入ったんだよ!」

「良いもの?」

「そう。それを食べれば病気が治るんだ! また昔のように元気になれるんだ!」

「そんなもの、どうやって手に入れたんだい?」

「譲ってもらったんだ。母さんの病気が治るって! 今持ってくるよ」

ユウマは布袋をもって流しに向かった。布袋から赤々と光沢の放つリンゴを取り出した。

ユウマはリンゴを使い込んだまな板の上に置いた。そして包丁を手に取り、深呼吸した。

「これで母さんの病気が治るんだ」

ユウマは意を決してリンゴに包丁を入れた。二等分にした。そして更に食べやすいように二等分にしたものを二等分にし四等分にした。それでも少し大きいと思い、包丁を入れて八頭分の大きさにした。

八頭分にしたリンゴを皿に乗せた。

「よし!」

ユウマはリンゴの乗った皿を持ってレイアの傍に行った。

「母さん。これ食べて。これ食べて寝たら、明日の朝、きっと治ってるから」

「いいのかい。私が食べても」

「いいよ。そのために譲ってもらったんだ。母さん食べてよ」

「こんなに多くは食べられないから、ユウマもお食べ」

「僕はいいよ。これは母さんに食べて欲しいから。少しでもいいから食べて。きっと病気が治るから!」

ユウマは目を輝かせながらレイアに勧めた。レイアもユウマの顔を見て微笑んだ。

「じゃぁ、一つ、頂くよ」

「うん」

レイアはユウマの視線に少し微笑んた。

「そんなに見られたら食べにくいわ」

「じゃぁ、後ろ向いてるから食べて」

ユウマはレイアに背を向けた。

レイアは皿にのっている八等分された果実を食べた。

「食べた?」

ユウマが聞いた。返事が返ってこなかった。

「食べた?」

返事が返ってこなかった。ユウマはレイアの方をゆっくりと振り返った。

するとレイアは胸を押さえ声も出せず布団の上で悶絶していた。

「母さん!」

ユウマは動揺し、咄嗟にレイアの背中に手をあてた。

レイアは片手で胸を押さえ、もう片方の手で布団を握りしめていた。

レイアの口から大量の血が吐き出された。

「母さん!」

ユウマは激しく動揺した。頭が真っ白になった。

「ああああ、母さん!」

レイアは苦痛に顔を歪めながらユウマを見た。

「ユウマ!」

断末魔の叫びだった。

レイアはそのまま布団の上に倒れた。

「母さん!」

レイアは口から血を流し、白目を向いたまま、ピクリとも動かなかった。

「母さん! 母さん!」

ユウマは母を抱き起した。

レイアは動かない。

ユウマは涙を流しながら母の口から流れ出る血で身体を赤く染めていった。

「お母さん!」

ユウマは叫んだ!

するとその声を聞いて、警官隊が踏み込んできた。

「お前だな、ヴァノン家の聖なるリンゴを盗んだのは!」

警官隊の言葉はユウマには聞こえなかった。ユウマは泣きながら動かぬ母をただただ抱きしめた。

「こいつをひっ捕らえろ!」

警官隊のリーダーがいうと二人の警官がユウマをレイアから引き裂こうとした。

ユウマは母を離すまいと抵抗するも警官二人にあっけなく引き離された。

「お母さん! お母さん!」

ユウマは泣きながら二人の警官に脇を掴まれ引っ立てられながら叫んだ。

ユウマは振り返った時、レイアが見えた。

ユウマから引き離されたレイアは体をくの字のまま口から血を流していた。

ユウマは「お母さん!」と泣き続けながら叫び、警官隊に連行された。

絶命したレイアはくの字のまま放置され、やがて静寂に包まれた。

こうして惨劇の夜は終わった。



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