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〈16〉画策

ワイズは執政十家の当主が集まる中、言った。

「権力の証しである聖なるリンゴが失われた今、新たに権力の証したるものを作らなければならない」

「新たな権力の証し?」

「そうだ。それを持つ者が権力者であることを万人に知らしめ、根付かせるのだ。言葉だけではダメだ。言葉は歪む。歪めば権力は失われる。権力の証しとして歪まぬ象徴が必要なのだ」

「象徴」

「聖なるリンゴに変わる権力の象徴か……」

「何をもって権力の証しとする?」

「考えはあるのか?」

「ある」

「なんだ?」

「黄金のリンゴ」

「黄金のリンゴ?」

「そう。純金で出来た黄金のリンゴ。それなら聖なるリンゴに勝るとも劣らない。それに黄金のリンゴは腐らない。未来永劫、光輝く。それを持つ者が未来永劫、ナパを支配する」

「黄金のリンゴか。悪くないな」

「まず、黄金のリンゴを十個作る。そして、来年、聖なるリンゴが実らないのを証明した暁に、聖なるリンゴの生まれ変わりとして黄金のリンゴを民衆の前でお披露目する。そして、執政十家が黄金のリンゴを授かりこれからもナパの執政者であることを宣言する」

「なんだ。筋書きまで出来ているのか」

「それでいいんじゃないか」


グレコの仲間たちが集う一室でグレコの右腕のレングがグレコに尋ねた。

「グレコ、あいつは本当にリンゴを蘇らせることが出来るのか? お前はそれを信じているのか?」

「正直、信じてはいない」

「なら」

「時間稼ぎだ」

「時間稼ぎ?」

「そう。政治犯は力づくで執政十家を倒し権力を奪おうとするが、みな、捕まりドラグラード島送りだ。力づくでは執政十家からこのナパの権力を乗っ取ることは出来ない。権力を乗っ取ることが出来るのは権力の証したる聖なるリンゴしか他ならない」

「だが、奴を信用してないのだろう」

「偽リンゴを作る」

「偽リンゴ?」

「そう。あいつらが聖なるリンゴを実らすことが出来なくてもいい。偽リンゴを実らせることが出来れば」

「偽リンゴか。偽リンゴはお前の得意分野だったもんな」

「だが今のままではダメだ」

「今のままではダメ?」

「そう。御神木が人の目に晒されている状態は良くない。それでは作為することが出来ない。それでお前たちに頼みがある」

グレコはレングと仲間たちを近づけて、話し始めた。


その夜、御神木でボヤ騒ぎが起こった。

御神木の一部の枝が燃えたのだ。

すぐ鎮火されたが御神木を燃やそうとした不届き者を捕らえることは出来なかった。

そのボヤは政治犯がやったとも言われていたが、十家がやったのではという噂もグレコは仲間に流布させた。

言われのない中傷。


レングは執政十家のワイズと面会し、申し出た。

「御神木を蘇らせるようとしている今、御神木を亡きものにしようとする不届き者がおります。このような邪魔が入っては蘇らせることも出来ません。聖なるリンゴの収穫祭まで、御神木を私たちに守らせていただきたい。その許可をいただきたい」

ワイズは二つ返事で答えた。ワイズの頭に御神木はなかった。

こうして許可を得たレングはグレコの指示のもと、御神木の周りを布状のカバーで覆って誰の目につかないようにした。

「これで当日、実らなくとも偽リンゴを実らせることが出来る」グレコは言った。


御神木の土を栄養価の高い土に入れ替えていたユウマ、ルノア、カナタの三人。

ルノアは言った。

「いっそ見えなくなったんだったら、御神木ごと入れ替えたらどうだ?」

「それじゃ、執政十家が喜ぶだけだぞ」カナタが答えた。

「喜ぶようなことをしているだろ」

「蘇っても二年が限度。その先は何が起こるかわからない」

「そう。まずはユウマの命を守るためにも、実ってもらわなくては困る。僕たちはまずそれだけを考えればいい」

「ありがとう」ユウマは言った。



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