〈14〉一週間前
ユウマがレングとグレコにあったのは宣言の日の一週間前のことだった。
ユウマはルノアとカナタの三人で都に来ていた。ここに来る前、三人はディオンとオウガに呼び出せれた。
「ハイメの予言通り、聖なるリンゴが実らなかった。もしかしたら国が乱れるかもしれない」ディオンが切り出した。
「そうだな。反執政十家も存在するからな」オウガが言った。
「それもあるが執政十家内でも執政十家の長たるオクタル家が中心になっていることを面白くないと思っている十家もいる」
「内部分裂か? お前みたいに」オウガがディオンに微笑んだ。
「私は執政十家が権力を独占し続けていることを嫌っただけだ」
「でも、こうやって出て来ただろ」
「十家のみが権力を握り続けていることに不満を持つ者がいるというのは確かなことだ。上級身分だって表向きは十家に付き従っているが本音はいつか十家に変わってこのナパを支配したいと思っている者はいる」
「そうだな。お前と一緒にここへ来たイルマたちも上級身分だったな。でも、いいんじゃないか、国が荒れた方が俺たちには生きやすいぞ」
「それでは他国に攻め込まれる。ナパ国自体が失われる。そうなっていないのは良くも悪くも執政十家が権力を握り、支配しているから分裂することなく国としての形を成している」
「でも、お前は執政十家の支配を終わらせたいのだろう」
「そうだ。何かを変えるには変化が必要だ。十家をいきなり排除することは出来ない。でも、なんとか十家の支配に他の者が加わることが出来れば変化を起こすこと出来る。そこでユウマ。その任をお前に託したい」
「僕が」
「そう。お前はここで多くを学んだ。リンゴの樹のことも、戦い方も全てを学んだ。都にいってどう動けば国が分裂することなく執政十家の支配に潜り込むことが出来るか、お前ならそれが出来る」
「俺じゃダメなんですか!」ルノアが言った。
「お前じゃダメだ」
「なんで!」
「お前は独りよがりな面がある。それにこの任務には我慢するということも必要になるだろう。ユウマは立場をわきまえることが出来る。引くところは引くし、それに物事を俯瞰してみることが出来る」
「そんなの俺だって出来ます!」ルノアは食い下がった。
「ユウマが適任と思った最大の理由はユウマは下級身分の、しかも執政十家の奴隷の子だからだ。お前は離脱したとはいえ俺の息子だ。執政十家の血をひいている。この任務に関しては執政十家と関わりのない人間が矢面に立つ必要があるんだ」
「ならユウマ一人に任せるのですか」
「お前とカナタにはユウマをサポートしてもらいたい」
「ユウマの手足になれと……」
「そんなことで不貞腐れてるようじゃ、やはりお前は適任じゃないな。都ではここのようにはいかない。俺たちを助けてくれる者もいない。我慢が必要なんだ」
ルノアは無言だった。
「カナタ。ユウマと一緒に都に行って、ユウマを助けてくれるか?」
「はい。陰ながらユウマの力になりたいと思っています」
「では、ユウマ、ルノア、カナタ、都にいってくれ。そして、ユウマ、ナパが分裂しないようにうまい具合に立ちまわってくれ」
「わかりました」
「三人とも頼んだぞ」
ユウマとカナタは「はい」と答えるもルノアは不貞腐れて返事はしなかった。
ユウマとルノアとカナタは部屋から出た。オウガがディオンに呟いた。
「カナタを入れたのはいい人選だったな。自己主張が強いルノアと我慢が利くユウマの二人だけではルノアが自分の感情に任せて、先走っても可笑しくないからな」
「カナタは二人のバランスをとってくれる」
都に来たユウマとルノアとカナタの三人はグレコという上級身分が御神木であるリンゴの樹に詳しいものを探しているという情報を手に入れた。
「リンゴの樹に詳しい者を探してどうするつもりだ?」ルノアが言った。
「どうするつもりかはわからない。けど自分たちが御神木に近づくには、これを利用する手はないと思う」
「渡りに船ですか」
「そうだね」
「渡りに船って、そのグレコって奴は何でリンゴの樹に詳しい人間を探しているのかわからないんだろ。一体どこに連れてかれるか……」
「それでも、御神木に近づくことが出来る」
「近づいてどうする?」
「グレコって奴の言うことを聞く。僕たちには都では誰も頼れる人はいない。人に従えるのなら人に従って近づいていくしかない」
「なるほど。お前が適任だというのはそういうことか」ルノアは言った。
「兎に角、僕がグレコに名乗り出る。そして、グレコに従う」
「じゃぁ、私たちは」
「見守ってくれればいい」
「必要になったら呼んでください。僕はユウマの傍にいますから」
「ありがとう」
「そうだな。逃げ道だけは準備しておくから、そのグレコって奴に思う存分従ってくれ」
「わかった」ユウマは微笑んだ。
こうしてユウマは名乗り出て、レングとグレコにあった。
ユウマは我が身を二人に預けた。




