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〈13〉御神木を蘇らせる者

執政十家の当主たちが執政十家の長たるオクタル家に集まっていた。集まった当主たちはこれからのことについて動揺している者もいた。

「ハイメの予言通り、御神木は聖なるリンゴを実らせることが出来なかった!」

「聖なるリンゴが実らなかった今、執政十家がナパを支配することに疑念を持つ者も少なくない。どうする?」

オクタル家の当主ワイズがその動揺をかき消すかのように言った。

「どうもしない。このまま我々が支配し続ければいい」

「でも」

「口上はいくらでもある。それを聖域で民衆の前で宣言すればいい。それで万事、うまくいく」

聖域とは御神木のある広場である。

「我々がこのまま執政十家として支配し続けることが出来るのですか?」

「ああ。これは好機。我々にとって願ってもないチャンス」

「チャンス?」

「御神木はもう老木だ。いつ聖なるリンゴが実らなくなってもおかしくない。そんなことに一喜一憂せず、聖なるリンゴがなくとも我々、執政十家が未来永劫、ナパを支配し続ける絶好のチャンス。民衆の前で宣言するだけでいいんだからな」

オクタル家に集まった執政十家の当主たちは顔を見合わせた。

「うまくやる。そう心配するな」オクタル家当主、ワイズが言った。


それから一週間後、執政十家は御神木のある広場、聖域に民衆を集めた。聖域には上級身分、下級身分が大勢集まった。

御神木の前に執政十家の当主たちが並び、その中央にオクタル家当主ワイズがいた。ワイズは眼前に集う民衆の前で宣言した。

「御神木はナパ国の行く末を見届けた。執政十家の統治に安堵し、御神木はその役目を終えたのだ。これからは権力の証しとされる聖なるリンゴの力を借りることなく、執政十家がこれからもナパ国を統治することをここに宣言する」

聖域に集まったほとんどの民衆、特に聖域の奥の方にいる下級身分は静かにワイズの言葉を受け止めた。ざわついたのは前列に陣取る上級身分の一部だった。

「確かに今年、聖なるリンゴは実らなかった。こんなことは初めてだ。だが、もし、来年、御神木が聖なるリンゴを実らせたらどうなるのですか?」上級身分の一人がワイズに向かって発言した。

執政十家の当主たちは顔を見合わせるも、オクタル家当主ワイズは堂々としていた。

「御神木からはもう聖なるリンゴは実らない。なぜなら、御神木は我ら執政十家に権力を委譲したからだ。もう聖なるリンゴの役目は終わったのだ」

「それでも、もし実ったら」

「実ることはない」

「御神木は権力を委譲したのではなく、病にかかって聖なるリンゴを実らせなかったということはありませんか?」グレコの隣にいたレングが言った。

「それはないな」ワイズは軽くあしらった。

「私は御神木を蘇らすことが出来るという人間を見つけました。その者に一年、御神木を管理させ、御神木が本当に執政十家に権力を委譲して役目を終えたのか、ぜひ確かめたい。いかがですか? その結果をもって御神木が執政十家に権力を委譲したのを証明するというのはどうでしょう?」

レングの発言を聞いた執政十家たちは顔を見合わせた。だが、ワイズは冷静だった。

「疑り深いのだな」

「聖なるリンゴは権力の証し。全ての始まりは十個のリンゴです。その十個のリンゴをもって今まで執政十家がナパ国を統治してきたのです。聖なるリンゴが権力の証しだからナパ国の民衆は従ってきたのです。御神木が役目を終えたなど中々信じられるものではありません」

聖域に集まる民衆はざわめきだった。

「確かに証明は必要だ」と口々にいう者もいた。

ワイズは少し考えた。

「いいだろう。御神木を蘇らせることが出来るという人間に御神木を管理することを許可しよう」

「ワイズ!」執政十家の当主が小声でワイズの許可に驚いたように言った。

ワイズはその言葉に耳を貸すこともなく言った。

「御神木を蘇らせることが出来るという人間はここにいるのか?」

レングはグレコと顔を見合わせて、後ろにいた人物を前に出した。レングとグレコの傍にいる上級身分たちは頭からフードを被り前に出された人物に注目した。レングは前に出された人物が被っていたフードを取った。顔が現れた。グレコの近くにいたレナトとエリスはその人物を見て驚いた。現れたのは三年前、リンゴ泥棒の罪で捕まり脱走し行方不明になったと聞いていたユウマだった。三年が経ちみんな大人になっていたがすぐわかった。

「ユウマ⁉」エリスは小声で呟いた。

「この者が御神木を蘇らせることが出来ると言っている者です」レングが言った。

「御神木を蘇らせること出来るのだな」

「そう言っています」

「では、蘇らなかったらどうなる?」

「ワイズ様がおっしゃったように御神木は執政十家に権力を委譲し、その役目を終えたことをナパ国の民衆は認めるでしょう」

「なるほど」

ワイズはユウマを見た。

「なら、蘇らせることが出来ると大言壮語を吐いた者はどうなる?」

「煮るなり焼くなり好きにしてください。その覚悟で名乗り出てきたのですから」

「なら、その者が聖なるリンゴを実らすことが出来なかったら、御神木が執政十家に権力を委譲した証しとして、まず初めにその者を死刑にする。それでも構わぬのか?」

「お好きなように」

「よかろう」ワイズは微笑んだ。

レングは横目でグレコを見た。グレコの口元に微笑を湛え「よくやった」と目で合図した。

ユウマはワイズとレングのやりとりを動揺することなく、まるで他人事のように傍にいて、執政十家が並ぶ後ろにある御神木を見ていた。

ただならぬ思いを胸に秘め……。



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