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〈11〉強くなる

「起きろ! ユウマ!」

ユウマは体を揺すられ、寝ぼけ眼でディオンの顔を見た。

「ディオンさん」

「もう、みんな働いてるぞ」

ユウマは体を起こした。

「ここを紹介するよ」

ユウマはベッドから降りた。

「その前に、まずは朝飯だ」

「ああ、いえ、ご飯はいいです。なんかお腹いっぱいで食べたいと思わない」

「そうか。じゃぁ行くか」

ユウマは服を着た。


ユウマはディオンの後に続いて屋敷を出ると陽の光が眩しかった。

「この屋敷の前の果実園は第一果実園だ。これぐらいの規模の果実園が全部で五つある。そのうちの2つがリンゴ。あとの三つはブドウやオレンジ、農作物と多岐にわたって栽培している。ナパでいうと荘園になるのかな。勿論、ナパの荘園のように下級身分が働いてるわけではない。ここでは上級身分も下級身分もない。みな平等だ」

ユウマは働いている男たち、女たちを見た。

「ここで働いているのは山賊?」

「そうだな。山賊もいるし、ここに逃げ込んできた犯罪者もいれば下級民族もいる。私だって、ある意味、ここに逃げ込んできたようなものだ」

「ディオンさんが」

「この一帯はボスの縄張りだからね。もっとも私が来るまでは、こんな果実園は存在しなかった」

「一つ、どうしても聞きたいことがあるんですが……」

「なんだね」

「どうして僕を助けたんですか?」

ディオンは微笑を浮かべた。

「僕はどうして助けられたのか分からなくて……」

「それは、ハーチェクの投票放棄で君が死刑になったのでは寝覚めが悪いからね」

「ハーチェク? ハーチェクってあの執政十家の」

「そう。私はもとはハーチェクの者だ」

「そうなんですか⁉ あの執政十家の!」

「ユウマが知ってるかどうかわからないが、ハーチェクは執政十家がやりたい放題にナパを支配し続けることを嫌い、二十年前、私が当主になったときに離脱したんだ。私は当主になる前、父に言われて外国でリンゴについて学びに行かされた。御神木といわれる聖なるリンゴが権力の証しならその証しを覆すことは出来ないかと。そして私が外国でリンゴを学び、当主になるため戻ってきた。父の遺言を果たすべく執政十家を離脱し、御神木から十家に与えられる聖なるリンゴを持ってこの地にやってきたんだ。そしてボスと出会った。ボスは快く縄張りにしている無法地帯一帯を好きなように使ってくれと言ってくれた。手下も貸してくれた。ここのリンゴの樹は全て御神木の聖なるリンゴから作られている。言ってもわからないと思うが接ぎ木をして増やしていき、こんなに沢山のリンゴ畑が出来た」

「ユウマ、ディオンは怖いぞ」

ユウマとディオンの背後からオウガが手下二人を引き連れて馬に乗って現れた。ユウマとディオンはオウガを見た。オウガと手下は背中に弓矢を携えていた。

「山賊や盗賊も恐ろしいが、ディオンはもっと恐ろしいぞ」

「ディオンさんが?」

「山賊は金品を奪う。しかし、ディオンはナパを奪おうとしている」

「奪おうとはしてないよ」

「執政十家から奪おうとしてるだろ」

「奪うのではない。解放したいだけだ」

「解放?」

「だが、私じゃダメだ。私がやってもダメなんだ」

「どうしてですか?」

「私は離脱を宣言したとはいえ、執政十家の一家、ハーチェクの人間だ」

「だが、その十家からナパを解放するという心意気が気に入って、俺は縄張りの全てを渡したんだ。そしたら見ろ。ナパの都にたった一つしかない御神木がこんなにある」オウガは笑った。

「ナパの人は誰も知らないんですか?」

「ユウマは知っていたかい?」

「知りません」

「だろう。ここ一帯はオウガ一派が支配する危険地帯だ」

「そういうことだ」オウガは笑った。

オウガは手下二人を連れて去って行った。

「ユウマはここで私からリンゴのことを学び、そして、ボスから戦いの術を学ぶ」

「戦いの術?」

「そう。執政十家からナパを解放するということはあらゆる面で戦うということだ。ボスから武術を学び強くなるんだ」

「強くなる……」

「そうだ、強くなるんだ」

ユウマは自分の両手の平を見た。

「強くなる」

ユウマは手を握った。


それから三年の時が過ぎた。

予言者ハイメは言った。

「聖なる樹は朽ち果て、果実は実ることなく、つぼみのまま地に落ちるだろう」

その不吉な予言はナパ国全土に広まっていた……。

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