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〈10〉運命の子

ユウマは窓から聞こえてきた人声で目を醒ました。

部屋は暗く、夜になっていた。

ユウマは人声が聞こえてくる窓の方に行こうとしたとき、ドアが開いた。

「なんだ、起きてたのか」

ドアを開けたのはルノアだった。ユウマはルノアを見た。

「晩餐の支度が出来たから下に降りて来い」

ルノアはそういって一階に戻っていった。

ユウマもルノアの後に続くように部屋を出て一階に降りて行った。

一階の屋敷の台所から料理をもって外に出て行く女たちの姿があった。

「お腹空いてるだろ。ごちそうたっぷり作ったから。今日は宴会だよ」

ユウマに声をかけてきたのはチグサという四十代の女だった。チグサは料理をもって外に出た。外には沢山の机と椅子が並んでいて、宴会場になっていた。チグサは料理を持ってくる女たちに料理の置き場を指示した。

男たちも樽を足で転がしながら持ってきた。それを見たチグサが怒った。

「足で蹴るんじゃないよ!」

「へい」注意された男は苦笑した。

「さあ、ユウマ君はそこのテーブルの真ん中に座って。なんせ主賓なんだから」

チグサは微笑みながら言った。

ユウマはチグサに言われるままにテーブルの真ん中の椅子に座った。目の前には美味しそうな肉料理や魚料理、見たこともない食べ物がいっぱい並んでいた。

宴会の支度も終わり始めた頃、樹木園で働いていた男や女たちも続々と宴会場にやってきた。

「さぁ、みんな、席についておくれ」

チグサが言った。

働いていた男や女たちは、料理を見て「こりゃ、御馳走だ!」など、声を上げて席に座り始めた。

ユウマは肩に手を置かれた。

「今日はユウマ君の歓迎会だ」ディオンはそういうとユウマの隣に座り、オウガも反対側のユウマの隣に座った。ユウマの前にルノアが座った。

「チグサ、もういいのか?」準備をしているチグサにオウガが言った。

「あと飲み物だけ」

オウガは席に座っている男と女たちに向かって言った。

「今日は宴会だ! 酒が飲みたい奴は自分で好きな酒を取ってこい!」

「ユウマ君も飲むかい?」ディオンが聞いた。

「いえ、僕は」

「じゃぁ、リンゴジュースでも飲むかい?」

「リンゴジュース? あの聖なるリンゴ?」

「聖なるリンゴか。あんなもん食えたもんじゃない」オウガが笑った。

「ここで取れるリンゴは全て品種改良して美味しく食べられるリンゴなんだ」

「品種改良?」

「そんなこと言ってもわからないよ」ルノアが言った。

「おいおい分かればいい」

チグサが酒を二つ持ってきて、ディオンとオウガの前に置いた。

「母さん、僕のは?」ルノアが言った。

「ルノアはダメ」

「どうして⁉」

「こないだ酔って喧嘩したの、誰だい?」

「みんな、酔って喧嘩してるじゃないか!」

「今日はダメよ。きっと酔ってユウマ君に悪絡みするわ」

「そんなことしないよ」

「今日はダメ。リンゴジュースかオレンジジュースにしなさい」

「じゃぁ、オレンジ」

「じゃぁ、ユウマ君もオレンジにする?」

「両方、持ってきてくれ。両方飲んで好きなのを飲めばいい」ディオンが言った。

「わかった」チグサは飲み物を取りに行った。


屋敷の前に作られた宴会場に三十人ぐらいが御馳走が並ぶ机の前に雑談しながら座っていた。

チグサはルノアの隣に座った。

「チグサ、もういいのか?」オウガが言った。

「ああ、もう始めとくれ」

オウガは立ち上がって手を二回叩いた。一同、黙り、オウガを見た。

「みんな、準備はいいか?」

「おう!」みんな、答えた。

「乾杯の前にディオンから一言ある」そういってオウガはディオンを見た。

「みんな、いつもありがとう。今日はみんなに紹介したい人がいる。私の隣にいるユウマ君だ。執政十家から理不尽な裁きを受け、ボスとルノアが助けた。みんなの力が欲しい。どうかユウマ君の味方になって欲しい。ファミリーとして支えて欲しい」

オウガがユウマの脇に腕を入れた立たせ、ユウマの後頭部に手をあてお辞儀をさせた。

ディオンもみんなに向かってお辞儀をした。

「わかった!」

「俺たちはファミリーだ!」

「今日からユウマは俺たちのファミリーだ!」みんなの歓声がなった。

「ありがとう、みんな!」ディオンが言った。

「よしみんな! 俺たちの新しいファミリーに乾杯だ! みんな杯を持て」オウガは杯を手に取った。ディオンも手に持った。

みんなも杯を持って立ち上がった。

ユウマの斜め前にいるチグサも立ち上がり、ユウマにリンゴジュースの入ったコップを渡した。

オウガは杯をあげて言った。

「乾杯!」

「乾杯!」

みんなも杯をあげて答えた。

ユウマもコップを上げてから、リンゴジュースを飲んだ。

「美味しい」

「美味しいか」

「それ、なんだかわかる」チグサが言った。

「わからない。初めて飲んだ」

「それがリンゴジュースよ」

「沢山あるから一杯飲んでくれ」ディオンが言った。

「料理も食べて」

「チグサの料理は旨いぞ。なぁ、ルノア」オウガが言った。

ルノアは答えず、肉をほお張った。

ユウマは肉をほお張るルノアを見て、生唾を飲んだ。

「ユウマ君も遠慮せず食べなさい」ディオンが言った。

ユウマはルノアが食べている肉料理に手を出して食べた。

「……旨い」

空腹のユウマの胃が刺激を受けたのか、ユウマは積極的に料理を食べ始めた。腹が空いていたのか、料理が旨いのか次第にがっつくように食べ出した。

その姿を見たチグサがディオンを見た。ディオンは微笑んでいた。

ユウマが一つの皿を指さして尋ねた。

「これ、なんです?」

「それはアップルパイだ」

「アップルパイ?」

「リンゴを使った料理だ」

「リンゴ?」

「私が外国にいたときに食べた料理だ。それをチグサに作り方を教えたんだ。チグサのアップルパイは最高だ」

「リンゴを食べたら病気が治るっていう噂は?」

「ただの噂さ。リンゴを食べている世界もある。もっともここで採れるリンゴより美味しいリンゴはないと思うけどな」

ユウマは意気消沈した。

「病気は治らないんだ……」

オウガがアップルパイを一切れつかみ言った。

「これで病気が治るのなら医者いらずだ」オウガは一口でほお張った。

「でも、栄養は取れるわ」チグサが言った。

「それに旨い」ディオンがアップルパイを一切れ、小皿にとってユウマの前に置いた。

ユウマは目の前に置かれたアップルパイを見た。

これで母の病気が治ると信じて疑わなかった自分はなんと馬鹿なことをしただろうと思うと涙が出てきた。

ルノアはユウマを見た。

「お前、また泣くのか?」

「ルノア!」チグサはルノアを怒り肘鉄を食らわせた。

「ユウマ君のお母さんが亡くなったのは、リンゴのせいじゃない。おそらくあれはリンゴに似せた偽物。それに毒が仕込まれていたんだと思う」

「十家の罠か……」オウガが呟いた。

「それに僕がまんまと乗せられたんですね……」

誰も何も言わなかった。

ユウマは泣き続けた。

オウガがユウマの前のアップルパイが乗った小皿を手に取りユウマに押し付けた。

「あんなの聖なるリンゴでもなんでもない! そんなリンゴ。食っちまえ!」

ユウマはオウガを見て、差し出された小皿を手に持ち、ゆっくりアップルパイを一口、ほお張った。

「そうだ! 泣きながらでも食っちまえ!」

ユウマは口に入れたアップルパイを飲み込んでから泣きながら一言言った。

「旨い……」

「旨いか!」

オウガはユウマの肩に手をかけた。

ユウマは小皿に乗っている残りのアップルパイを食べた。

ディオンもチグサも微笑んでいた。


ユウマは食べ過ぎたのか、お腹いっぱいになって食べる手が止まった。

ディオンがチグサを見た。チグサは察したのかユウマに話しかけた。

「ユウマ君、お腹いっぱいになった?」

「どれもみんな美味しくて食べ過ぎました」

「じゃぁ、ちょっとみんなのところに行かない? ユウマ君のこと、みんなに紹介するわ。ユウマ君はもう私たちのファミリーなんだから」

ユウマはチグサに即されて、チグサと一緒にみんなのテーブルを回りに行った。

その姿を見送ったオウガがディオンに言った。

「ユウマを助けるとき面白い奴らに会った」

「面白い奴ら?」

「政治犯だ。十家に反抗する連中だ」

「まともに会ったのは初めてだったよ」ルノアが言った。

「どうやら数は増えているようだが十家を揺るがすような力はない。まとめ役がいないんだろう」

「リーダーか?」

「強いリーダーがいないと強い組織は出来ない」

ディオンはルノアに尋ねた。

「ハイメはなんといった?」

ハイメとは都にいる占星術を使った予言者。上級身分はもとより執政十家まで予言を聞きに来る。

「執政十家の星はまだ輝く。しかし、運命の子の星はより輝きを増したと言っていました」

「そうか……」

「父さんは、その運命の子があいつだと思ってるの?」

ディオンは何も答えなかった。

ディオン、ルノア、オウガはチグサと一緒にテーブルを回るユウマを見た。

ユウマはみんなに受け入れられ、微笑んでいた。


こうして宴の夜は更けていった。




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