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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

早くしろ。早急に急げ。頭痛が痛くなる婚約破棄

作者: 山田 勝

「で、殿下ぁ、エリザベス様が・・・私に意地悪を言います!」



 ここは貴族学園の講堂、今日は親睦パーティーの日である。


 この国の王子ヘンドリックの後ろにピンク髪の男爵令嬢サリーがプルプル震えて、殿下の袖を掴み背にもたれかかっていた。


 対して、殿下の前に、婚約者、公爵令嬢エリザベスが対峙していた。



「エリザベスよ。本当か?」


「はい、サリー様には、早急に寮に戻るように言いました。パーティーに参加するなと言いましたわ」

「そーだからね!私はお菓子食べたいのに、エリザベス様は意地悪を言うのだからね!」


「エリザベスよ。何故、そんな事を言うのか?」


「はい、だって・・・サリー様は、プルプル震えるくらいに具合が悪いのに、お菓子を食べたい理由だけで出席しております」


「ゴホ、大丈夫だからね!お菓子食べれば治るのだからね!」


「何だ。そうか・・・サリーよ。速やかに帰りなさい」


「やーだからね!」


「サリー様、果物を後で持っていきますわ。お菓子は、今度、私が公爵家のお菓子パーティーに招待しますわ」


「本当!サリサリ、マナー不十分だけど、招待してくれるの?」


「ダメです。治ったら、マナーの特訓ですわ」


「イケずだからね!ゴホゴホ」


「マクシミリアン先生、サリー様を保健室に連れて行ってから寮まで付き添いますわ」


「ああ、分かった」


「ナタリー様は、果物を適当に取り分けて下さい」

「はい、エリザベス様」



 ・・・何だ。こいつら、こんなんばっかりだ。婚約破棄をしそうでしない。

 私はマクシミリアン、26歳、自分で言うのも何だか魔道の天才、平民出身だが、魔道で名をなし貴族の仲間入りだ。現在は子爵だ。



 この男爵令嬢のサリーという女はおかしい。



 前に噴水に飛び込んだ事があった。



 ☆回想


「先生!見て下さい!」

「おい、そこ危ないぞ!」


 ドボーン!


 と飛び込んだと思ったら。


 バシャ!バシャ!シャ!


 水の上を走っている!



「どうですか?片方の足が沈む前に、もう一方の足を踏み出せば・・水の上を歩いているように見えませんか?ハア、ハア、ハア」


 駆け足で水の上を歩いていた。

 体力お化けだ。


 一体、何をしたいのか?




 また、階段の上に立ち。


「先生、見て下さい!周りに人が来ないか見て下さい」


「おい、何をするんだ!」



 ゴロゴロゴロ~と転がり。一番下まで落ちた。


 最後の階段で大げさに飛び。両足と片手をパタン!と床につけ。



「フン!三点着地!をすれば怪我しないのだからね!」



「サリー君、君は一体何をしたいのだ。そして、何故、それを私に見せるのだ」


「サリサリ~もわかんない感じ~」


 いつも、こんな感じだ。



 エリザベスとは8歳差だ。私は20歳の時に、王宮でご進講をしたときに初めて見た。


 まるで牡丹のような黒髪に、淡い青で意思の強さを感じさせる釣り目。


 聞けば、王太子の婚約者だそうだ。隣にいる奴か。

 王族なだけで、こんな美少女を・・・いかん。手に入らない者は想ってはいけない。

 私は恋心を封印した。


 しかし縁談が来たがこの年まで断ったのは、ひとえにエリザベスを想っての事かもしれない。



 研究室ではなく、学園の教師を希望したのも、エリザベスの近くにいたいがためかもしれない。


 せっかく、良い感じの当て馬の男爵令嬢がいるのに、ヘンドリックも、男爵令嬢も、親密にはならない・・・


 何故だ。


 ガラン!


「マクシミリアン先生!」


「何だ。ノックぐらいしたまえ」


「それが、第二王子ルードリック殿下が、大怪我をしました!」


「何!すぐに行く」



 ・・・・・



 ここは、二年のAクラス、ルードリック殿下は一学年のはずだが・・・



「はい、ご学友と、面白半分に、女子生徒の私物を持ち出そうとしたら・・・何故か、机の中に、魔獣用のワナのトラバサミが入っていたそうです・・・手を挟まれて・・・」


「誰の机だ?」

「はい、サリー様です」

 何、意味が分からない。


 結局、治療を受けた後、王宮に呼ばれ厳重注意。

 年頃の男子の度が過ぎたイタズラ・・・としばらく謹慎だ。サリーも学園に危険物を持ち込んだのでしばらく学園で掃除係になるそうだ。


 私は生徒指導だから一緒に行ったので分かった。


「ルードリック殿下、何故、このような事を・・」

「良いだろう!罰は受ける」


 いや、分かる。ルードリック殿下もエリザベスに恋をしていた。


 まさか、サリーの私物を壊して、エリザベスのせいにすれば、婚約破棄を誘発出来る。

 ヘンドリックは正義感が強いから・・・それをサリーが見越して、ワナを仕掛けたのか?まさか。学業の成績は無駄に良いが、世間知らずの小娘だ。



 サリーに何故、ワナをしかけたか聞いたが。


「サリサリ~わかんない」

「そうか、度が過ぎるぞ」

「サリーの乙女の秘密的な感じ?」

「乙女の秘密を学園に持ってくるな。鍵付ロッカーにしまっておけ!」




 要領の得られる回答ではなかった。




 サリーが学園の掃除で忙しくなってからチャンスが回ってきた。


 エリザベスの義妹メアリーが、頻繁にヘンドリックに会いに学園に来るようになったのだ。

 私も、ワザと二人を引き合わせた。

 会話が断片的に聞こえるが良い傾向だ。



「何、エリザベスがそんなことを?」

「お義姉様はズルいのです!」



 二人は空き教室で密会をするようになった。

 メアリーは12歳、ギリギリ、子供か?二人きりであっても、密会とは見なされないぐらいの年齢だ。



 日に日に、エリザベスの顔は暗くなる。



「エリザベス様、悩みがあれば聞きますよ」

「いえ、マクシミリアン先生、大丈夫です」



 そして、ついに、学園のパーティーで、エリザベスはヘンドリックに問い詰めた。

 ヘンドリックの後ろに義妹がいる状態だ。


「殿下、何故、最近、メアリーと一緒なのですか・・」

「エリザベスよ。義妹を虐めたな!」


「そんなこと・・」


「お義姉様はズルいの~!」


「ほら、義妹の証言が得られた。これは確かな証拠だ!」


「私はそんなこと・・」



 良い。私は一歩前へ出た。

 ヘンドリックが『婚約破棄』と言ったら、エリザベスを慰めようと・・・さあ、言え!ヘンドリックよ!お前は没落をするのだ!私がエリザベスと幸せになる。



「よって、我とエリザベスの婚約をは」


 私は早足でエリザベスの方に向かう。

 野次馬の生徒達は不審に思ったようだ。


「どいてくれ!」

「先生、危ないですよ」

「歩いて下さい!」



「・・婚約をはっきりするために、贈り物を贈る事にしたぁ!」

「パンパかパーン!」



「ええ・・・そんな。ズルイって」

「義姉様は、いつも私に贈り物をしてくれるのです!だからズルいのです。殿下にお義姉様が猫が好きな事を教えて、婚約記念日に猫のブローチが間に合うように職人に依頼したのです!」



 何だって、意味が分からない!


 ツル!


 私は足を滑らせた。何だ。床がピカピカだ。


 ズドン!後頭部を打ってしまった。


 薄れ行く意識の中で、生徒達の声が飛び込んで来た。



「サリー様が反省で、床をピカピカにワックスを掛けていたのよ!」

「マクシミリアン先生に誰か言わなかったの?」

「先生!後頭部から血が出ている!」


 やっと分かった。サリーが噴水に飛び込んだり。階段から落ちたのは・・・ルードリックと同じ事をしても無駄だと私に教えていたのだ。


 私は最期の言葉・・・を発して意識を失った。


「婚約・・・は・・・き・・・しろ」


 バタン!


「「「「先生!」」」



「グスン、先生は何をおっしゃったのかしら」

「婚約は綺麗にしろ?」

「途切れ途切れだけども、良い言葉だろうな」



 この日、一人のスパダリ候補が亡くなった。



 ・・・フフフ、こいつが、一番病的でしつこい。ゲームの世界だと、エリザベスを監禁までする。

 もし、奴が学園の先生に立候補しなければ、生きていけたのに、もっとも、それは生きていたと言えるのだろうか。と私、転生者、サリーは業を背負う宣言を奴の葬式で言う。


「マクシミリアン先生!そんな。とても、良い先生でした!グスン、こんなサリーにまで、気を掛けてくれて・・・グスン、先生が亡くなったのは、私がワックスをかけすぎたせいです・・」


「サリー様、そんなことはないわ。これは事故よ」


「グスン、グスン、とても良い先生でした!」


サリーは一言も嘘は言っていなかった。誰もその真意にまで気がつかない。




最後までお読み頂き有難うございました。

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