プロローグ〜ギフトスキルを得る〜
「貴様は今日限りで勘当だ! ファンブルグの名を汚した愚か者めが! 貴様は一人で抜け出して外に出た所を魔獣に襲われて死んだ事とする! 二度とファンブルグの地を踏ません! どこへなりと消え去れ!」
父親であるドロクにそう言われ、着の身着のまま放り出されて置いて行かれたリオン・ファンブルグは、大きく伸びをした。
貴族は12歳になると、教会で神よりギフトスキルを授かる……と言う決めごとがあり、ファンブルグ家は代々強大な戦闘スキルを得る事で武勇を示し、侯爵家としての地位を確立していた。ファンブルグ家の長男であるリオンもスキルを授かる為に教会に連れられ、神からギフトスキルを授かった。
「【ポーション作製】ってそんなに悪いことかな?」
ギフトスキル【ポーション作製】。その名の通り、魔力を使ってポーションを生み出すスキル。字面通り、それ以上でもそれ以下でもない。
今、リオンの右手にはそのスキルで生み出されたポーションが瓶の中に入れられている。
リオンはスキルを得た時に同時に使えるようになった【鑑定】を使用して、自分が作ったポーションを見てみた。
名称:ポーション
品質:伝説級
効果:全身の傷を完全に治癒し、体力も回復する
リオンには悪くないように見える代物だったが、ドロクはただのポーションだと吐き捨てた。戦闘に役立たないスキルを得た事がファンブルグにとっては前代未聞の事であり、ドロクにとってはその事実だけで勘当するに十分な理由だった。
ふぅ、と一息吐いて、リオンは空を見上げる。
これからはただのリオンだ。後ろ盾もなく金も無い。しかしリオンの口は微かに笑みを浮かべていた。
リオンにとって「ファンブルグ侯爵家時期当主」という肩書きは、利益よりも遥かに大きな重荷だった。
まずそもそもの話、リオンは戦い向きの性格とは言えなかった。競争を嫌うリオンは、毎度突っかかってくる弟妹達に程よく手を抜き、武術や魔法の鍛錬は決められた時間のみ、暇な時間は大体寝るか本を読んで過ごして来た。
そういう性格をドロクもファンブルグ流に矯正しようとはしたが、それが原因で妻に実家へ家出された上に、幼いリオンに論破された事もあって、リオンに文句を言うものはファンブルグ内には居なくなっていた。
ファンブルグだから魔獣を討伐しなければならない、ファンブルグだから他国の騎士よりも強くなければならない、ファンブルグだからファンブルグだからファンブルグだから……リオンはウンザリとしていた。
しかし、普段は半分隠居人のような生き方をしているリオンも、育てて貰った恩義には尽くそうと考える程度には真面目である。ギフトスキル次第で自分の今後を決める算段だったが、流石に【ポーション作製】は予想外過ぎた。
かくして、リオンは育ててくれた恩義を自分から捨ててくれた父親に感謝しながら、街へと向かっていくのだった。
「まずは金を何とかしないとね。飢え死には好みじゃない」
そう言ってまずは服屋に向かう事に決める。今リオンが着ている物は、侯爵家として相応しい豪華な物だ。売ればしばらくは苦労しない程度の金になるとリオンは当たりをつけた。
今まで生きてきたどの時よりも足取り軽く、リオンは服屋へ歩いていくのだった。
……それに気付いたのは、教会内でただ一人、リオンだけ。
教会内の誰もが気付いていない事。
この世で今までただの一度も、【ポーション作製】などというギフトスキルを得た人間は存在しない。
リオンが過去に見た、『ギフトスキル集』という本に一切記載の無い事を、全てのページ暗記していたリオンは知っていた。『ギフトスキル集』は、今まで発見されたありとあらゆるスキルが載っていた。俗にハズレスキルと呼ばれるものも例外ではない。
未発見のスキルと言うのはそれだけで大きな価値がある、スキルには発展性があるからだ。
落ち着いている状況であれば、教会内の誰かがその事実に気付いたかもしれない。
しかし怒り狂ったドロクの威圧感がそれを許さなかった。
そしてリオンは、あえて黙っていた。父親からの愛を多少は期待していたが、リオンの大方の想定通りドロクはリオンを捨てる事に決めた。
それで親子の情も完全に消え失せた今、リオンを縛るものは何も無い。
これが後に大騒動になってしまう事を、この時のリオンとドロクは知る由もないのだった。