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④あいみ

朝起きると、大雪警報が出ていて、学校は休みになった。


窓から外を見ると、生まれてこのかた見たことない白銀しかない景色が広がっていた。


窓開けるのは寒いし、どうせなら、厚着して、外の空気も吸いながら景色を心ゆくまで楽しもうと、あたしはまずおばあちゃんに許可を取った。


「ねえおばあちゃん、外見て来ていい?」


「危ないから、見るだけだでぇ?」


「やった!ねえデジカメかスマホ貸してよ」


「あいちゃんには珍しかねぇ。ウチらぁでもこんな雪は初めてやでの」


「じゃあなおさらキロクに残さないと!」


あたしはすぐにジャンパーを羽織り、お気に入りのマフラーも巻いて、毛糸の手袋をはめ、おじいちゃんのデジカメを引き出しから拝借すると、テンションマックスで玄関の扉を開けた。


が、そこにいたのは、見たことないネコで、あたしはビックリして一瞬固まった。でも、そのネコは、こちらを見るも、微動だにせず、そこに座っている。


あたしはそろそろと近づき、話しかける。


「どうしたの?寒いの?」


背中を撫でてみる。何も抵抗しないけど、なんだろう、、絶対動かないぞって意思を感じる。


すると、そのネコはバッとこちらの顔をまじまじと

見てきた。ネコにまじまじと見られると、その半月型の瞳孔に、恐怖を感じ、寒さとは別の鳥肌が立つ。


するとそのネコは自分の鼻の辺りを前足でちょんちょんと叩いて、「のあ」と言った。


「なまえ?なまえがノアちゃん?そっか、ノアちゃんよろしく。」


ノアと名乗ったネコはコクリと頷き、アゴであたしを指し示す。


「あたしはあいみ。やくぎり あいみって言います」


ノアちゃんは、ペコリとでも効果音がつきそうなくらい、綺麗なお辞儀をした。


あたしは最近シンって言うネズミを半分ペットだと思って世話してたんだけど、不思議なことに言葉が通じてる、思いが通じてると思うことがあるし、それがだんだん確信に変わってきてたんだけど、


今度はネコと会話できてるみたい。なんなのだろう。

このノアちゃんとシンだけが特別なのか、あたしが特別なのか、両方?


その直後、ノアちゃんは立ち上がって、お腹の下にあるものをあたしに見せるように、その場から一歩下がった。

そこにいたのは、見紛いようもない、あたしが愛着を持ってペットだと思って接してた、シンの姿だった。

でも、シンは見ただけで痛々しいほど、水に濡れて、体が冷え切っているのがわかった。


少し、ネコがなんでシンを腹の下にしていたのか、混乱したけど、あたしはデジカメをその場に置くと、毛糸の手袋でシンを包んだ。


びくともしない、冷たい小さな命、

灯火が消える、なんだか不思議な切なさと寂しさ、恐怖、色んな感情がないまぜになってあたしを襲った。初めての感覚だった。

ノアの目的はすぐにわかった。


あたしはシンを抱いて、回れ右をすると、暖炉のある部屋まで一直線に走った。


おばあちゃんが、何か言ってる


「ごめん、おばあちゃん!今は、あたしのやってることに、何も文句言わないでほしいの!」


それでもなんやかんや言ってる、けど、あたしは後で聞くから!とおばあちゃんを別のストーブある部屋に行ってもらった。


気が付くと、ノアちゃんが足元にいた。いつの間に入ったのこの子。でも、なんだか、すごく心強い気がした。シンの命を繋いできてくれた気すらした。あたしにバトンを渡すまで。


あたしは薪を暖炉の中にいくつか放り込んで、近場にある乾いたタオルでシンを拭いて、暖炉の火に近すぎないようにしながら、暖炉の前に座って、あたしの手の中で温め始めた。


そこへノアがやってきて、シンを、あたしの手にもつかえながら、ペロペロとなめてくる。なんでか、全然くすぐったくないの。なんでか、とっても重い行為な気がしたの。止めちゃうのは、ノアの気持ちを止めるような気がした。だから、そのままにした。


すぐ気が付いたんだ、あたしと、ノアは、同じことをしているって。

ペロペロと、シンのこと、なめる度に、なぜかちから強さが増してく。あたしは、力を込めたら、シンが苦しいだろうから、こうやって包みながら、祈ることしかできない。


部屋には、薪が爆ぜるパチパチという音と、時計が時を刻む音がカチコチと響くだけだった。







どのくらい時間が経ったんだろう。


気が付くと、あたしは身動きができないまま、

頬に涙が伝うのに、気が付いた。

ノアがペロペロとずっとシンのこと なめてるけど、

表情がさっきとは、違うの。

なんだか、遠くを見てるの。

諦めたくないのに、、って、、なんだかその先のノアの思ってること、考えたくなかった、、

でも、わかってしまったのかな、、あたしも


涙が、、


そんなわけないって、頭は反発するのに、涙が溢れて止まらない、、どうして?答えに向き合いたくない。でも、、


手の中で、この小さな小さな、でもたしかにここに脈打ってた命が、この温もりが消えて、なくなる、、


もう、温かく戻ることはないって、なんでか、わかってしまう。


この感情の名前は知らない、、知りたくもなかった、でも、目の前で起こってて、忘れちゃいけない感情な気がする。


ノアちゃんが、なめるのをやめて、あたしの足の横にピッタリとくっつくと、あたしの足に頬ずりして喉をゴロゴロ言わせながら、座り込んだ。

尻尾だけが、床を何度か強く叩いたけど、ふてくされたように静かになった。あたしにはぴったりくっついたまま。

余計涙が出てきた、なんで、、、


初めて会ったけど、シンに対する想いは同じだってすぐにわかった、だからあたしの側にいてくれる理由も、なんとなくわかる。ノアちゃんしか、あたしの泣いてる理由をわかってくれる存在はいないんだって。


あたしとノアちゃんは、それからもしばらく力なく座ってた。


けど、突然ノアちゃんはあたしの手から、すっかり冷たくなったシンを取り上げると、暖炉の火の中に自分から入って、シンを置きに言った。

あたしは、その行為が、止めるべきものじゃないと、なんとなくわかったし、止めたくても止められないようにしたノアの行動には、理由があるように思えた。


絶対熱いのに、熱いそぶり見せずに、暖炉から再び戻って、煤のついた顔のまま、そのまま暖炉を見つめてた。

あたしも呆然としたまま、一緒になって見つめてた。


しばらくしたら、火も下火になり、そこから、小さな骨が見えた。ノアはまた暖炉の中に入って、時々熱さに跳ねながら、何回かに分けて骨を咥えて、出て来てを繰り返し、シンを拭いたタオルの上に、1つずつ並べた。


しばし名残惜しそうに、眺めた後、あたしにペコリと綺麗なお辞儀をした。

シンの骨を大事にしなさいってことかな?と思って

こくりと深く頷く。


それで安心したのか、ノアちゃんは扉の方へ歩いた。

あたしはなんとか立ち上がって、扉を開けた。

おばあちゃんがこちらを見て、すごい心配してくれてる言葉を向けてくれる。


気が付くと、ノアちゃんは消えてた。

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